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特徴

2012
Issue 43 (Spring 2012)
A Blue Shade of Pink
By Lee Dobson

「恥の多い生涯を送ってきました」(1948年太宰治著『人間失格』より)

 
クリストファー・マウローの戯曲に登場する「千の船を出陣させた顔」という表現さながら、太宰のこの一文は、僕に青森の地への興味を抱かせるに十分だった。
 
青森県には、この地出身の太宰と良く似た荒々しい自然が手つかずの状態で残っている。南に秋田県と岩手県が隣接し、津軽海峡の向こうには北海道を望む、本州最北の県だ。
 
青森県では、津軽弁と南部弁の2つの方言が話されている。現地の人以外には理解不能な東北独特の強い訛りは、辺境の地らしい情感を漂わせ、その叙情的な響きが耳に心地良い。聞こえてくるローカルの話し声を純粋に楽しみながら温泉に浸かる時間は、なかなか贅沢なものだった。まあ、話の内容は全く分からなかったけれど。
 
長い間、青森は豊かな森と海岸線に守られた静かな土地で、屈強な百姓や狩人が住みついてきた以外には、南西部から未開の地を求めてやってくる人が少しいるくらいだった。
 
1841年、明治政府による廃藩置県の詔によって、陸奥から青森県が誕生した。漁業、農業、林業といった第一次産業が主力で、なかでも青森のりんごは日本有数の知名度を誇る。
1945年以降、敗戦国として戦後の復興期を迎えた日本の再興に関わった重要人物ふたりが、青森のような辺ぴな土地から誕生したことはなかなか興味深い。
 
太宰治(本名、津島修治)は、11人きょうだいの10番目の子として、青森県北西部にある五所川原市に産まれた。太宰の文章は時代の風潮を捉えた、真に迫る深刻な作風で、時に自伝的でもあった数々の名作を遺して民衆から大きな支持を得た。
 
もうひとりの人物は、1900年弘前市生まれの石坂洋次郎。陸軍報道の経験も持つ石坂は、太宰とはまた違ったアプローチで民衆に新たな未来を示した。大流行した代表作『青い山脈』は、民主主義の啓発に大きな影響を及ぼした作品だと言われている。残念なことに石坂の作品はあまり英訳されていないが、多くが映画化され、日本の戦後復興の大きな一歩となった。
 
ふたりの英雄を生みだした街を巡り、花見スポットとして有名な弘前公園を訪れることにした。5月初旬だというのに、桜の花はまだ散っていなかった。
 
弘前は日本最北の城下町で、秋田県との県境からほど近い津軽平野に位置している。城主大浦為信は、1571年に南部一族を攻撃しこの一帯を支配した。1590年には、豊臣秀吉の小田原征伐に参陣し、秀吉より所領を安堵され地元大名となったのだという。この年から、大浦為信は姓を津軽と改名している。
 
1603年、津軽為信は弘前城の建設に着工したが、建設途中の1607年に京都で死去したため、一旦中断されてしまう。1609年に息子の津軽信枚が引き継ぎ、弘前城は1611年になってようやく完成を迎えた。
 
元々あった5重6階の立派な天守は、残念ながら1627年の嵐の夜、落雷によって炎上し、その炎が火薬に引火したため大爆発を起こし、消失してしまった。現存の3重の天守は、1810年、第9代藩主津軽寧親の代になって建築されたものだそうだ。
 
1871年には明治政府の手に委ねられ、大日本帝国陸軍部隊の分営が置かれた際に多くの建物や城壁が取り壊されてしまった。そして1894年には藩主の申し出によって城址が公園として一般開放されるようになった。
 
今では、4月終わりから5月初旬にかけて毎年2600本の桜が見事に咲き誇る。日本屈指の花見スポットとして知られ、毎年100万人を越える来場者が訪れている。開場時間は、9時から17時まで。弘前城への入園料は300円で、それに弘前城植物園と藤田記念庭園の共通入園券がついたものが500円で発売されていて、桃色に染まった見事な景色を満喫できる。
 
4月23日から5月5日まで行われる弘前さくらまつり期間中は、夜10時まで開園していて、ライトアップされた幻想的な桜並木を楽しめる。ライトが消えるまでブラブラしていると、地元の人たちが次の日の為にゴミ拾いに精を出す姿に出会うはずだ。並んだ屋台では、地元ならではの美味しい食べ物が並び、土地の食文化に触れるいい機会でもある。
 
もちろん弘前市は、さくら以外の見どころもたっぷりだ。日本でも珍しいルネッサンス様式の建造物は有名だし、独特な“コワかわいい“少女の絵で有名な世界的ポップアーティスト奈良美智の出身地でもある。
 
弘前市は、青森県の溢れる魅力のほんの氷山の一角に過ぎない。粋な青森を、是非是非ご自分の目で確かめて頂きたい。
 
アクセス:東北新幹線で、新青森まで一直線。そこから津軽方面に向かって特急電車で30分走ると弘前駅に到着する。東京から弘前市までは約5時間の電車の旅。弘前駅から弘前城に行くには、土手町循環バスに乗り込み、15分程先の市役所前バス停で下車。
さくらまつり期間中、宿泊施設はどこも混雑が予想される。バスや電車の便が良いので、青森市や秋田に宿泊して巡るのも良いだろう。
 
役立つウェブサイト:
Aomori Prefecture: www.pref.aomori.lg.jp