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特徴

2008
Issue 22
Bears in Japan
By Oscar C. Huygens

日本について思い浮かべるのは、日本車、カラオケ、漫画、最近でれば鯨の問題もある。では熊はどうだろう? 熊を思い浮かべる人はいないだろう。この国には、まだたくさんの熊がいる。正確には2種類、ツキノワグマとヒグマだ。

これまで、ツキノワグマ (Ursus thibetanus)は、九州、四国、本州に、ヒグマ (U. arctos アメリカではグリズリーと呼ばれている)は、北海道に多く住んでいた。しかし近年、次第に生息範囲は狭くなり、九州のツキノワグマは 1950年代に絶滅した。四国の生息範囲も非常に限られている。本州には、1万5000頭以上のツキノワグマがいるとされているが、孤立した生息地での頭 数が激減している。北海道に住む1000~2000頭のヒグマは、現在山岳地域にのみ生息している状況だ。しかし、日本の植生と地形は複雑多様なため、熊 の数を正確に把握するのは難しく、個数統計はあいまいなことが多い。

熊と人間。この国の野山や養蜂地などで両者の接触や衝突が絶えない。熊は、人間が食べるものであれば何でも食べると考えてよいだろう。残念ながら、日本では、熊の保護や対立を防ぐ方法に関する研究は、積極的に行われていないのが現状だ。

また、生きている熊には経済的価値がないが、死んだ熊には価値があることをご存知だろうか。何千年の間、熊の胆嚢は、漢方薬に利用されてきた。製薬会社 は、熊の胆嚢に含まれている有効成分を科学的な合成により製薬しているが、患者はやはり自然の薬を好む。これは、熊を殺さない被害対策よりも、捕殺による 対策がいまだに行われているひとつの理由でもある。
被害対策として、毎年1000頭以上もの熊が捕殺されている。加えて、狩猟シーズンには、さらに1000頭あまりが捕らえられる。これらの数は膨大な数 に思えるかもしれないが、過去数十年間、こうした死亡率にもかかわらず、どういうわけか日本の熊の生息数は変わっていない。これらの熊の多くは、存続また は絶滅の危機にある。

さらに問題なのは、各地域の生息数にかかわらず行われてきた、捕殺という被害対策が期待するような効果を上げていないのだ。毎年、クマとの接触で人が死 傷し、作物被害は何億円にも上る。すると地元の住民はさらなる捕殺を望むことになる。より効果のある方法が必要なのは明らかなのに。残念なことに、いまの ところ政府や自治体は熊の管理と保護に対する研究と対策に十分な予算を計上していない。

現状の方法が成り立っている背景は、次のとおりである。ご存知の通り、毎年熊が関わる事件が多数発生する。その多くが何らかのアクションを必要とする事 件である。ハンターは、無償で熊対策に協力する。その理由のひとつは、ハンターは捕殺した熊の部位を売って利益を得ることができるからだ。

捕殺によらない対策が実施されれば、ハンターは協力しなくなるだろう。彼らの代わりを無償で務める者は他にはいない。作業の量と専門性の高さのため、自治体の職員ができるような仕事ではない。損害額を上回るコストがかかってしまうだろう。電気柵のような予防的対策を農家や地主にすすめるといった方法も有効かもしれない。しかし、損害が森から離れた場所に広がる可能性がある。容易に手に入る人間の食べ物を求めて、命をかけて出てくる熊がたくさんいるはずだ。

現在、熊対策は新しい方向に向かおうとしている。自治体は、捕殺数の制限をハンターに依頼する、または予防対策の実施を農家に働きかけるなど、異なる対策を始めている。科学的な研究プロジェクトを支援する自治体もある。

わたしは熊の研究者として、少なくとも野生の熊のいくらかはこの国で今後も生き延びることができると確信している。しかし一方で、限られた地域に孤立して生息する熊のことを、とても心配している。保護されている生息地の熊は、存続できるかもしれないが、その他の生息地の熊は、科学的な研究結果によって熊の生態が解明され、持続可能な個数管理が行われるまで、捕殺が一時的に中止されない限り、いつの日か絶滅してしまうだろう。

九州や四国、西日本では、熊はすでに絶滅している。西日本以北では、現行の対策を続けれていると、孤立した地域の熊は絶滅するであろう。関係者が、日本の熊が生き続けられる方向で、より実質的な議論を始めてくれることを期待している。

オスカー・ヒュイゲンスは、昨年から日本アルプスで熊の観察会を始めている。2日間の観察会により、熊に対する関心を高めるとともに、彼が主宰するNPO法人の資金を集めることが目的だ。これまでのところ、ツアーの参加者の全員が必ず1頭は見ている。4頭の熊を見た人もいるも。彼のNPOでの熊の研究をサポートしたい人、夏のツアーに参加したい人は「信州ツキノワグマ研究会( www.shinshukumaken.com (日本語)  www.withoscar.com/viewbears (英語))」まで問い合わせを。