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特徴

2015
Issue 55 (Spring 2015)
マリアナの沈没船
By Tim Rock & Elaine Kwok

 文・写真:ティム・ロック、エレイン・クウォック

 

熱帯に沈む戦争の残骸(ざんがい)

戦時中の沈没船の話になると、かならず話題にあがるのがミクロネシアのチュークだ。第二次世界大戦の沈没船が50隻ちかく沈んでおり、やわらかなサンゴと熱帯魚にいろどられた残骸を見るのにもっともおススメなエリアのひとつである。

そして沈没船マニアもしっかり楽しめるマリアナ諸島とグアムもはずせない。丘陵(きゅうりょう)と白い砂浜が美しいグアムは、タモン湾の中心地として観光客にも人気のエリアで、世界各国から毎年130万人が訪れる。南国のバケーションには最高の場所である。

しかし72年前、グアムは第二次世界大戦に巻きこまれる。そしてその残骸がいまもジャングルや海底に放置されているのだ。海底に残された船や、そのほかの乗り物は時とともにサンゴにおおわれ、人工リーフとなる。

グアムにはアプラ湾に5つの大きな戦争残骸エリアがあり、ハーレーのバイクから水陸両用トラクター、飛行機などが60種類を超える残骸が残っている。

第一次世界大戦のドイツ船の上に、第二次世界大戦の日本の沈没船が重なっているポイントは人気だ。ふたつの大戦の遺物(いぶつ)である船は船尾で接触しており、歴史をふり返らせてくれると同時に、いまではさまざまな魚類やサンゴの住処(すみか)となっている。

 

SMS コーモラン

コーモランと乗組員は、アメリカがドイツに宣戦布告するまで、グアムの湾内に平和に停泊していた。ドイツ人キャプテンは第一次世界大戦がはじまってすぐ、捕虜(ほりょ)にされるのをおそれて船を沈没させ、乗組員の一部は船とともに海へと沈んだのだった。

彼らは東アガナの海岸墓地に埋葬された。そのすぐそばで上に乗っかっているのが、日本の東海丸で、世界で唯一、ふたつの大戦の沈没船がおなじ場所に沈んでいる珍しいダイビングポイントである。東海丸はコーモランの船尾から見にいくことができる。

ガイドをつけるのが鉄則(てっそく)だが、右舵側から船内に入って機関室を見ることができる。機関室のハッチは開いているので、船内貫通ダイビングに慣れているダイバーは、エンジンや通路を探索することも可能だ。

船の深部には、足つきのバスタブまである。船は横向きになっているので感覚がマヒする可能性もあるので注意が必要だ。1909年製の船で、古めかしいデザインがひじょうにおもしろい。

船内貫通ダイブに慣れていなくても、このクラシックな船は上から見るだけでもじゅうぶん楽しませてくれる。コーモランには、長い年月を経ているにもかかわらず、なぜか サンゴがあまりついていないので、1900年代初頭のその姿をそのまま見ることができる。減圧は東海丸の上でできる。

 

東海丸

東海丸は1930年につくられた日本の汽船で、19431月アプラ湾に入港。当時はまだグラスブレーク・ウォーターはなかったので、潜水艦が湾のすぐ入口まで近づくことができた。海上で、アメリカの潜水艦フライングフィッシュによる魚雷攻撃に遭(あ)い、なんとか修理のためにグアムへやってきたのだった。7か月後、スナッパーという別のアメリカの潜水艦の魚雷にふたたび攻撃されて沈んでしまったのだが、おなじ場所に沈んでいたのが、第一次世界大戦のドイツ戦SMSコーモランだったというわけだ。

東海丸はコーモランより浅いが船体は長いので、全貌(ぜんぼう)を上から見るにはまる一回分のダイビングが必要だ。

大きな船橋(ブリッジ)や船倉も多く、コーモランを見たあとの2回目のダイブにはもってこいである。貫通ダイブになれているならば、中に入ってギャラリー、トイレ、流し台やタイル張りの床なども見てほしい。 

ただ、シルト質なので注意は必要だ。機関室などへのアクセスはひじょうに難しいので、トレーニングを受けたダイバーでなければ入らないほうがよい。

船首は色とりどりのカップサンゴにおおわれ、ナイトダイブにも最適。ブルーの水をたたえた船にはさまざまな魚も見ることができる。

 

木津川丸

上記の双子の沈没船のすぐ近くには、機械式の弓、ボーガンがついたまま垂直に沈んでいる船がある。メインの輸送用チャンネルの真下に沈んでいて、ダイバーは前方のマストから、船首へと潜る。船首はまだしっかりとついていて、戦争遺物の写真撮影を試みるフォトグラファーにはひじょうに魅力的なスポットとなっている。

装甲(そうこう)塔に実弾の箱が置いてあるボーガンもあり、箱には弾を取りだす穴がいくつかあいており、覗(のぞ)けばタコが住んでいるのが見えるだろう。

マストへもどり、船橋部分へ泳いでいくと、バットフィッシュやハタタテダイといった魚が視界に入ってくる。漁船や貨物船のアンカーのチェーンにからまった結果できた、戦争とは関係のない損傷(そんしょう)などもある。

