>  屋外日本雑誌  >  34 号 : 5月/6月 2010  > 特徴 >  サラワク・サプライズ

特徴

2010
34 号
サラワク・サプライズ
By Gardner Robinson

レインフォレスト・ワールド・ミュージック・フェスティバル(RWMF)は、長年行きたいと思っていたミュージック・フェスだ。佐渡のアース・セレブ レーションにはもう10年も参加したので、サラワクで行われる世界の民族音楽の祭典には大いに興味があった。そしてついに格好のチャンスがあったので、僕 はすぐに無類の音楽好きの友達、クレイグ・山下に電話して一緒にいかないかと誘った。彼はふたつ返事で快諾した。

僕らのフライトは東京を起点に、行きはマレーシアの本州クアランプールへ到着し、帰りはサバの首都コタキナバルからの出発だった。しかし僕達が目指して いるのは、もうひとつのKの字のつく首都、クチンだった。

‘Cat City’ 
猫の街

出発前、あまりクチンについて下調べをしなかったので、ただのお役人やヒッピーなんかのトランジット・タウンだと思っていた。ハノイ・ヒルトンに毛がは えたぐらいのレベルだろうと予想しながら、僕らはクチン・ヒルトンに予約を入れた。

夜半に到着したので、翌朝になってはじめて素晴らしい場所なのだと知った。なんと深い眠りから目が覚めたのは、レインフォレストの音を聞いたからなので ある。カーテンを開けると、そこには映画アバターの世界へ足を踏み入れたような光景が広がっていた。雄々しい滝と、眠気をさそうコーヒー色をした川と、木 が立ち並ぶ遊歩道、その向こうには迫り来る熱帯雨林に抵抗しているかのような金のパビリオンが見えたのだ。

クチンとは猫を意味する言葉である。実際に僕らはサワラクへ向かう途中、いくつか猫の銅像を見かけることができた。旅の目的は、3日間行われるフェスへ の参加だが、毎日デイ・トリップしかできないほど時間に余裕のない旅だった。最初の日はサワラク博物館、クラフト・センター、シティ・センター、トゥア・ ペッ・コン寺、メインバザー、ウォーターフロントなど、街周辺を見て回った。

そしてクチンは驚くほど多様な歴史を持つ場所であることも知った。クチンの北はマレー、南は中国の影響を強く受けている。しかし華僑や先住民に領土を手 に入れる手助けをしたのは白人王であるなど、人々はこの民族の多様性をとても誇りに思っている。キリスト教(30%)、仏教(29%)、イスラム教 (23%)、道教(15%)、アニミスト(5%)が共存するだけでなく、一緒に家族をもっていることを自慢する。その時、本土で宗教的問題となっている事 について訊ねると、サラワクはまったく事情が違うという。   

一日観光してホテルへ戻る途中、ザ・ジャンクというバーからライブ音楽が聞こえてきた。店内はまるで南青山にあるようなバーを思わせる雰囲気で、以前ロ サンゼルスでレコーディング・アーティストをしていたという地元のミュージシャンが演奏をしていた。彼らは輸入ビールや大きなグラスでワインを飲んでい た。教養も高くリベラルそうで、政治家や石油ビジネスを展開する家庭の出身だった。フェスが近いこともあって、彼らは誰もがうきうきしていた。僕らはフェ スでも再会するだろう、知り合ったばかりの人との会話を楽しんだ。

People of the Forest
森の人

ボルネオに来る前に二つのものが頭に浮かんだ。オレンジ・モンキーとヘッドハンターだ。2日目にその両方ともに会いにいくことにした。最初に向かったの はアナ・レイス・ビダユ・ロングハウス。この高床式の木造建築に、昔は100家族が一緒に暮らしたというからすごい。.現在では見学だけでなく、無料で泊 めてもくれる。僕たちが9時に到着してハウスに入るとき、2人の女性が笑顔でアラクという地元の米のお酒をくれた。昨夜に飲みすぎて二日酔い気味だった が、ヘッドハンターの家では無礼をしないほうがいいと思った。僕らは、陽だまりに猫が寝そべり子供が戯れたり、お年寄りが穀物を選別したり、木の皮を乾か してお茶を作ったりする共同スペースを見て回った。ロングハウスの長が僕らに一緒に座るようにと招いてくれた。長は僕らにアラクをつぎ、手か口でダーツを やってみるように言った。難しいゲームか否かはまったく知らなかったけど、アルコールのおかげで的確に的を狙うのは難しかったのは確かだ。

次に僕らはセメンゴ野生動物リハビリテーション・センターで、もう一つの「森の人」と対面した。「オラン」とは人、「ウタン」は森という意味だそうだ。 着いたとき彼らは餌を食べていた。大きなメスが片手で木につかまり、赤ちゃんを肩にのせてバナナを食していた。自由に飼育されているので、彼らの姿を必ず 拝めるとは限らない。オススメは食事の時で、可能性はグッと高まるそうだ。僕らはラッキーなことにこの後も、頭上に広がる熱帯雨林の森のカノピーをあちら こちらへ横断するオラウータンを見ることができた。

Bako National Park
バコ・ナショナル・パーク
泥川が南シナ海と合流する地点から数キロメートル内陸に入った、「ワニに注意」と書かれた看板のある埠頭に僕は立っていた。通りの向かいには魚屋がナタ でアカエイを切り刻んでいる。ようやくサラワク最古の国立公園へ連れて行ってくれるボートが船着場につき、僕は注意深く船へと乗り込んだ。バコはクチンの 街から20キロほどしか離れていないのだが、公園は27平方キロという大きさで、多様なエコシステムのもとで動植物が生息している。髭イノシシ、肉食植 物、赤毛サル、天狗ざるなどの、多くの動物がここにいるのだ。

僕らはハイキングを一日中楽しんだが、道案内の看板がしっかりあるトレイルが17もあるので、十分に数日は飽きずに過ごせると思った。デイ・トリップは簡 単にできるが、急ぐ必要がなく、またナイトハイクもできるので、公園の人は一泊の計画で来ることをすすめている。僕らのガイドは、沼地から熱帯雨林、砂岩 層へと登るにつれて、変わっていく植物などを説明してくれた。

見晴台につくと、僕らは驚くほど美しい三日月の形をした海岸に感動した。とても蒸し暑い日で、クレイグはわき目もふらず海岸へ向かって降りはじめ海へ 入った。僕はガイドにこの辺にはワニがいないのかどうかを確かめた。彼はいないといい、おかげで涼しげに水に浮いている友人の姿をしばらく見た後、僕も彼 のアイデアに参加することにした。