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特徴

2010
33 号
Q4: ジェイク・バートン
By Neil Hartmann

アウトドアジャパンのコントリビュターであるニール・ハートマンが、ニセコでジェイク・バートンと旅や人生で学んだ事、そして最新のボードについて語った。

30年以上も世界トップのスノーボードメーカー会社の舵取りをしてきたジェイクだが、そのパーソナリティーは気取るところのない、いつも人生を楽しんでいるような気さくさが特徴だ。僕は7年前にジェイクが家族と北海道を訪れた時、ガイドとして彼らと一週間を過ごす機会があった。当時彼らは一年をかけて世界一周する旅の途中だったのだ。そして今回、僕は会話をその話題からはじめることにした。

    ニール(以下N): 最後に会ったのは7年前、世界一周旅行をしている時だよね。日本には一ヶ月滞在したけど、その後、何か旅の影響はあった?

     ジェイク(以下J): 家族全員が影響を受けたよ。旅行以来、物の考え方がすっかり変わってしまったね。僕たちは波や冬を追って訪れた場所では、どこでもすばらしい時間を過ごすことができた。一方、発展途上国で、僕たちの持っている道具など持たずに生活している人々に触れられたことはとても貴重な体験だった。自分がいかに恵まれているか感謝するようになり、何が人生で大切なのかを考えさせられた。なぜかと言えば、物を持っていない人たちのほうが、物質に恵まれた僕らよりも数倍幸せに生活していたからだ。開眼させられたというか、そんな体験だったね。

    今まで日本に来たときはいつも一週間から10日という短い期間だったから、一ヶ月を日本で過ごすのは最高だった。バートンで働いている人々のことが本当に理解できたし、実際スノーリゾートの現場で何が起きているのかを知ることができた。そして僕も一員になった気がした。一ヶ月という期間を家族と一緒に外国で過ごすと、より簡単に環境へ馴染んでいけるね。

    N: 旅行じゃなくて、そこに住んでいる感じがするでしょ? じゃあ、本当の家に帰った時はどうだった?

    J: この長い旅行を実行した理由のひとつは、当時、旅をすることに慣れてしまっていたからなんだ。スポーツギアの展示会に参加すると、その国で何日か滞在してサーフィンかスノーボードをするのだけど、これがマンネリになっていた。だから旅行にいけることにあまりありがたみを感じなくなっていたんだ。だけど一年の旅を終え帰国して、旅に出る機会があることを感謝するようになったんだ。

    今回のこの旅もそうだけど、北海道にまた来れたことを本当にうれしく感じているよ。世界旅行をする前は20年間同じことを繰り返していたから、自分が恵まれていることに気がつかなかった。旅を終えて家に帰って、様々な人の生き方を知るという、貴重で特別な体験をできたことを本当にラッキーだと思うようになったね。

    N: 旅行では常にスポーツをやったり、何か目的を持っていく?
    J: そうだね、妻のドナが一年に一回僕と旅行する時は、いつもリラックスすることが目的になっている。去年の夏には、セールスミーティングに出るため僕らはカリフォルニアへ行ったんだけど、その後にチーム全員でメキシコへ行ってサーフィンをした。さらにチリへと移動してスノーボードとサーフィンを楽しんだ。その後、ようやく二人でヨーロッパへ運河クルーズにでかけたんだ。場所はフランスの中部地方で、4日間ワインを飲みながら川を下るツアー。時々下船しては、サイクリングをしたりもする。旅に出る前はつまらなくて死んじゃうんじゃないかと思ったけど、意外によかったよ。

    世界一周旅行で、4輪駆動の車から動物を見るアフリカのサファリツアーに参加した時も、当初はつまらないんじゃないかと思った。でも実際はすごくおもしろかったんだ。こういうタイプの旅はあまりしないけど、他の人の国や文化にアプローチして楽しむという旅の仕方も、最近では理解できるようになったかな。

    N: 日本には来たのは何度目? 

    J: 25回ぐらいじゃないかな。80年代の初めにダグ・ボートンと来たんだ。かなり昔のことだね。日本の人にスノーボードを紹介するために来日して、テレビの生番組にも出たことを覚えてるね。その頃のボードは質があまりよくなくて、硬い雪の上で滑るのがとても難しかった。だけど、僕らはカメラに向かってバランスを失わないように凍った斜面を滑らなくちゃいけなくて、その時はすごい緊張感だったな。

    N: 日本は発展途上国ではないんだけど、外国人は文化や食生活の違いから、順応するのが大変な状況があることは僕自身も経験して知っている。ジェイク自身は日本で何か困ったことはあった?

    J: 初めて来日した時、日本食になじめなくて、あまり食べ物は冒険しなかった。でもドナは食べることが大好き。だから彼女のお陰でいろいろなものを食べられるようになったね。世界旅行に出た時には寿司にはまった。もともと焼き魚はあまり好きじゃなかったけど、生の魚なら一日中でも食べられるから日本は最高だったよ。アメリカの日本食レストランでも、これまでは焼き鳥ぐらいしか注文しなかったけど、今は寿司をオーダーする。食べず嫌いなんていけないね。

 

    N: 日本を旅行する人へのアドバイスは?

