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特徴

2009
Issue 29
The Green School
By Takashi Osanai

昨年、バリ島に画期的なインターナショナルスクールが誕生した。ミッションは、サスティナブルな意識をもつ、次世代のリーダーを輩出すること。自然美あふれる環境で幼少期を過ごした人材がグローバルに活動する時代を思いうっそうとした森に佇む学び舎には、創設者の願いが詰まっていた。

東京に生まれ育った僕が自然を意識したのはサーフィンとスノーボードをはじめてからだ。いや、はじめてからというのは正しくない。サーフとスノー をはじめて、のめり込み、のめり込んだあげくに双方の専門誌で編集者という仕事に就いて、さらに技術の向上に意識を集中させていた時期を過ぎてから。ほん とうにここ数年のことである。
幼少期を振り返れば、自分の世界のほとんどは近所にあるアレコレで構成されていた。つまりアスファルトに囲まれた 世界だ。海や山には行ったが、どちらも年に数度の家族旅行で2泊3日ほど。自然を感じて、自分の生活に取り入れるなんてことはできやしなかった。旅行を終 えて帰宅すれば、翌日からはまた人工的な空間での時間を過ごすのだから当然といえば当然だ。

小学生では夏休みになると青森に住む祖父母のところへ一ヶ月ほど訪れていた。田んぼに囲まれた平地にぽつーんとある祖父母の家は、隣家が数百メートル離れ ているような場所にあり、勝手口を出ると小川が流れ、田んぼが広がる景色に集落がポツポツ、その向こうには岩木山が見えた。賑やかな商店街は駅前通りに あったものの、バスを利用してのアクセスで時間は1時間弱。家を出るとすぐにバス停があるのだが、バスは1時間に1本程度だった。東京の生活とは何もかも が違った。

ある時、祖父に山へ行こうと自転車で連れ出された。どこの山に行ったのかは当時から知らないが、サイクリングの道中では、進むべき道にヘビがうねっている のを見、自転車をとめて森のなかに入った祖父は天然のあけびやザクロをとって食べさせてくれた。ヘビには恐怖を覚えたし、あけびやザクロにはもぎたての新 鮮さよりも不潔であるような印象を覚えた。ヘビにかまれたら毒がまわって大変なことになる、とか、商品化されたものこそが清潔で口にできる、と短絡的に感 じたからに違いない。今思えば随分と臆病だったと思うけれど知識がなかったのだから仕方がない。ヘビは都会の生活では無縁だし、食卓に並ぶりんごやバナナ は八百屋やスーパーで買うものであって山のなかでとって食べるものではない。思考のすべてが都心化されていたわけだ。

もしサーフィンやスノーボードで知ったような、都会とは異なる価値観を、都会のそれと同じレベルで幼少期に体感することができたなら?
それはきっ と人生におけるチョイスの獲得を意味したのだと思う。

バリ島にできたGREEN SCHOOLでは幼少期に自然を身近に感じて成長することができる。デンパサールから北へおよそ30分のドライブで到着するこの学校は、8エーカーという 応大な敷地をもつインターナショナルスクール。トトロの森を思わせる緑豊かな地に校舎は建てられ、世界中から集まった先生たちによって授業がおこなわれて いる。

創設者はジョンとシンシアのハーディ夫妻。カナダとアメリカからバリ島へ移り住み、ジュエリーアーティストとして世界的成功をおさめた後、「次世代のため に何かを」と思い、2008年にGREEN SCHOOLを開校した。

プリスクールからジュニアハイスクールまでを用意した本学校のミッ ションは彼ら世代のリーダーを輩出すること。そのためには、まず“サスティナブル”であることがどういうことなのかを、流行語として知るのではなく、身体 を通して知ることが重要だとする。だからこそのトトロの森的環境なのだ。たとえば、敷地内では農作物もつくられていることから、「お店で買う物こそ食物」 なんていう発想は生まれない。

