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特徴

2017
Issue 62 (Winter 2017)
日本のフツーじゃないスキーヤーたち
By ウイリアム・ロス

Photos by Grant Gunderson

カモフラージュのウェアとオリーブ色のヘル メット。細長いスキーは無地の白で、ファ イバーグラス製のストックは太く、その先のリン グは巨大だ。皮革の登山靴とビンディングは革ひ もで固定されている。もしそんな出で立ちのス キーヤーがいたらだれだって見過ごしにはできな いだろう。「でも私たちはただのスキーヤーです よ」とササキ・リョウジは主張する。

 スキーのエキスパート・インストラクターであ るササキ・リョウジは、日本の自衛隊の上級曹長 でもある。この国防軍(この言葉がいずれ適切に なるかどうかはミスター・アベとミスター・トラ ンプのこれからの思惑にかかってはいるだろうけ ど、今のところはそう言わせてもらおう)の隊員 がかならず取り組まなければならない訓練、それ は雪を滑ることだ。

 山の多いこの島国では、ほとんどの島で雪が降 るためにスキーの技術習得は自衛隊員にとって必 須科目。つまり、楽しみで丘を滑り降りようとす る一般スキーヤーとは目的が異なる。

 「目標は最低でもSAJ(全日本スキー連盟)の3 級を取ることなんです」とササキは説明する。「で も装備が違うので習得はなかなか難しいんです よ」

 雪国ではスキーでの移動手段がもっとも有効な のだと彼はいう。だから体重が太ることは許され ないし、標準装備の軍靴などで雪に対応できなけ ればならないのだ。

 自衛隊の現行のスキーは長さが170cm、ティッ プとテールの幅は100mm で中心が95mm だと いう(最新のスキーと比較すると固い雪用はもっ と中心がくびれていて、粉雪用はもっと幅広)。 このスキーは第一世代のスキーヤーたちが使用し てものと大きな違いはない。つまり木製で形も真 直ぐ、長さも1 種類だけ。

 私がいろいろな人から聞いた話では、昔は木製 のスキーをマキにして燃やし、ビンディングに付 いていた革は茹でて食べた。だがそれについてサ サキは笑い飛ばした。

 「第二世代のスキーは真直ぐだったけれど、ファ イバーグラス製に代わりました。第三世代では大 きな変化が起きました。まだ4 年ほど前のことで す。見た目にはそれほどわかりませんが、サイド カットが代わってスキーの習得が以前よりも簡単 になったんです」

 自衛隊のスキーには鱗状のベースが付いてい る。隊員たちはダウンヒルを学ぶだけでなく、斜 面を登ったりするクロスカントリーもおこなえる ようにならなければならない。

 「見た目は良くないでしょう」とササキ。「でも 歩行には最適なんです。つまり滑り降りる能力は 低いんです。最近ではこういうスキーをだれも使 いませんね。つまりこのスキーは練習がたくさん 必要なんです」と彼は笑う。「だから全国のスキー エリアに行って練習をたくさん積むんです」

 この貴重な技術情報は平日に日本中で見かける あの不思議なグループの解明に役立つだろう。そ の最初のヒントはオリーブ色のトラックが駐車場 の隅の目立たないところに置いてある。それをよ く見かけるのが妙高高原のエリアで、そこは日本 海に面した上越市からも簡単にアクセスできる。

 細くて短いスキーに乗ってゲレンデのスロープ にたたずむ彼らは、まるで黒装束を身につけた大 隊で驚くに値する。彼らはもし雪について経験が なければ、お約束どおりのターンで手をバンザイ させてバランスを崩したり後ろ向きに滑ったかと 思うと、踵を上に向け顔面から雪に突っ込んだり、 または転げまわったりする(この光景はテレマー クスキーに挑戦した者ならば想像しやすいだろ う)。

 「基本的にはSAJ のトレーニングを基本として います。でも初歩のトレーニングは装備が最新で ないために過酷なものとなります」とササキ。「ま ずはストレッチを入念におこない、次はバイン ディングの装着方法を学びます(何本もの革ひも で靴のつま先に結びつける)。装着が終わったな らばそれで周囲を歩き、それからウエッジポジ ション(八の字)を学びます」

 だが隊員全員が初心者で坂を転げ落ちるという わけではない。たとえばササキは北海道出身だ し、彼のように子供の頃にすでにハードブーツを 所有していたり、スキースライダーで斜面を滑っ た経験をしている者もいるからだ。彼らは道具が 古くさいスタイルでも、ドロップニーのテレマー クターンができる。また大きなバンプは膝を合わ せた伝統的なやり方で滑り抜けたりする。

 自衛隊のトップスキーヤーたち500 名は、サ サキのようにSAJ の試験をパスしてインストラク ターやエキスパート・インストラクターのレベル に達している。だから彼らは自衛隊を除隊しても 日本のどこでもスキーを教えることができる。さ らにエキスパートレベルでは、雪崩や救急トレー ニングなどを含んだコールド・ウェザー・コンバッ ト・トレーニング・スクールを受講しなければな らない。

 「これは本当に寒くて過酷です」とササキは回 想する。「受講しても40% は挫折します」

 スキーの練習をひとまず終えると、私たちは屋 内に入って暖をとりDVD を観賞する。「ちょっと したPR みたいなものですけれど」と彼は控えめ に言うが、プロフェッショナルスキーヤーのよう なその映像に彼は自信があるようだ。そのなかで インストラクターたちは現代ではスキーとは言え ない代物と役に立たなそうなバインディング、そ して締まりの悪いブーツで空を飛ぶように鮮やか なスキーを披露している。

 それは日本のスキー場ならば一般スキーヤーが 日常的におこなっていることだけど、でも自衛隊 員がそんなハイレベルのスキーを披露するところ を見ることはないだろう。もし見られるとしたら、 それはコールド・ウェザー・トレーニングの場所 のみである(たとえば北海道)。

 でも、ビギナーの部隊のなかに、その服装はお なじでも斜面を自信ありげに滑り降りクリーンな 弧を描く隊員を見ることがあるかもしれない。そ れは彼らのカモフラージュで、特定の人物を偵察 の目からそらす意味も含まれている。彼らは寡黙 で礼儀正しく常に冷静だ。それは自衛隊の姿 勢そのものだといえる。

「とにかく私たちは軍事 的スキーヤーですから、あまり一般の人々からは 注目されたくはないのです」とササキは説明した。 そして平和主義国家の国防軍というユニークな存 在の立場からの考えにたいしては「(軍隊ではな いという視点に立てば)こんな格好に見えてもた だのスキーヤーだよとも言えますよね 。」

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