>  屋外日本雑誌  >  Issue 63 (Spring 2017) : 4月 2017  > 特徴 >  バンダ海の炎とスパイス

特徴

2017
Issue 63 (Spring 2017)
バンダ海の炎とスパイス
By Tim Rock

バ ンダ諸島といえば、世界中のだれもが知っ ている時期があった。インドネシアのモ ルッカ諸島の一部をなすこの香辛料で有 名な列島は、華やかな歴史をもち、それ に負けぬほど華やかな海底があるが、その美しさを知る ダイバーは比較的少ない。

バンダ・ネイラのチャーミングな港町には7 千人の友 好的な人たちが住んでいる。ここはインドネシアでもっと も画趣(がしゅ)に富んだ港であり、貿易の歴史は深く、 青々とした山脈と休火山を背景にしている。

 通りにはいまでもオランダ式の街灯と古く巨大な樹 木が立ち並んでいる。英国式およびオランダ式の建築は、 今も時代を感じさせず、堂々とした構えは、街を美しく引 き立てている。いっぽう、大きな公園ではヤギや子供た ちが遊ぶ姿が見られる。

市場は朝も夜も人で賑わい、シナモン、バニラ、ナツ メグなどの香りであふれている。400 年前、香辛料は金 に勝るとも劣らぬ価値があり、その香りというよりも肉の 保存のために使われていた。

バンダ・ネイラは、ヨーロッパ中で重宝されていた貴 重なナツメグの生産地であった。船1 隻分のナツメグだ けで一家、さらには一族が一生暮らせるほどの収入を得 ることができたのである。

オランダ人は、貿易を守るために砦(とりで)をつく り、今日でもそれはまだ街に残っている。修復作業の結果、 この分厚い壁の砦は観光地としても最適で、その階段沿 いに暗紅色のナツメグが日干しされている。

ゆっくりと街を散策してみてはどうだろう?大きなベラ ンダで氷を売っている所や、その近くには地元のコーヒー を売っている店が見つかる。まずは数日間バンダナの暮 らしにどっぷり浸かってみるのがお勧めだ。それから近く の島々やバンダ・ネイラの湾ですばらしいダイビングを楽 しもう。

マック・ダイビングという砂地や泥地のダイビングの 場合、ここの桟橋から飛び込めば、古いオランダの瓶や 硬貨など、歴史の欠片(かけら)が見つかるかもしれな い。近くにある海岸沿いの小さなホテルは、泥地の生物 や宝物を探すダイバーたちのエントリー・ポイントとなっ た。事実、桟橋の前部にある斜面では、そこらじゅうに 巨大なカエルアンコウから、コールマンシュリンプやゼブ ラガニやクシクラゲなどが寄生しているファイヤー・アー チン(イイジマフクロウウニに似たウニ)を見つけること ができる。

この港には、水中写真家や映像作家に大人気の色鮮 やかなニシキテグリも生息している。小さく、いつも隠れ ており、交尾のため、または縄張りを設定するために、 夕暮れにしか現れない。

鮮やかなオレンジや緑がなす模様が美しく写真映えす ることが人気の理由で、桟橋近くの浅瀬は写真家にとっ ては理想の場所だ。ほかにもナマズの群れやクマノミを抱 えたさまざまなイソギンチャクも見られる。なかにはオラ ンダの古いガラスの欠片に産卵しているものもいる。さら にはスケルトンシュリンプ、バットフィッシュの稚魚、裸鰓 (らさい)類(ウミウシの仲間)、尾索(びさく)動物(ホ ヤの仲間)にのっかったロブスター、そしてあらゆる種類 の泥地の生息動物が見られる。

湾のむこうにはインドネシア中で数多く見られる火山錐 (かざんすい)のひとつ、ムラピ山(火の山)がそびえ立つ。 この山が最後に噴火したのは1988 年だ。今日、溶岩 が北東と北部の斜面から海に流れ落ち、海の珊瑚全体を 覆った様子が伺える。

そこにできたプラットフォームをベースにすごい勢いで 新しいサンゴ礁ができ、世界中の科学者たちがそれを研 究しにに来た。

このポイントに流れる卓越海流と溶岩に含まれている ミネラルが、珊瑚の生殖細胞の土台となって、繁栄を促 したわけだ。巨大なミドリイシや、そのほかのイシサンゴ 類からはじまって、これほど急速な成長はこれまでにない ものだった。まるで彫刻でできた水中公園のようだ。キャ ベツサンゴ、ブラックサンゴの壁、ヤギ目サンゴも見られ ることから、ここは何度かダイビングする価値がある。 バンダ・ネイラとその付近には10 の島があり、バン ダ海でもうすこし沖にいくとさらにいくつかの島があり、 波がなくて海が穏やかなときにリブアボード(クルーズ船) で行ける。ここには妙なレンベ・ピグミー・シードラゴン からキハダマグロやマッコウクジラまでいる。

