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特徴

2012
Issue 42 (Winter 2012)
Palau’s New North
By Tim Rock with Yoko Higashide

Palau’s New North
Story and Photos by Tim Rock with Yoko Higashide

パラオを訪れるダイバーの多くは、たいてい人気の高い南のダイブスポットへ出かけていくが、実は、海岸からは離れている北の内陸部やパラオ最大の島のアウターリーフにもいいスポットがあり、最近は冒険好きなトラベラーたちが足を伸ばすようになってきた。

まさに予想をはるかに上回る光景だった。まだ早朝の時間帯、僕は暖かく透き通った海の中、海面から20メートルの位置にいた。ここは北パラオのデビルフィッシュシティ。カレントが入り込んできて、僕はそのブルーの空間をじっと見つめた。すぐ近くにある大きな岩の上をそのカレントが通り過ぎていくと、岩を覆うイエローとレッドの美しいソフトコーラルが、エサを捕まえようといっせいに体を開く。岩の下でアーチ状になった場所では、スウィーパーたちの群れが赤褐色の液体のようにスルスルと移動している。そして、それは起こった。

計3匹のマンタが突然姿を見せたのだ。1匹ずつ、それぞれがゆっくりと移動しながら、そのうちの1匹はムチサンゴがビッシリと生息しているエリアに落ち着いた。さらにここでバタフライフィッシュとベラが現れ、大きなマンタの寄生生物をついばみ始めた。マンタたちはこのクリーニング作業を楽しんでいる様子で、しばらくすると周囲にいるマンタは5匹に増えていた。

下あごの部分がえぐられたようになっている1匹がいた。おそらく釣り糸かネットに引っかかった際に負った傷なのだろう。僕たちのガイドであるヨーコ・ヒガシデは、このマンタを知っているという。よくこの場所でクリーニングをしているのだそうだ。ここでクリーニングをしながら傷を癒し、その傷が治ってからもこのエリアで暮らしているというわけだ。また他の1匹は腹部が雪のように真っ白だった。カレントが強くなっても、彼らは互いに追いかけあうようにしながら食事を続けている。僕としては、1日の始まりとしてはこれ以上ないほどの光景だった。

多くのダイブボートがようやく出発し始める午前9時には、すでに2度のダイブを終えていたので、今度は川の方をチェックすることにした。ふしくれだった木々の根っことそこから伸びた枝が天蓋のように頭上を覆う、うねうねと曲がりくねったルートは、そこを通るだけでワクワクする。川面に浮かんだ花の間を抜けながらスノーケリングをすれば、根が複雑な形に入り組んだ水中にテッポウウオが泳いでいた。水の上方はフレッシュで澄んでいるが、下方は海水性の塩分躍層になっている。住まいとしては、かなり個性的な場所だ。といってもこの北パラオの川には海ワニが生息しているから、彼らのランチにされないように、こちらも慎重に進んでいた。

パラオ諸島は、疑いなく世界でもっとも美しい場所のひとつだ。片方の端から反対側まで、100マイル以上にわたって群島が広がるこの地域には、驚くほどに見事な環礁やバベルダオブ島と呼ばれる火山島などがあり、ミクロネシア内ではグアムに次ぐ広大な土地を誇る。他にも700に及ぶロックアイランド、南にはふたつの石灰岩の島も横たわる。

バベルダオブ島は、陸の上でもアウターリーフでも、まだ人の手がそれほど入っていないパラオらしい趣を十分に表している場所だろう。現在では島を一周するように延長された53マイルのコンパクトロードのおかげで、これまでのように南だけでなく、島の北側にまで簡単に足を伸ばせるようになっている。南側の斜面沿いはすでに有名なダイブサイトになっているが、新たに北側へのアクセスが整備されたことで、こちらでもまた今後、次々にいいスポットが開拓されていくはずだ。

パラオでのスキューバダイビングは世界的に知られているが、この海で楽しめるのはダイビングだけではない。たとえば世界有数の美しい環礁であり、当然その写真が数多く撮影されている場所のひとつ、北パラオにあるカヤンゲル島。ここはまさに典型的な太平洋の環礁のひとつで、チャンネルの入口近辺にはハシナガイルカの群れが暮らしている。だから彼ら住人と一緒にスノーケルをすることだって出来るし、環礁の中にある、周囲をビーチに囲まれたココナッツグローブの無人島に上陸してみることも出来る。いいガイドを見つければ、まだツーリストがほとんど足を踏み入れたことのないまっさらな場所を満喫することも可能だ。

