特徴

2016
Issue 61 (Autumn 2016)
マンボウの島
By Tim Rock & Elaine Kwok

深い海に生息するこの巨大な生物の周りを バナーフィッシュが泳ぎ、エンゼルフィッシュや ベラなどがその身体をつついていた。その生き ものは、私たちが静かに見守るリーフからほど 近い青の空間に浮かんでいた。海洋生物の 中でもとくに珍重されているモラモラ(マンボ ウ)が穏やかに泳いでいた。クタやレギアンの 熱狂的なナイトライフから、ボートで来られる 場所だとは、にわかに信じられなかった。

バリはトロピカルなビーチを求めて訪れる旅行者はもちろん、ダイバーにもひじょうに人気だ。バリにはおすすめのダイビングスポットが たくさんあるが、最高のダイビングが待ち受ける3つの島まで、南東の海岸から足を伸ばすダイバーはさほど多くない。

流れが強いため、ここのサンゴ礁は健康で豊かだ。ドリフトダイビングやゆっくり探検するのはもちろん、季節によって 見ることができるマンボウなど、さまざまなダイビングを楽しむ ことができる。不思議で恥ずかしがり屋のマンボウは、リーフ好きなダイバーにとってはかなり価値のある遠洋の巨大魚である。

ここはダイビングコミュニティでは有名で、マンタレイなどとの遭遇率も高い。見た目もマンボウとおなじくらい不思議 な、巨大で優雅なマンタは、3つの島のなかでもっとも大き いヌサペニダ島の沿岸を泳いでいる。 険しさが魅力のヌサペニダは、内陸に水資源が少ない ため、ほとんどの住人は沿岸部に住んでおり、島と塔のよ うにそびえる崖のほとんどは神のものだ。隣のヌサレンボン ガン島のような観光地ではないが、世界有数の豊かなサン ゴ礁のそばには、ビーチに並ぶ静かな村が木にふちどられ ている。 西の端には不気味に白い石灰岩のペニダの海岸線が、 海からまっすぐそびえている。南西の海岸から見えるのは、 雲まで届きそうなバリ島のアグン火山だ。

大自然を誇るペニダ島には寓話や神話がたくさんある。 バリニーズたちは、黒魔術の起源はこの島だと信じている ので、島の住民に話すときは注意しているらしい。自然災害 などは、このヌサペニダからやってくる巨大な悪魔の王、ジェロ・ゲデ・マカリンがもたらすと信じられているのだ。

ヌサレンボンガン島はヌサペニダの南西に位置し、小さな 島だが日帰り旅行に人気だ。かつてはサーファー天国だっ たが、いまではバリからファーストボートに乗って、1時間もか けずに来ることができるので、観光客のグループも多く、ホ テルやレストラン、ホームステイなどもどんどん増えている。

ワールドダイビング、バリダイビング・アカデミー、バリハイ・ ダイビングアドベンチャーをはじめとするダイビングショップも できていて、チャンネルを渡るダイビングでは、バリのショッ プよりも人気だ。 ペニダとレンボンガンに挟まれているのが、小さなヌサセ ニンガン島で、レンボンガンとの短い海峡は橋でつながって いる。近隣の村には、近くの海や平らなサンゴ礁で働く漁 師や海藻農家が住んでいて、静かな島には海が見えるホテ ルやホームステイが何軒かある。

バリニーズは悪魔を恐れているが、悪魔のマンタはダイ バーに大人気だ。ワールドダイビング・レンボンガンのジョン・ チャップマンもマンタのファンで、レンボンガンには何年も通 いつづけているはずなのに、マンタの話になるとすっかり舞 い上がった感じになる。

ペニダの南岸はマンタレイのグループの住み処となってお り、上空からは、崖のそばを流れにそって海を飛ぶように泳 いでいる姿を見ることができる。

リーフマンタもいれば、遠洋マンタもいて、マンタポイント へ行く途中には、伝説のホワイトマンタが水中から飛び上が るのを見たこともある。 海の状況さえ合えば、ペニダ島の有名なアーチロックの 東にあるマンタポイントは、どのレベルのダイバーでも楽し める。シュノーケルでさえ、眼下を優雅に泳ぐ巨大なデビル フィッシュを見ることができる。マンタのグループは、大きな 岩を囲むように存在する珊瑚礁のクリーニングステーション に集まり、交尾したり、巨大な口をぱっくり開けてエサを食 べたりしている。

彼らには、森にすむ鹿のような特有のけもの道があるら しく、目に見えない道を通ってやってきては、クリーニングス テーションを擁する大きな岩の上を旋回する。ベラが彼らを 掃除しているのも見ることができるだろう。ジョンとエレインと 私も、マンタたちが順番に掃除してもらうのを見た。

マンタはサイズも大小さまざまで、色も、ほとんどまっ白な ものから、薄グレーでお腹が白いもの、下あごのみ白くてほ かは漆黒の種類などがいる。マンタは好奇心旺盛なので、 かなり近くで見ることができるかもしれない。

Mola Mola

ジュラシックポイントやクリスタルベイはマンボウのお気に 入りだ。単独行動が多く、バナーフィッシュやエンゼルフィッ シュに掃除されているが、小さなグループにいることもある。 水中で垂直に浮かぶマンボウにむらがった魚たちが、身体 をついばむ様子はなかなかの見ものだ。

モラがリーフにやってくるのは、交尾のときと身づくろい のときだけなので、ガイドのスラマは私より興奮しているよう だった。ジュラシックポイントのウォールにそって、ヨゴレザ メ、ジャイアントブルレイ、ブルースポットスティングレイなどを 見ながら下降していくと、スラマは真っ青な海中を凝視した。マンボウは大きいが幅がないので、横から見ないと見逃してしまうこともある。

すると、予想通り、レギュレータ越しに彼の興奮した声が 聞こえてきて、目の前にマンボウが現れた。私たちは近づく のをやめて、バナーフィッシュやエンペラーエンゼルフィッシュがマンボウの巨体をつつくのを眺めた。少し近づくと、遠ざ かってしまい、その姿を写真に何枚か収めると広い海に消 えていった。ところがうれしいことに、もっと掃除をしてほし かったようで、向きを変えるとこちらに戻ってきたのだった。

1週間で、ピュラペッドとクリスタルベイ、トヤパケ、ジュラ シックポイントでマンボウを見ることができたが、ハイライトは ボートの上で起こった。モラが海から飛び上がることは聞い たことがあるし、ビデオでも見たことがあった。

クリスタルベイのアーチを撮影しているあいだにそれは突 然起きた。モラが海面から飛び出したかと思うと、大きな水 しぶきを上げながら全身で海面に落ちていったのだ。それ は得もいわれぬ光景だった。

マンボウは8月終わりから9月初めにかけてレンボンガン島のリーフを訪れるが、6月から11月にかけても見ることができ ゆうしょう る。彼らはたいてい冷水の湧昇がある場所にいて、潮だるみのあたりを探すのがもっとも効率的だ。

レンボンガンと近隣の島々はダイバーなら陸でも海でも楽 しむことができる。夜は静かではあるが、おしゃれなレストランでディナーを楽しむこともできる。初めて訪れたわけでもな いし、これが最後になるわけでもないが、これまででもっとも満足度の高い旅だった。ここでは私のように悪魔の訓練が 何度も必要なのかもしれない。✤

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