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特徴

2016
Issue 61 (Autumn 2016)
会津駒ヶ岳 <駒の小屋>
By Pauline Kitamura

日本は時代に即した国だ。国内のいたるところに光ファイバーは埋設されているし、あの有名 な富士山の頂上からでも友達や家族にポストカードを送ることもできる。だから日本の山小 屋の多くでは入浴ができたり温かい食事(冷たいビールも) が用意されたり、衛星テレビ、そしてコンピュータやWi-Fiの 設備まである。ところが会津駒の小屋にはそんな設備がまっ たくなくて奇異にさえ感じられる。むしろそれがこの小屋の魅力だ。つまり日々の生活から離れ、リフレッシュできていいのだ。その山小屋は福島県、会津駒ケ岳2,132mの頂上につ づく稜線にある。訪れた者に日常の多忙な日々から離れて 自分の家のようにくつろぐようにと、そこは諭(さと)してくれ る。駒の小屋へは3時間半から4時間のハイクでたどり着く ことができる。標高差は1,100mだ。車でも行けないしゴンド ラやそのほかの交通手段はなく、山道を自分の足で登るし かない。 山小屋へつづく道は深い森の険しい道からスタートする。

森は美しく、ときおり渓谷を見下ろすことができる。広大な たつある。1階は居間で客たちが団欒(だんらん)や食事を 山の景色や草地が愛(め)でることができるのは、頂上に近 つくるところとなっている。布団やブランケットは用意されてい づいてきてからだ。そこから駒の小屋はすぐ近くにある。な るから寝袋を用意する必要はない。洗面所は小屋から離れた にがこの山小屋を特別なものとして有名にしているのか(予 ところにある。トイレットペーパーも用意されていて清潔だ。 約は数ヶ月先まで一杯)。ここには近代的な設備もないし、 水道は通っていないが雨水を集めて客が使えるようにし 電気も水道もない。近代的な日常生活をすべて置き去りに てある(日帰りの客には少しばかりの使用料がかかる)。水 して訪れる高地の入り口なのだ。 を沸かしたり食事に使ったり、翌日の登山の飲料水として 黒い木造2階建てのその小屋。2階には大きな寝室がふ 客はそれを利用する。

小屋には小さな売店もあり手作りのお土産やちょっとした品を買うことができるし、ユニークなデ ザインのTシャツもあり、この小屋に登ってきた者だけが手に 入れられる。また軽食や飲み物も用意されている(ビールは 寒い季節に利用できる)。この山小屋のすばらしいひととき は夕闇が迫った頃だ。月と星空の下で灯油ランプが山小屋 で毎晩灯される。 ランプの炎を見つめているうちにあなたはシンプルで平和 な時間に浸ることができる。身体の内なる時計が、夕暮れ 品はヘリコプターでシーズン中に2~3回届けられる。残りは 彼らが背中に担いで運び上げる。それは簡単な仕事ではな い。都会のように指先ひとつでなんでも手に入るわけでは ないが、その苦役(くえき)こそがこの小屋を彼らやゲストに とともに眠り、夜明けとともに目を覚ますときを告げる。ミヨ シ・カズヒコ?とサユリ?(漢字表記)がこの駒の小屋のマ ネージャーだ。心温かいカップルはここの美しい山に心を奪 われ、シンプルライフをまっとうしている。彼らが会津駒ケ岳 に住むようになって9年になる。1年の大半を小屋で過ごし、 よって特別な場所にしている。長い稜線をハイクしたその先 週に一度か二度入浴と物資を運ぶために下山する。彼ら は冷蔵庫を持っていない。電気ストーブもコンピュータも風 呂もシャワーでさえも、もちろんテレビもない。食物や必需 には高地の天然池と、夏のあいだだけ咲きほこる高山植物 がある。一度駒の小屋にたどり着いたら会津駒ケ岳を登頂 したくなる。もし時間に余裕があれば往復2時間のハイクで行ける中門岳まで行くことをお勧めする(注意:五月くらいま では残雪があるために軽量のクランポンや登山用ポールを 携行することをお勧めする)。それから忘れてはならないこと は、かならず夜明け前に起きて小屋の外で日の出を眺める こと。指先ひとつでなんでも便利に手に入れるって良いこと かもしれない。でもそういう便利なことは、街に置き去りにし て週末だけ駒の小屋で過ごしてみたらきっとすばらしい思い 出になるだろう。✤

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