特徴
HAIKYO: INTO THE RUINS
スポーツワールド
着く頃には夜だ。鉄条網をくぐり抜けようとするがバックパックがひっかかってしまった。なんとか通り抜ける。目の前には壊れた白いバン。月明かりの下に、窓が壊れている二つの建物がある。
フラッシュをつけるが、まぶしすぎたので消す。夜空は真っ暗だから星と月明かりだけで充分だ。最初のドアには南京錠がかけられていたため窓から入る。カビ臭い長い廊下に、ごみや、かつての様子をしのばせるような残骸が転がっている。
どこか離れたところで、何かが悲鳴をあげる。一瞬固まる。人間だろうか?心臓が飛び出そうにドキドキしている。何か正体がわかるまで一歩も先に進 スポーツ・ワールドにようこそ。
スポーツ・ワールドは、日本に多くある廃墟のひとつ。バブル真っ只中の1988年に建てられた巨大な複合スポーツ施設とウォーターパークだ。客室30室、ジム、競技用プール、ダイビングプール、波のプール、ウォータースライド、18ホールのパットパットゴルフ、テニスコートなどがある。巨額の投資だが、明らかに客寄せに失敗したケースだ。およそ
10年ほど前に閉鎖され、それ以降放置され錆びるままになっている。
スポーツ・ワールドは僕のお気に入りの廃墟である。初めて訪れたのは2008年。一人で、しかも夜だった。怖さを味わいたかったので、そういう状況を作ったのだ。
夜に廃墟を訪れるというのは、他にたとえようがない。地図の上ではただの点、辺ぴな所、そして無法地帯だ。街灯などないし、助けてと叫んでもまわりには誰もいない場所だ。そこにいる人ももちろんそんな事は承知なはずである。でもこんなところで、夜に誰かと出くわす? まずありえない。
悲鳴がエコーする。先へと進む。
建物の一番奥のドアからミニチュアゴルフのあるエリアへと通じている。こんもりとした木々を月明かりが照らす。森がゴルフコースを返せといわんばかり、木や草が生い茂っている。左手にはエンジン部が落ちているゴルフカートがぽつんと残されている。右には逆さまになった黒のセダンが横たわっている。
プラスティックのマットがしいてある。真ん中の列からジャングルを通っていく。また悲鳴が響き渡る。血が凍りそうだ。フラッシュをつける。でも自分に注目されると気がつき、また消す。
暗闇から波のプールが見えてきた。すごい大きさだ。そして乾いている。声がしたような気がする。酔っ払った若者がいるのか。方向を変え、今夜テントをはる場所をさがす。
いばら道をホテルまで行く。最初に試してみたドアが開いた。フラッシュライトをつける。中の部屋はごみひとつない。侵入するために壊されたと思われる窓以外、まったく手がつけられた形跡がない。おそろしいほど、整然としてきれいだ。テレビリモコンはテレビのそばに、スポーツワールドとロゴの入ったスリッパが整然と入り口に並べられている。やはり手付かずだ。
マット、寝袋、枕を取り出す。椅子に腰をかけてツナサンドイッチを食べながら暗闇に広がるパークを見下ろす。今夜はここで一晩過ごすことにする。
一時間ぐらいすると、暗闇がこわくなってきた。相変わらず時々なにかが叫ぶ。人間であることはない。いのししかな? 猿? それともモンスター?
自分いるべきでない場所に、取り残されているような気分になる。ドアをロックしてチェーンもかける。窓をテーブルや椅子でブロックして、眠れない夜をすごす。
いままで2回しか廃墟でキャンプをしたことがない。両方ともテーマパークで、夜訪れた。2回目は同じくバブル期に建てられてすぐに閉園したロシア・ビレッジテーマパークだ。
朝になると、モンスターたちはどこかに行っていた。カーテンを開けると、すばらしい山と、ジャングルにうもれたパークが見える。ここはなんていう場所なんだ。昨日歩いた場所を見ると、池が近くにあった。危なかったんだ。
ここは、なんていう場所なんだ。
この日、僕は一人じゃなかった。大きい廃墟には他の人もよく訪れる。波のプールの周りを歩き、パークの裏手にいくと、フェンスの穴から日本人の女性が見えた。三脚をたてたカメラでスナック小屋の写真を撮っている僕を見て驚いていた。
「入ってもいいですか?」と日本語で聞いてきた。
一瞬めんくらったけど、僕が許可する立場にいると勘違いしていると思った。
「もちろん」と言った。「入っておいで」
しばらくしてパーク内で彼女にまた会った。ファッション撮影関係のアシスタントらしく、2人のモデルと一緒にいた
彼女らは大きな落書きペイントの前や壊れたゴルフカートのそばでポーズを取っていた。廃墟はビューティフルだった。