農地でつくられはじめてお店に並ぶ、という当たり前の考え方が身に付く。さらに校舎はすべて竹を素材に建てられ、机とイスも釘を不要とするオリジナルなデ ザインでつくられていた。サッカーゴールのポストまで竹である。「石油は有限だけれど、竹は植えつつ使えば無限の素材であり成長も早い」というハーディ夫 妻の視点は、学校の隅々にまで徹底されていた。また取材時でもジョンさんが竹のクズを手にして「化石燃料だけが燃料ではない。竹のクズでも火はおこせると 知ることが大切だ」といい、実際にそのクズをベースに火をおこし、生活する上では十分な火力が得られると続けた。

要するに視点の獲得だ。竹のクズでも燃料になる。そうした視点がごく当たり前のものと獲得できれば、エネルギーとは石油や原子力に限らないという発想にた どりつく。しかもとても自然な考え方として。だから、彼ら世代が社会で力を発揮する時代になった時には、環境に優しい選択があらゆる状況下でおこなわれや すくなる。そうした将来へのストーリーがGREEN SCHOOLには流れている。

ひとつ、確認のためにも聞きたいことがあった。幼少期を都会で過ごしても学ぶことは数多い。でははたして、ここでしか学べないものとは何なのか。応じてく れたキャサリン校長は「ここでは毎日が経験なのです」と言った。自身、ニューヨーク出身の教育者であり、それゆえ都会的生活への理解度も高い彼女は「都会 では情報は多くキャッチできるけれど、知恵や知識、アイデアは獲得しにくい」と続けた。

GREEN SCHOOLでは目の前にあることがすべて。何か問題が生じた時には、自分で考え、アイデアを生み、解決していかなければならない。必然として、能動的な 姿勢が養われ、経験を通しての揺るぎない真実が得られるのだという。

GREENな精神をもったリーダーシップある人材を生み出していこうとするのがGREEN SCHOOLの根幹だ。子供たちはここで学び、世界へと羽ばたいていく。自然環境を原風景にもち、ニューヨークやロンドンや東京という大都市で働く。両極 端ともいえる価値観を身体に染み込ませ、かつグローバルに活躍できる人材の育成を目指す。ウェブサイトをベースに世界中から生徒を募集しているのは、そう した姿勢に理由がある。また、まさにインターナショナルな環境ゆえ、日常的に使用される言語は英語とインドネシア語であることにも注目したい。よって、入 学に際して念頭に置くべき事柄があるとするなら、そのひとつは英語力となる。日本人のスタッフは2009年3月末の時点では不在だ。セカンドグレード(日 本でいう小学2年生)までなら英語ができなくても入学可能だが、それ以降になると英語力は必須となる。海外での生活の経験がある、もしくは日本でインター ナショナルに通っている子供が、現実的な生徒の対象となるのだろう。

学費もバカにはならない。小学校課程でおよそ年9,000ドルとされる学費に滞在費もかかる。現在100名以上の生徒が学び、その多くが駐在員などのご子 息であることを踏まえても、そう簡単に誰もがアプローチできる場所でないことは確かだ。

それでも関心があるという読者に朗報があるとすれば、GREEN CAMP BALIというサマースクールが今夏よりはじまることだ。5日間、12日間、18日間のプログラムで、13~16歳を対象にした18日間の ORANGUTAN ODYSSEYプログラムでは、GREEN SCHOOL校舎内だけでなく、バリ北部の村とスマトラ島にも滞在して、インドネシアの熱帯雨林やプランテー ションの様子を体験し、オラウータンのリハビリテーションセンターを訪れ生息環境に触れる。学校の外では現地の人の家に滞在させてもらい、インドネシアの 人の暮らしをかいま見る。いずれもが日本では経験できないコンテンツばかりで、参加した子供たちは世界の広さを感じることができる。費用と日程はプログラ ムによって変わるが、ORANGUTAN ODYSSEYは3,000USドルで、7月20日から8月6日というスケジュールになっている。

他にもプログラムが用意されているので、まずはサイトへアクセスしてみてはどうだろう。質問があればメールでのコンタクトも受け付けてくれる。このサマー キャンプで様子を確認して、そのうえで本コースに入学というステップを踏むのは悪くない。むしろ現実的な選択だといえる。
School Website at www.greenschool.org.