>  屋外日本雑誌  >  Issue 59 (Spring 2016) : 4月/5月 2016  > 特徴 >  パタゴニアの氷河を求めて

特徴

2016
Issue 59 (Spring 2016)
パタゴニアの氷河を求めて
By アーロン・ジェイミーソン

パタゴニアの自然は究極の姿その壮大な山々と古代から続く氷河の広さは無限と思わせる。地図上からルートを考えると、なにもない不毛の大地にガソリンスタンドを点でつなげるような容易さに思えた。しかしながらこの地での 旅は、柔軟な計画とじゅうぶんな時間、おそらく地図上で考える倍の行程がかかると考えたほうが賢明だ。

春の雪を求めて私たちはこの広大なバックカントリー、パタゴニアを訪れることにした。おそらくグアナコと呼ばれ るラマもいたるところで見られるにちがいないと期待してい たのだが。この地球上で過酷な自然といわれるこの地の 気候に打ちのめされて、私たちがスキーと格闘しているとき も、たしかにグアナコはすぐそばで楽しんでいた。

つまり、1ヶ月にわたる遠 征はほとんどが 私たちの 期 待 とは違っていたということだ。忘れられない冒険となったの は、最終日の前日に私たちが手付かずの斜面をやっと発 見し滑ったことだけだった。パタゴニアの名は南アメリカの最南にある荒野として知 られている。山や砂 漠や氷 河などのその大自然の広さは スペインの2倍、しかも人間はそこにわずかしか住んでいない。私たちの冒険は「火の土地」として知られるテラデルフエゴ諸島から出発した。ここはアルゼンチンの大地が火山の地殻変動によって形成されたことが容易に理解できる場所だ。ウシャイアの町を散策すると、ここが最南端の都市であることがよくわかる。厳しい自然環境でもすくすくと育つアシカと違って、人間はこの海岸線にしがみつくように暮らしている。

極寒の太平洋から吹きつける容赦ない風が、ここが南極への玄関口だということを思いださせる。ウシャイアから北を目指す。風雪の舞う広大な砂漠を二 分する未舗装の「ハイウェイ」がその唯一の道だ。地平線には凍りついた山々が連なっている。そのジグザグ模様のりょうせん稜線は、敵意をむきだしとも表現できるほどの荒々しい巨大な氷河によって削り取られた。砂漠は私たちを西にあるアンデス山脈の麓へと誘った。そこはパタゴニアの空まで届きそうな氷河が高く氷冠のようにそびえていた。ペリト・モレノの氷河に立つと、つまらなさを感じた。しかし数千年をかけて氷河に削られた教会 の聖堂のような大きさの氷が眼下の礁湖に向かう光景は すごかった。フィッツロイ山は氷河によって削られたいわば尖塔。世界でもっとも登頂が困難な山として知られている。その氷河壁にたどり着くのに、川や山々を越えて2日かかった。途中で出会った人はほんのわずか、氷河の氷を溶かして飲料としているうちに魂が清められていくような気分に浸った。

「ハイウェイ」と揶や 揄ゆされるルート40号線は乾燥した泥の塊、砂利、岩、窪み、そして残雪の道だ。パタゴニアの最南端からバリローチェの山々までその約3,000kmを私たちは走破した。つまりアルゼンチンの約半分の長さに相当する。

あるとき最後の町を過ぎて200kmほど走ったところで、車が窪みにはまってしまったことがあった。時速100kmは出ていたと思う。すでに28日間を走破していたから、車の底部に備えられてあったプラスチック製のプロテクターは ひへい 疲弊して、窪みに乗り上げたショックに耐えられず、ガソリンパイプに傷が入った。ガソリンをそこいらじゅうに撒き散らかしながら車は止まっ てしまった。荒野の真ん中だ。電話のオペレーターもいな いのはもちろん、助けてくれる人はいない。そこには数頭 のグアナコがいるだけだった。 するとそこに突然、身長が2mはありそうな長髪の美少年が、ド派手なブラジリアン女性とともにあらわれた。私た きゅうじょう ちの窮状をすぐに理解したその少年は次の町まで行き、すでに通過した町にいる修理工に連絡を取ってくれる約束を した。その約束とおり、6時間後に修理工は工具とともに あらわれて車を修理してくれた。

この地獄のようなバックカントリーを知り尽くした修理工 のおかげで私たちはふたたび笑顔を取り戻し、記念写真 をすまして旅を続けることができた。彼は往復400kmを費 やして、地球の反対側からやってきたふたりの旅人を助け てくれたのだ。ささやかなお礼として1ケースのビールを進 呈した。この4週間のハイクやキャンピング中に私たちは生まれ て初めて見るような美しい大自然を何度も体験した。偶然 出会った地元の人々のほかには、私たちは1ヶ月のほとんどを人里離れた自然のなかで過ごした。旅を続けながら、アンデスの雪のコンデションが良くなるように願った。 結果的には北の山々や氷河でなんとか滑られるくらいではあったが、それでもこの地にターンを刻むことができた。パタゴニアのスノーシーズン最後の月だったから、まぁしかたないか。✤

WEB CONNECTION

Instagram: aaron_jamieson_
Facebook: AaronJamiesonPhotography
Web: www.aaronjamieson.com