    J: まずは東京に行くようにいうかな。世界でもっとも興味深い都市のひとつを体験できるからね。僕にとって東京はニューヨークと同じトップクラスで、一度は訪れるべき場所。その後は群馬県水上の天神平か、ニセコ。東京とニセコは間違いなく、究極の組み合わせだよ。

    今回13歳になる息子のティミーが一緒に来てるんだ。だから昨日の朝は夜明けとともに起きて、荷物をもって空港へ行って、飛行機を待ち、着いたら車やバスに乗り継いで移動しなくちゃいけなかった。ちょっと大変だけど、こっちについたら雪がすごく降っていて、マジカルだった。旅の疲れもいっぺんに吹っ飛んだよ。

    N: スキー場にたどり着くまでのストレスは、スノーボードトリップの一部みたいだよね。

    J: そうそう、サーフィンでもスノーボードのトリップでも、最初の波やパウダーをターンすると、フライトとかの面倒くささや、文化の違いからくるストレスを乗り越える価値があったと思えるよね。そこに着くまでの苦労の記憶が消されちゃうみたいな。

    N: 今はどこでスノーボードすることが多い?

    J: 自宅のあるバーモント、カナダ西海岸、日本も少し、そしてヨーロッパ。だけどバーモントが一番のお気に入りだな。ニセコのように雪は降らないけど、大雪が降ると近所の友達と滑るのがやっぱり楽しいね。スノーボードの後は妻が経営しているフードショップに立ち寄ったり、家でアメリカンフットボールを見たり。家の近くで滑るのは本当にいい。旅行すると家にいることをもっと楽しむことができる。だれでも自分のホームマウンテンがいるってことだよ。自宅から500マイル離れていようと、自分の「場所」と思えるところが必要なんだ。

    N: 今使っているボードについて教えて。

    J:  いま使っているのはワミー・バーというもの。リバースキャンバーというロッカーボードなんだけど、何よりルースさがいいね。キャンバーボードのようにしっかりグリップしてターンしていくのも気持ちいいけど、リバースキャンバーはおもしろい。2010年モデルの“ジョイスティック”を持ってきたけど、楽しい乗り心地だよ。

    ルースさがちょっと違うんだ。ツリーランでボードをゆるーくターンさせても、木にぶつからずきちんとターンしていく。このルースさはサーフィンの感覚に似てるね。地元ではよくツリーを攻めるから、コントロールしやすく軽いボードを使っている。リバースキャンバーの場合、エッジ・トゥ・エッジの切り替えしはキャンバーボードとは違ってとてもクイック。すぐに向きを変えられるレスポンスの良さが大きな特徴といえるね。ジャンプやトリックにも十分に耐えられるよ。

    N: もしもしワミー・バーが車だとしたら、どのようなタイプの車なんだろう?

     J: 車というよりボートみたいだな。ボートはターンする準備が必要でしょ。事前に用意をしておいて、流れに乗る、みたいな。そんな感覚だと思う。手応えの確かなグリップ力のあるスポーツカーも楽しいけど、お尻が流れていくようなフローする感覚の車も好きなんだよ。もちろんすごいトリックなんてしない。ただクルーズを楽しむだけ。

    N: 今、スノーボードのデザインは面白い局面をむかえているよね

    J:  そう、とうとう3Dになったからね。アル・メッリックとサーフボードのデザインについて話をしてごらん。彼は「波にボードを合わせる」という話をするはずだから。サーフボードはもっと進んでいる。今スノーボードも3次元へと変わりはじめた。これまでもコンピューターでデザインをしてきたけど、そこに3Dの視点が加わると、このスポーツに新しい可能性が開かれると思う。
 

“フライングV”という名のデザインがある。ダニー・デービスはこのシステムを搭載したボードを使って、アイシーなハーフパイプでダブルコークをメイクするんだ。彼は僕が尊敬するライダー。とても楽しんでルースなライドをするからね。彼はテクニカルな滑りをするけど、今はそういうスタイルが主流だから。でも根底には楽しく、かつスタイリッシュに滑りたいという気持ちがある。

 スノーボードデザインはまだまだ日々向しているけど、もし今一生使うボードを一つ選べといわれたら、僕はフライングVを選ぶよ。
   

    ジェイクはまだ熱心に最新ボードについて話を続けている。一生懸命話を聞こうとしたが、僕は一瞬考えてしまった。この人、人生の半分をいいスノーボードをつくることに費やしてきたのに、いまだに熱中している、と。大学を出たての若者のような情熱で話をしている。ひとつのことに努力を続けている人に会うと本当に感動する。ライドオン、ジェイク。僕も見習ってがんばるよ。