そこまで遠出をするのはちょっとね… という場合は、車で30分程度で着く新しい駐車場へ出かけ、バベルダオブの壮大なセントラル・ウォーターフォールの絶景を楽しむのもおすすめ。海抜の高い場所から谷になった低地まで、目まぐるしく景色が変化する道路そのものも魅力的だから、ドライブするだけでも楽しめる。また、このハイウェイはサイクリングにも最適だ。いまのところは交通量も少ないし、これまではコーラルと未舗装の道しかなかったこの島の魅力を存分に味わえるだろう。ジャングルの中にいるのはオオコウモリ、小型のウッドオウル、様々な種類の鳥たち、それにまるで棒が歩いているような不思議な昆虫たちも。

ガラスマオの滝へ出かけるには、これまではあの天蓋のようなジャングルの木々に沿って川を上っていくしか方法がなかったが、道路が整備されたいま、今度はその道路をひたすら下っていった先にある。そこから、その小道の入口でハイキングスティックを手に取り、歩いて入っていく。ハイクの途中、第二次世界大戦前のボーキサイトの採鉱跡を通り、その先にはジャングルの傾斜の急な谷沿いに伸びた列車の線路も見えてくる。腕のいいガイドが一緒なら、鉱石を運んでいた列車本体も1~2本見せてくれるはずだ。

僕たちのガイドは、おそらくパラオでも1、2を争うベテランで、パイオニアでありスキューバダイビングの殿堂入りメンバーのひとりであるフランシス・トリビオンだった。彼はフィッシュ・アンド・フィンズの創設者でもある。1960年代の終わり、ティーンエイジャーだった彼は、海上での様々な困難に見舞われながらも数々のリーフを発見して開拓、上陸していった。その彼が僕らのハイクに加わり、木々が深く生い茂った尾根線を抜け、2台の機関車が止まっているところまで続く線路沿いを案内してくれた。ジャングルの中に60年以上も打ち捨てられたままの過去の遺物は、静かなたたずまいの中にも確かな歴史を感じさせる圧倒的な存在感があった。

ジャングルの中に壮大な滝が姿を見せる場所には、その眺めを見渡せるエリアが設けられている。そしてそこから滝の方向へ向けて急な道が下っていく。途中には支流の川が岩で出来た幅の広い平地を横切るように流れる場所があって、そこで冷たい水を楽しんだり、水溜りにいる小さな魚たちや淡水エビの姿を楽しんだりも出来る。

川を安全に下りていくために張られた何本かのロープを別にすれば、このエリアでは川も滝も可能な限り自然のまま手つかずの姿で守られている。滝の近くには階段やいくつかのシェルターもあったりして、決して楽なトレックとはいえない。簡単に作られた小道は草履を履いていてもひるむような泥だらけの“チョコレート通り”状態だ。

最後のパートではヒザまで浸かる川を越え、ようやく滝の上に到着する。この滝の出発点は、パラオでもっとも標高の高いピークである高さ713フィートのゲルチェレチュース山。滝がもっとも美しいのは雨が降った後だが、雨中のハイキングもなかなかクールだ。はるか高いところから冷たくクリアな水が落ちてくるその光景は、体と心をリフレッシュしてくれる。そのスプレーの中を走って抜けて、滝の裏側まで進めば、そこはまさに自然のアトリウム。太平洋でもトップクラスの自然のアトラクション。リラックスしてクールオフしてエネルギーを補充… そんな時間が待っている。ただし、帰りのハイクはすべてが上り坂だから、必要な水分は十分に持参しておこう。

島には、同じくポピュラーなガトパン滝など、ここ以外にもいくつかの滝がある。それに、いまだにあまり人が訪れない淡水湖などもあるが、ここには大量のクロコダイルが暮らしているという噂だ。

一方の陸でも、ガルメログイの村からボートやカヤックを手配することが可能だ。またゲルメスカン川は自然のままの美をそのまま残している。河口はマングローブの森で、内陸に入るにつれてうっそうとしたジャングルへ景色が変化していく。この川は自然を愛する人にも冒険好きにも、どちらにもうってつけの場所。ここで僕らはボートから飛び降りて、岸まで泳いだ。そこから歩いてバンクを上ると、かつての日本のパイナップル缶詰工場が見えてくるが、驚いたことにいまもここではパイナップルがしっかり実っていた。さらにまたここは、カヤック乗りが海水に住むクロコダイルに注意しながら進まなくてはいけない場所でもある。