船尾は攻撃によりほぼ破壊されている。船橋からゆっくり上昇してキングポストや前方のマストへと移動すれば、そこはサファイヤダムゼルやスポンジサンゴなどが生息する、小さなリーフになっているのがわかるだろう。

アプラ湾はアメリカから独立後、中心地となっているにぎやかなエリアで、ダイバーには宝の山だ。

 

アメリカンタンカー

アメリカンタンカーは防波堤内で人気のスポットのひとつで、魚だらけのこの沈没船は第二次世界大戦の残骸である。大戦後、グラスブレーク・ウォーターという防御のための半島の建設とともに、おそらく故意に沈められたのだろう。

戦前、この防波堤エリアはサンドバーとコーラルリーフがあるだけだったのだが、岩やがれき、軍の残骸など使えるものはなんでも使って、この長い半島を建設した。湾内の半島北部はすべて戦後につくられたもので、これにそって沈没船や将官艇(しょうかんてい)などが沈んでいる。

船にむかってブイのラインを降りると見えるのが、船橋と巨大な舵(かじ)で、ガイドがここで魚にエサをやることが多いので、ダイバーを迎えてくれる魚の種類も豊富である。

船内は巨大で真っ暗なため、船内ダイブは不可能だが、さまざまな形状のデッキ部分には魚が、船首にはサンゴがいっぱいで、ぜひ象の耳みたいな形の、大きなスポンジサンゴを見つけてほしい。小動物好きにおススメなのは、タンカーの脇に育っている被嚢(ひのう)類(ホヤなど無脊椎動物の総称)の上にいるワレカラ(エビなどの甲殻類のひとつ)だ。

タンカーの横のリーフも一見の価値ありで、ウミウシでは最大1.8kgのものが見つかったこともある。リーフの上と船の横にはサンゴも元気に育っている。

アメリカンタンカーの西側にはシービージャンクヤードがある。グラスブレーク・ウォーター建設時のゴミ捨て場だ。ブルドーザーや大きなパイプは、魚や軟体動物の住処になっている。

イントの上のほうは浅く、長時間のダイブにも適しており、エンジェルフィッシュや、さまざまなチョウチョウウオ科の魚、フグなど、豊富な魚を見ることができるだろう。

 

 

マリアナの難破船

ロタは北マリアナ諸島にある島で、水の透明度と自然のすばらしさで有名で、真っ青な水がダイバーたちを待っている。

ロタはマリアナ諸島ではもっともフレンドリーな島で、島の人々はいつも笑顔だ。すれちがう人はかならず笑顔であいさつしてくれるが、それが島の伝統である。

グアムから飛行機でたった30分、ダイビング、ハイキングはもちろん、休暇にも最適。自然と海の美しさ、そしてチャモロの文化を垣間(かいま)見ることができるすばらしい島である。

 

松運丸とセブンスクリュー 

第二次世界大戦中、日本の貨物船だった松運丸は、何十年もロタのダイビングスポットとして人気だが、年月を経た船は、古びてきてはいるが、いまも美しい海洋生物をひきつけ、大きな船首も健在だ。船は直立で、斜めになっており、船首は水面高くに位置している。たいてい水面から400階建ての長さがある船の全貌(ぜんぼう)を確認することができ、すばらしい眺めである。

もうひとつの船がセブンスクリューだ。スポーツダイビングのために沈められた船だが、かつては中国の河を渡っていた。密入国取り締まりの一環で差し押さえられたもので、まわりの海底はガーデンイールの宝庫になっている。ヨゴレザメやマンジュウダイも、この沈没船にはおなじみの魚だ。

 

サイパン

サイパンは北マリアナ諸島の首都で、多くのアジアの空港から気軽に行ける距離にある。サイパン西海岸にあるPICホテルには大きなウォーターパークがあり、近海に沈んだ黄金の船、マニラ・ガレオン(16〜19世紀に活躍したスペインの貿易船)のレプリカが目印だ。黄金目当てだろうが、豊かなマリンライフが目当てだろうが、サイパンの海にはたくさんの秘密が隠されている。

透明度の高い水で知られるサイパンだが、ダイバーに最近人気なのが、マナガハ島のトビエイの群れだ。沈没船や戦時中の航空機の残骸が多いのはタナパグ湾になる。

 

タナパグ

タナパグには、ヨゴレザメやウツボに囲まれた第二次世界大戦の航空機が浅い海に沈んでいる。大きなプロペラが海底の砂から突きだしているのが見えるだろう。浅い海底には沈没船もいくつかあり(こちらも松運丸という名前の船がある)、ヒメジやフエダイが泳いでいる。冷戦時代、CIAによって標的の練習に使われていた一隻はダメージがかなり大きいが、自然のリーフとなっていて、大きな魚群のほか、船の下で眠るサメやトビエイが横切るのを見ることができるだろう。

グアムと北マリアナ諸島はダイバーには最高の旅を約束してくれる。サイパンのチャンネルを挟んで反対にあるティニアンもおススメだ。歴史と自然をぜひ楽しみに訪れてほしい。

グアム在住のティム・ロックはフォトジャーナリストとして世界で活躍しており、彼の作品はGetty Imageに公開中。『LONELY PLANET』の著者で、グアムで出版社を経営している。

ウェブtimrock.photoshelter.com

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