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特徴

2012
Issue 45 (Autumn 2012)
Manta Madness in Okinawa Dreamland
By Tim Rock

 「沖縄でダイビングするなら、石垣島に行かなくては。マンタたちはそこにいる」。

 
 「沖縄でマンタに会えるのは石垣島!」。以前から噂は聞いていた、魅力的な名前のダイビングスポット、マンタスクランブルにとうとうやってきた。
 
 海に入ってギアを調節し終えた僕にカメラを手渡してくれたのは、石垣島にあるダイビングショップ海講座のダイブマスターだ。海講座のオーナーは、じつはマンタスクランブルのポイント発見者でもある。
 
 
 準備が整って海の中をのぞいた僕の目に、すぐそばで優雅に泳ぐオニイトマキエイの姿が飛びこんできた。サンゴに囲まれたクリーニングステーション(クリーニングする魚が住んでいて、体をきれいにしてもらうためにほかの魚が集まってくる場所のこと。とくにマンタなどの大型魚は確実にやってきて、クリーニングされている間、静かにしているため、観察するには絶好の場所)をマンタたちはゆったりと旋回していた。
 
 僕はそっと海底へ降りていって、マンタの近くに陣取った。マンタたちはダイバーに追いかけられるのを嫌う。でも、邪魔にならないようにリーフの上で静かにしていれば、マンタは嫌がることはない。小さなベラが、マンタのエラの中や、はばたく巨大な胸ビレを掃除している様子が見える。ゆっくりと旋回したあと、しばらく動かずに小魚たちを従え、大きくエラを開くマンタたちはとても気持ちよさそうだ。マンタのこの行動は、ほぼ毎日繰りかえされるという。
 
 「これが石垣島のダイビングの醍醐味だ」。僕は海中で、「この小宇宙を見るために、みんな沖縄にやってくる」とひとり納得していた。
 
 
 今回の旅は、アウトドアジャパンの編集長ガードナー・ロビンソンと一緒だった。青空の広がる午後、自然豊かな南国の楽園、石垣島をめざして那覇市を飛び立った。45分後、八重山諸島上空にさしかかると、眼下に広がる紺碧色の海は鮮やかなコバルトブルーのサンゴ礁の景色へと変わっていく。空から見えるサンゴ礁やごつごつしたクリフやサンドビーチといった豊かな沿岸の地形に、ますます期待が膨らむ。
 
 いよいよ石垣島に近くなると、飛行機は島の東海岸を旋回して、サトウキビ畑や田んぼの上空を飛んでから島の大地に降り立った。空港から車ですぐにあるホテル日航八重山がこの日の宿泊先だ。レストランやバー、ショップなどが軒を連ねる島の中心部からほど近く、とても便利な場所にある。親切なスタッフの案内で部屋に荷物をおろすと、石垣島での最初のサンセットを拝みにまたすぐ部屋を出た。
 
 石垣は人口約5万人、それほど大きな島ではない。島に住む人たちは少しシャイだけど、とても温かい。中心部をぶらぶらしていると、たくさんの飲食店が並ぶ賑やかな通りの近くで、野球をしたり自転車に乗って遊ぶ子どもたちの微笑ましい姿にも出会える。車で島を周れば、忙しそうに動いている人たちはここには誰ひとりいないことに気づくはずだ。都会とは違って、のんびりとした島独特の時間の流れに心が癒されてゆく。
 
 
 『涙そうそう』で有名な歌手の夏川りみは、この島の出身なのだそうだ。起伏の多い自然豊かな石垣島は、サイクリストにとっても魅力的な場所だ。なにせ、ツール・ド・フランスで活躍する新城幸也選手をうみみ出した島なのだから。
 
 サザンゲートブリッジから夕陽を眺めた。橋のなかほどに飾られたマンタ像が、ダイビングがいかに人気で、かつ重要な観光の担い手であることをあらわしている。石垣島にはじつに120を越えるダイビングショップがあるというから驚きだ。とはいえ、ひとつひとつのダイビングショップはほとんど個人経営の小さなショップで、その数から想像するほど海の混雑はずっと少ない。
 
 仙台から遊びにきていた女性と話す機会があった。近くの西表島、竹富島、小浜島にも足を伸ばして、島時間を満喫しているという。去年の震災以降、海から距離を置いていた彼女は、学校の夏休みを利用して南の島を訪れており、大好きな海でまた過ごせることをとても喜んでいた。
 
 次の朝、さっそく僕たちも海に出ることにした。最初の数日間お世話になるのは、ダイビングショップ海講座。オーナーの園田真さんは石垣島ダイビングの先駆者のひとりで、とても優しく控えめな人物だった。初日、スタッフのミキこと安藤美紀子さんがホテルまで迎えに来てくれ、ショップでは国際色豊かなスタッフが元気に出迎えてくれた。丘の上にあるショップから西側を望むと、美しい川平湾の絶景が広がっている。緑に包まれたのどかな道をほんの5分ほど走ると川平の中心部に、そしてボートが待つホニフの浜へと出る。
 
