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特徴

2012
Issue 44 (Summer 2012)
夜神楽と九州の太陽神
By Lee Dobson

 太陽神アマテラスと、その弟月の神ツクヨミはかつて一緒に空に昇っていた。ところが弟の月読がかっとなって別の女神を殺してしまったことに心底腹を立てたアマテラスは二度とその弟の顔を見ないことを心に決め、ここから昼と夜が出来た言う神話がある。

 
もしかしたらこんな神話が生まれたのは、先日5月21日の日食のような日だったのかも。太陽神と弟がこうしてたまにお互いの違いを横に置いて出会う日。アマテラスはスサノオの妹でもある。スサノオは嵐の神で時に激しい怒りを表すことで知られる。
 
一方アマテラスは慈悲と知恵の女神。素晴らしい織物を作ることでも知られ、日本の織物は全てアマテラスから始まったとも言われている。そんな妹をねたんだスサノオが癇癪をおこし、彼女が大切にしていた馬を殺しその屍を織物部屋に投げ入れ、織り機を破壊しお供を一人殺したのだった。
 
この非常識な行動に激高したアマテラスは以来洞窟に隠れて二度と出てこなくなってしまった。その日から地球には闇が押し寄せた。作物は枯れ、全てがだんだんとおかしくなって行った。
 
 
さて、この神話のヒロインが隠れている場所は、日本の南、宮崎県高千穂町の近くだ。九州のこの辺りは緑が多く、低い山々が連なり、滝を擁する息をのむような渓谷や日本有数の美しい寺院などで知られる。街に歴史が深くしみこんでいる、そんな場所である。高千穂神社が建てられたのは今から1200年も前のことで、巨大な杉に囲まれたこの神社はほとんどその陰に隠されていると言っても良いだろう。
 
ここは宗教的にも重要な拠点で、日本最古の文献である日本書紀にも度々登場する。日本の重要無形文化財として知られる夜神楽が生まれたのはここ高千穂だ。この伝統的な神道の舞いは夜神楽三十三番と呼ばれ11月の終わりから2月の初めまで夜ごと地元の選ばれた民家で行われる。
 
二十四ある夜神楽保存会にはおよそ480人の「ほしゃどん」と呼ばれる舞人がおり、33の神楽それぞれが神話や伝説を表現し、高千穂神社ではこの33番の中でも代表的な4つの神楽を毎晩演じている。
 
一つ目はアマテラスが岩戸の中にいること信じて外から耳をそばだてるタジカラオの舞、二つ目の陽気な女神ウズメの舞は、岩戸からアマテラスを呼びだすための少しおどけた舞で、これには他の神々も笑いをこらえることが出来ず、その騒ぎにアマテラスも様子をうかがいに顔を出してしまうほどだ。三つ目は力強さで知られるタジカラオの舞は岩戸を閉ざしていた岩を遥か長野まで投げ飛ばし、アマテラスの手を引いて引きずり出した神話。この話にでてくる岩は戸隠しと呼ばれるのだが、長野市のすぐそばにある戸隠という街に落ちたと言われている。最後の一番面白い舞はアマテラスの父と母であるだけではなく日本の父と母とされるイザナギとイザナミの神話を表現する。日本創造の神話を表しているのだが、日本はどうやら酒を飲み、熱い抱擁を交わした後に出来たようである。
 
 
高千穂から10キロほどの場所に、天岩戸神社がある。アマテラスが隠れていたといわれる洞窟がある場所だ。西本宮から僧侶が定期的に見学につれていってくれる。短い祈祷の後小さな川の向こう側にある洞窟へと少し歩く。写真撮影は禁止だ。
西本宮から東へと川と並走する小道を歩くと小さな洞窟の中にある天安河原へたどり着く。ここで神々は太陽神をどうやって洞窟から出すか会議を開いたと言われている場所だ。
 
ここには幸運を祈る人が積み上げた石の山があり、一つ崩したら二つ作らなければならないそうだ。すばらしい景色であり、パワースポットとしても知られている。
 
岩戸へは高千穂バス亭から定期的にバスがでている。宮崎交通バスで20分、岩戸で下車し神社までは徒歩15分。
 
パワースポットといえばマイナスイオン。ここには滝を擁する渓谷がある。高千穂神社にほど近い高千穂峡は五ヶ瀬川を囲むような黒い溶岩の壁に縁どられている。夏になれば周辺の緑がこの黒い岩肌を埋め、ゆっくり流れるアクアブルーの川の水はまるで絵のようだ。川ではボートを漕いでみるのも良いかもしれない。
 
高千穂は一年を通して観光できるが、夏、生き生きとした緑と爽やかな自然に囲まれた神社は特に素晴らしい。
 
滞在中に一度は試してほしいのがチキン南蛮だ。地鶏をから揚げにし、タルタルソースをかけたものなのだが、最高に美味い。
 
 
さて、我々のヒロインはどうなったのか?幸いなことに、ここでは毎日どこかで太陽が降り注いでおり、つまり、あの太陽の女神は洞窟から出てきてくれたと言うわけだ。
 
彼女を洞窟から出したのはあのウズメだった。舞でも表現されているように、ウズメが踊ったマイリー・サイラスの”Left little to the imagination” に神々は大ウケ、アマテラスは好奇心に負けて洞窟から顔を出してしまった。ウズメはアマテラスに気づかれないように洞窟の外に鏡をかけておき、何も知らないアマテラスは鏡に映った自分を自分の代わりの女神だと思い、よく見ようともう一歩外にでたところをタヂカラオが引っ張り出し、ふさいでいた岩を遠く1200キロ離れた長野へ放り投げ、二度とアマテラスがここに隠れられないようにしたと言うわけだ。
 
天皇家の直属の先祖がこのアマテラスだと考えられている日本において、この神話はとても大切にされており、同時に、またいつこの姉と弟が喧嘩を始めるやもわからないこの世の中、何でも当たり前だと思っていてはいけないという教訓にもなっている。
 
この街を最大限に楽しむには、最低でも一泊はしてほしい。高千穂神社の夜神楽ははずせないし、7月8月には渓谷が見どころとなる。何はともあれ、ここ、神々が歩いた場所を散歩するのは最高の気分にちがいない。
 
 
アクセス:
高千穂は宮崎県だが、熊本市からの方がアクセスは良い。大阪から18020円で定期的に運航している。熊本駅からはバスが出ており、鍋岡行きに乗り、3時間ほどで高千穂に到着する。片道2300円程。支払は下車時に。数百円お得に行くなら熊本中央バスターミナルで往復チケットを4000円で購入するのがおすすめ。
 
夜神楽:高千穂神社で毎日夜8時から9時まで。チケットは入口で500円 TEL:(0982) 72-2413
 
宿泊:中心部に位置するかみの家旅館はおすすめ。利用者の評価も高く、夕飯の地元産ビーフは最高。
 
お役立ち情報
 
アクティビティ: 渓谷でのボートの他、高千穂は日本最南端のスキー場もある。人工雪のおかげで一年中滑ることが出来る。
五ヶ瀬ハイランドスキー場 (0982) 83-2141
 
キャンプは4月から11月まで可能。詳細は(0982) 73-1212まで。
 
天岩戸温泉は手頃な料金(400円)で入れておすすめ。バスで15分、徒歩10-15分ほど。宮崎交通バスで天岩戸行きにのり、天岩戸温泉で下車。
毎週第三木曜日定休、祝祭日と重なった場合は翌日。