クロコダイルといえば、島の東側ではジャングルリバーツアーも楽しめるが、このツアーではかなりの確率でクロコダイルに遭遇出来ることで有名だ。ゲルドルク川はジャングルを曲がりくねって抜けながら流れ、その後に海へと流れ込んでいく。途中には古代から生き続ける木生シダや野生のランやキャノンボールツリーが生えているし、マングローブの森特有の珍しい鳥、パラオフルーツダブやこの場所固有のカワセミも生息している。そして同じその場所に、ボートの上にいても恐ろしくなるようなあの野生のクロコダイルも住んでいるというわけだ。彼らは水中のほぼ真下から突然現れることもあるので、うっかりヒジを外に出していると大変なことになるかもしれない。ここはしっかりと注意したい!

スキューバに話を戻そう。パラオの北にあり、まだ人も少ないいいダイブサイトは、バベルダオブ島のウェストセントラル沖にあるゲルムロングイチャンネル、別名ウェストパッセージだ。ここはパラオ語でジュゴンを意味するメセキウの姿が、世界で唯一水中で撮影された場所として知られる。カレントが速く、傾斜のあるウォールに沿って激しくドリフトするため、大きなコーラルやマルチカラーのソフトコーラルをたくさん見ることが出来る。他にも付近をクルーズする大型のシャークや、ヒドロ虫を食べ漁るウミガメにも出会える場所だ。

バベルダオブのロックアイランドを少し登っていくと、ヤップの石貨を作っていた石切り場がある。石を車輪のようなピースに切り出して石貨を作るわけだが、なかには直径が1メートルを越えるものもあり、いまもジャングルの中にいくつかが残されたままになっている。

その午後は、ジェイク・アイチのフロート水上機が最後に着陸したまま残されている場所を探訪して過ごした。水上機は新しく作られた橋のバベルダオブ側、水面ギリギリの位置に置かれている。ジェイクの水上機のうちの1機の近くには洞窟があるが、そこは1965年に人間を襲って殺したクロコダイルが捕獲された場所でもある。機体はかなり傷んではいるが、プロペラやエンジンはまだちゃんと付いたままだった。

今回のデイトリップのメインのひとつは、プラネット・ブルー・ターザンツアーだった。マリントンネルを進むダイブはアクション満載のアトラクション。スタートは人里離れた雰囲気のロストレイクで、そこからソフトコーラルで敷きつめられた40フィートのトンネルをパドルで抜け、マリンレイク内側の世界へ入り込んでいくのだ。さらにその後ゲルクタベルの西側にあるラビリンスのような島々を通り、ベロチェルベイへと移動し、潮が引き続けている間はダイブライトを手にして、スノーケルで真っ暗なトンネル状のパッセージを進んでいく。するとその先に、まるで世の中のすべてのことからかい離したようなターザンレイクがある。フリーダイブ(スノーケルを使って)で石灰岩のほら穴を進めば、その先には無数の部屋になっているような洞窟が待っている。釣り下がる鍾乳石、ソーダストロー、それに“アイスルーム”。そして最後はそびえたつ露頭から海へとダイブする。

コロールの近く、美しいロックアイランドには、世界でも最大級と呼ばれるドルフィンの生息地がある。バンドウイルカが自由に遊び回り、運が良ければキャンゲル・スピナードルフィンにも出会えるが、そうでなくても大きなバンドウイルカと一緒に泳いだり、触れ合ったりする可能性はほぼ確実に保証される自然のままのリーフだ。遊び好きなドルフィンたちと、1対1で触れ合いながら時間を過ごせる貴重な場所である。ヨーコも1頭のドルフィンと一緒に海底を泳ぎ回り、ドルフィンの胴体につかまって海面まで上り、しかもその周囲にもさらに2頭のドルフィンが並走して泳いでいた。なんとも貴重な体験を楽しんでいたのである。

そしてもちろん、南にある有名ダイブサイトのビッグ2も忘れちゃいけない。ひとつはワールドクラスのダイブサイト、通称ブルーコーナー。世界最高のボートダイブとされている場所だ。さらに、マンタのエサを食べる場所で、ジャックやスナッパーの大きい群れがいるジャーマンチャンネルもこの南側にある。それに、世界でもっとも美しいフォーメーションのひとつと呼ばれるロックアイランドも。