 
 ここから少し行けばグラスボート乗り場があって、ダイビングはちょっとという人でも気軽に海の中を覗くことができる。湾の外に出て、左に進むとマンタと出会えるダイビングスポットへ、右に進めばサンゴ礁が美しいスポット、マクロの世界が満喫できる。海やサンゴ礁は、近年、世界的にさまざまな問題に直面しているが、沖縄もまたけっして例外ではない。たとえば、マンタスクランブル周辺のサンゴ礁はオニヒトデの大発生に直面した。オニヒトデはサンゴのポリプを食べる。自然発生は、サンゴの優占種の調節のためになるのかもしれないが、サンゴたちが回復するまで少なくとも数年は荒廃したサンゴ礁のままだろう。このあたりは台風の直撃による被害もあって、その爪痕は、人気のある米原ダイビングエリアの一部でも垣間見ることができる。しかし、ほとんどのサンゴ礁は健全な状態で、回遊するマグロから小さな小さなリーフフィッシュまで、ありとあらゆる海の生命を育んでいる。
 
 八重山諸島を形成する19の島々の周辺には、少なくとも65カ所の公認ダイビングスポットがある。石垣島周辺の多様な地形が、さまざまなコンディションの中でも楽しめるすばらしいスポットをたくさんうみみ出している。ダイビングサイトまでの所要時間は場所にもよるが、だいたい5分~15分あれば着く。
 
 
 この島のダイビングスポットは、アッパーリーフが特別にすばらしい。見わたす限りに広がったテーブルサンゴが、スターポリプやノウサンゴたちと一緒になってぎっしりとしたサンゴ礁を作り上げて、美しいトラウツボやさまざまな種類のウツボがクリフの間や小さな洞窟から顔を出す。ウミヘビ(好奇心旺盛で意外にも温和な生き物だけど、噛まれたらアウト)が甲殻類や色とりどりのウミウシたちを探して穴を出たり入ったりしながらうろついている。ダイブマスターのアコこと蔵下明子さんは魚を見つけるのがとてもうまく、水中モデルとしても大活躍してくれた。ウミヘビたちは、なぜかガードナーばかりを追いかけていたので、僕たちは安心だった。きっと彼のフィンの色がお気に入りだったのだろう!
 
 沖縄の海にはじつに900種を越える魚たちが暮らしているという。米原南という場所でのワンダイブで、僕は5種類ものクマノミ(もちろんカクレクマノミも)を見つけた。フグたちもあちこちに現れた。この辺りのサンゴ礁は、深いところでも水深10mほどで、ほとんどのサンゴ礁は水深6~7mのところに生息している。そのため、比較的長い時間ゆっくりと潜っていられるし、また透明度のある水を通して届く充分な太陽の光は水中撮影に最適だ。
 
 しばらく潜ってから、ガス抜きと休憩を兼ねてシュノーケリングを楽しんだりお茶したあと、僕たちはマンタスクランブルに向かった。このスポットの名前の由来について聞いてみると、「行けばわかるから」とのそっけない返事だったが、その言葉通り、すぐに納得するすばらしい景色に出会った。
 
 
 このスポットには立派なコーラルヘッドがたくさんあって、そのあいだは深い谷ができている。この大きなコーラルヘッドの上にそれぞれクリーニングステーションがあり、マンタが移動すると、ダイバーたちは、マンタの邪魔にならないように谷の部分をゆっくりとついていく。マンタとダイバーたちが行き交うその光景が、さながら海中スクランブル交差点のように見えた。
 
 ときには中層でマンタが真横を優雅に泳いでいく姿に出くわすこともある。ちょうどバディのガードナーが、スクランブルでの最初のダイブでそうだったように。彼はすぐに機転をきかせ、下降を中断しその場にとどまり、やおらGoProを取り出して通り過ぎるマンタたちの映像を撮っていた。
 
 このあたりでは、いろいろなイソギンチャクや魚たちとも出会うことができる。谷の先には、べつの浅いマンタポイントに続くルートがあって、晴れた日にここでマンタたちの写真が撮れたら、特別な1枚になるだろう。リーフの上を浮遊するマンタと海中に差し込む光のシャワーとの見事なコラボだ。
 
 近くにあるべつのスポットもまた、いい写真を撮るには絶好の場所だ。崎枝ビッグアーチでは、角度さえ気を配れば、かなり印象的な照明効果が得られるはず。ここにも通り抜けられるたくさんのスイムスル―があって、潜るだけでも楽しいスポットだ。
 