船岩という意味のバトゥ・カパルというダイビングス ポットには、数多くのピナクルが連なっており、そのなか でももっとも大きなものは水面から24m も出ており、そ の名のごとく船の形をしている。このスポットは、美しさと、 カオスと、かなりの動きがある。ピナクルのおもなものは 3つだ。西側と北側は壁で下がえぐりとられたようになっ ており、ミズガメカイメン、ウミトサカのほか、数え切れ ないくらいのカスミチョウチョウウオがいる。このピナクル のいろいろな場所を探険して、目の前の青空を臨むもよ し、あるいは、もっと深いピナクルのほうへ行くのも楽し いだろう。

南東のピナクルは壁の外側が水中34 m までおよんで いる。大きなヤギ目サンゴや巨大なミズガメカイメンも、 26 m の高さになる深い尖塔(せんとう)を引き立ててい る。ここにはまた、もっと浅いものもあり、くまなく観る ためには何度かダイビングする必要がある。

海流がきつくなることがあるが、そのときにこそセッパ リハタ、リーフシャーク、イェローテール・バラクーダが 見られる。以前1度のダイビングで海底を埋め尽くすほど のギンガメアジの群れに遭遇したことがある。どこにでも 現れるアカモンガラは、もっとも大きいピナクルの近くで 大きな群れをなし浅瀬でよく見られる。

このほかのダイビング場所には、サンゴだらけのアー チや、さまざまな種類のウミトサカやカイメンなどで飾ら れた、壁や流れのある、深く美しい水中通路がある。 バンダ海のセラム島の東にあるクーン島では、海流 に流されたポイントで銀色のイソマグロや、バラクーダ・ ショールズ、カマスなどが見られる。エルニーニョによっ て水温が冷たくなると、シュモクザメの群れも浅瀬に現れ、 ダイバーたちをドキドキさせる。

マヌ島は鳥の主要保護地区であり、リブアボード(ク ルーズ船)でしか行くことができない。蒸気が火山の墳 気孔から噴きだし、水中やいろいろな所に硫黄を噴出す る。人はいないが、その代わりにかなりの海蛇がいる。 ダイバーのフィンの動きに誘われてだろうか、蛇はなに があるのかと近寄ってくる。蛇の嫌いな人にとっては、こ れは怯(おび)えることだろう。しかしひじょうに興味深 い爬虫(はちゅう)類だ。もっともよく見られるのはバンデッ ド・シー・クレイツで、チャイニーズ・シー・スネークも いる。

この島の突端部は、じっさい火山錐(かざんすい)程 度の大きさでしかないが、カツオドリ、ネッタイチョウ、鵜 (う)など、数多くの海鳥の主要な群生地だ。しかしこ れらの鳥たちが頭上を飛ぶいっぽう、下ではひじょうに珍 しいことが起こっている。何千羽もの鳥の声に呼ばれて 浮上すると、そこは本当にすばらしく、探険に稀な場所だ。 バンダ・ネイラを訪れるツーリストは多くないが、バン ダ海には観るものがたくさんある。ダイビングは季節によ るが、毎年新しいスポットや遠くのピナクルが発見されて いる。海では、多くのダイバーに出くわすことはまずない。 それよりも、この地に古くから伝わる鮮やかな色の服をま とった数十人の男たちが、何百年もこの海にこだましてい るドラムの音のリズムに合わせて漕いでいる伝統的な長い カヌーに遭遇するチャンスのほうが大きいだろう。

土地情報

行き方:
ダイバーの場合、もっともよい方法はリブアボードというクルーズ船が最適だろう。アンボンからフェ リーが出ているほか、インドネシアの小さな航空会社による航空便も出ているが、数が限られている。 新しいルートがどんどんできているので新しい情報を調べることだ。

貨幣:
貨幣両替は、ここではほとんどおこなわれない。船で生活するのでなければ、食事、宿泊、ギフ トにじゅうぶんなルピアを用意しておくこと。

言語:
公用語はインドネシア語だ。オランダ語の影響を受けたマレー方言も話されている。

ダイビング/ 天気:
バンダ海の乾季は5月頃から11月頃。1月と2月は雨季となっている。気温はかなり一定しており、 27° C から32° C だ。

ダイビング:
ここでのダイビングはレベルを問わないが、場所によってはきつい海流、漂流、外洋域のために、 上級ダイバー向けの所もある。全体的に見て、美しく、すばらしい海面類やイシサンゴや、700 種 類以上の魚類がいる。

島巡りの方法:
徒歩、または自転車やモーターバイクもよいだろう。自転車やモーターバイクに慣れてない人は、 ドライバーを雇うのも手だ。遠い所へ行く場合は、タクシーのほか、ミニバスや自転車タクシーもある。 空港から街へは、タクシーを使うと45 分ほどだ。バンダ・ネイラの道はたいてい舗装されているが、 ほかの島はあまり開発されていない。