ブルーコーナーでのダイブは本当に素晴らしい体験だ。なかでも、タイドが変化してカレントが動いている時のダイブが一番いい。しかもカレントが強くなるほど、目に出来るアクションの数も増えていくようだ。僕らの場合は、傾斜のあるウォールに沿って進むや否や、すぐにグレーリーフシャークに遭遇し、ガイドにはそのまま青一色の水中に留まるようにと言われた。ビッグアイジャックやブラックバーバラクーダの群れとも出会った。リーフウォールと僕らの周囲を、グレーリーフとホワイトリーフの各シャークが交互にクルーズしていく。少し先を見れば、そこには巨大なワーフ―。この大きな釣用魚は、釣り師にとってはまさにトロフィーそのもののような存在だ。そしてそのまま濃い雲のようにたくさんのスナッパーと、ロングノーズバラクーダの一群の間を抜けて移動し、コーナーへとたどり着いた。どこを見ても魚たちがいて、スピード感のある楽しさがある。それがブルーコーナーだった。

翌日のダイブは満潮を狙ってジャーマンチャンネルへ。レッドスナッパーの大群が食事を始める頃には、ここでもまたエキサイティングな光景が繰り広げられた。僕らのすぐ上をセイルフィッシュがクルーズし、この時間帯にはプランクトンを食べるためにマンタもチャンネル内に入ってくる。口を大きく開け、大量に飲み込んでいく彼ら。バレルロールや“アクアバティック”とでも言うべき、彼らにしか出来ない動きを繰り返しながら、最後には彼らのお腹もいっぱいになり、6メートルほど離れた場所からそのショーを見ていたわれわれも十分にエキサイティングな時間を満喫した。

メジャーなツアーやダイブオペレーションでは、現在北へのランドツアーなど、様々なオプションを設けているところが多い。北でのダイビングやスノーケリングは、いまや南の有名ダイブサイトに優るとも劣らないオプションになりつつある。といってもまだまだ人は少なく、自然も残ったままだ。

バベルダオブのリバーバレーに鳥の最後の鳴き声が響いてくると、時間はもう夜だ。ジャングルの上空には雲が低く垂れこめ、サンセットの輝く暖かな光に包まれる。丘の上に座り、バリアリーフやデビルフィッシュシティへ視線を送る。北の丘を抜ける風の音を聞きながら、「パラオはサプライズに満ちた場所だ」とトリビオンが教えてくれた。そしてこれから先は、北がさらにたくさんのサプライズを生み出してくれることだろう。

コンパクトロード

パラオのコンパクトロードは、パラオが1986年にアメリカからの独立を果たした際に用いられたコンパクト・オブ・フリー・アソシエーションと呼ばれる条約からその名を取ったもの。The Department of the Interiorは、道路の企画、デザイン、建設管理に関してアメリカ陸軍工兵隊と契約を交わした。2007年10月に開通したその道路は、パラオの1億5000万ドルの“未来への道”となった。その道路が完成する以前、バベルダオブより北寄りの内陸部はボート以外ではアクセスが困難なエリアだった。

トラベラー・インフォ

言語:公用語は英語で、一般的に広く使われている。年配の人の中には日本語が堪能な人もいる。
アクセス:コンチネンタル航空が日本から、また香港からもグアム経由で毎日就航している。
移動:タクシーは数多く走っていて、ほとんどの場所から呼ぶことも可能だが、決して安くはない。レンタカー、バス、ローカルボートもあり。
出入国:ビジターは有効なパスポート必携。出国税のUS20ドルのキャッシュは搭乗券を受け取る前にチェックインで支払う。クレジットカードは使えないのでキャッシュの用意をしておこう。
通貨、銀行、クレジットカード:公式通貨はアメリカドル。ミクロネシア連邦州で営業しているアメリカのFDIC銀行がいくつかある。ビジターが多いビジネスならほとんどのクレジットカードが使用可能。
時間:パラオはGMTと10時間差。
電気:スタンダード110ボルト、アメリカタイプのコンセントが使われる。220のシステムには対応していないので、その場合はアダプターやコンバーターを持参するのがベスト。
単位:重量も計測もアメリカ式。深さはフィート、重さはポンド。ダイブギアもすべてがこの方式で表記されている。

フィッシュ・アンド・フィンズwww.fishnfins.com
プラネット・ブルー・ターザンツアー www.samstours.com
パラオビジターズオーソリティwww.visit-palau.com