 
 2回のボートダイビングを終え、昼食を食べるために一度海講座に戻ってきた。1日目にご馳走になったタコサラダも、次の日の沖縄そばもとてもおいしかった。新鮮なフルーツや野菜をたっぷり食べてお腹いっぱいになると昼寝の誘惑にかられたが、絶好のマクロ写真撮影ポイントが近くにあると聞いた僕たちは、今日3回目のダイブに出かけた。
 
 ダイブショップが、水深15メートルほどの砂地にヤシの枝など天然の素材を沈めて作ったポイントがある。この人工漁礁には珍しい魚や海洋生物がたくさん集まってくる。ニシキフウライウオやカエルアンコウ、ゴンベなどなど、魅力的な被写体が続々と登場する。その横の砂原ではウミヘビやヤッコエイが狩りの真っ最中だった。ここでは、海講座スタッフでマクロのプロ、ハーヴェイ・レオンがサポートしてくれた。マレーシアから来たダイブマスターのハーヴェイは中国語も堪能で、年々増加する台湾からの観光客への対応を受け持っている。秀でたフォトグラファーはみんな被写体を見つける観察力を持っているもので、ハーヴェイのおかげで僕も山ほどの写真を撮ることができた。この辺のこじんまりとしたクリーニングエリアでは4種類のサラサエビ、シャコエビ、ブレニィやハゼ、ヨウジウオやカサゴといった面々が暮らしていた。
 
 この砂地からリーフに向かって泳いでいくと、急いで食事をすませようとミノカサゴやユカタハタの周りに集まったグラスフィッシュや、ほかの定番掃除屋のメンバーたちの群れを見つけた。岩や崖といった地形も、あまり見る機会がない小さなウミウシの観察にぴったりの場所のようだ。あまりにもマクロなウミウシたちを見つけて、僕は慌ててアクアティカ・ジオプターレンズを取りつけた。
 
 
 次の日、僕たちは高級感漂うクラブメッドリゾートへと向かった。このリゾートのロケーションのすばらしさには、もう言葉も出ないくらいだ。プライベートビーチのリーフはマンタスクランブルやマンタポイントに続いていて、ボートに乗って2分ほどで僕たちはマンタたちと再会していた。リゾート内にあるダイビングセンター、ユーロダイバーズのはつらつとしたスタッフと一緒に、マンタポイントで楽しい1日を過ごさせてもらった。その日の僕のダイブマスター、エイコ・バッソ・オザキさんは、アカヒメジの群れやいろいろな魚を見つけて教えてくれた。
 
 クラブメッドではダイビングのほかにもジェットスキーや、シーカヤック、ウィンドサーフィン、シュノーケルなどなど、いろんなアクティビティが体験できる。白いパラソルの下で豪華なビーチチェアに寝そべって、ただのんびりと目の前に広がる景色を楽しむのも、このうえない贅沢だ。
 
夜の石垣島もまたおもしろい。島の人口が集中する中心部に出かければ、とても賑やかな繁華街がある。ラフテーや新鮮な鉄火巻きをつまみに生ビール(もちろんオリオンビール!)で乾杯しよう。土産屋もたくさんあるので、センスのいい手作りの民芸品を選んで巡るのも楽しい。
 
 
 ダイビングやシュノーケリング以外にも、この島にはまだまだ楽しみが山ほどある。そびえ立つ断崖からパラグライダーで飛翔したり、誰もいない美しい海でカイトサーフィンを楽しんだり、台風のうねりが届けばサーフィンだって楽しめる。のんびり派の人は、スタンドアップ・パドルボードでマングローブが生い茂る川を上り海に出たり、自転車を借りて島をサイクリングするのもいい。熱帯の森へハイキングに行くのも、また桴海於茂登岳(ふかいおもてだけ)を登るのもすてきな思い出になるだろう。
 
 御神崎灯台から眼下に広がる紺碧の海の景色は、今回の旅のなかでもとくに印象的な美しさだった。海を背に灯台を見上げると、美しい渓谷の向こうにそびえ立つ屋良部岳(やらぶだけ)の姿を見ることができた。
 
 
 もっともっと時間が必要だったことは間違いない。石垣島には数えきれないほどのアドベンチャーがまだたくさん眠っており、僕たちが体験できたのはそのほんの一部にすぎない。石垣島滞在最終日、この島に長く住んでいる津村力さんが、島の北側にある明石ビーチに連れていってくれた。そこは手つかずの自然が残る広い砂浜の美しいビーチで、青と緑のタイルに彩られた遠浅のサンゴの海はじょじょに濃い藍色に染まり、ここでしか見ることができない絶景が広がっていた。
 
 津村さんのカイトサーフィンが海面をなでる様子をカメラに収めながら、僕はあたりに漂う大自然の穏やかさに圧倒されていた。波が割れ、風が吹き、ただ果てしなく美しい。陸も、海の上も下も、石垣島はまさに自然がうみ出した夢の国だった。