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特徴

2012
Issue 42 (Winter 2012)
Powder Room With a View
By Neil Hartmann

Powder room with a view
二―ル・ハートマン

秋田県に位置する田沢湖は、観光レーダーにはなかなか引っ掛からない場所だ。でも実は、冬山好きにはもちろん、温泉マニアにとっても5本の指に入る屈指のパラダイスなのである。パウダーヘブンのロングランと見事な湖の景色、そしてフレンドリーなローカル達の噂を聞きつけて、僕が最初にたざわ湖スキー場を訪れたのは6年程前のこと。シーズン終盤だったものの、スプリング・コンディションを十分に満喫することができた。そして次回は東北のベストシーズンに戻ってこようと誓ったのだ。そんな訳で、これは僕の田沢湖へ凱旋した時の旅のお話。


まずは地理について少々。家のどこかに貼ってある日本地図を見て頂きたい。ないという人は車のグローブボックスを捜索してみよう。秋田県の内陸に真ん丸のカルデラ湖を見つけられただろうか。それこそが日本一の最大水深(423m)を誇る田沢湖で、翡翠色からサファイアブルーまで様々な色で季節を写し取る鏡面の水面が美しい。古い伝説を持ち、北岸に御座石神社を構え、近くには金色大観音がそびえ立つ田沢湖には、どこか神秘的な雰囲気が漂っている。
 

僕のように北海道に住んでいる人達にとっては、車でのアクセスがベストだろう。フェリーに乗って秋田港へ降り立ったら、美しい90分のドライブで田沢湖エリアに到着だ。関東地域からなら、こまち新幹線が3時間10分で田沢湖駅まで連れて行ってくれる。1997年に新幹線の停車駅になったこの駅から湖までは、タクシーかバスのアクセスが便利だ。


冬の田沢湖に来たら外せないことが3つある。スキーとスキー、そしてスキーだ。・・・と言いたいところだけれど、スキーと温泉、それから・・・まあ風景探索とでもしておこう。たざわ湖スキー場で滑り、かの有名な乳頭温泉で疲れた体を癒し、美しい湖の眺めにため息をつくのだ。そう、それこそまさに僕達がしたことそのままだ。


2月の第1週目、僕は仲間たちと何台かの車を連ねてフェリーに乗り込んだ。吹雪の中、たざわ湖スキー場の麓に借りたロッジに辿り着いた僕達を秋田駒ケ岳が出迎えてくれた。このスキー場は3つの峰を持つ駒ケ岳の中腹に位置している。一番高い峰である男女岳(おなめだけ、1,637m)は活火山で、最後の噴火は1970年だというからそう昔の話ではない。なにはともあれ、火山があるところに大きな山と温泉あり。僕の大好きな組み合わせである。
 

スキー場には13のコースがあって、34度の最高斜度を誇るのが“ぎんれいパラダイスコース”、そして僕のお気に入りは“黒森山コース”だ。ここもなかなかスティープなコースで、リゾート左側に位置する一人乗りリフトでアクセスできる。ただ平日のリフト運転は10:30までとなっているので、寝坊しないように気をつけよう! 圧雪エリアは全コースの半分以下で、あとの残りはまるまるパウダー天国だ。古いリフトに乗り込むのは、ほとんどが圧雪された急斜面で練習に励む地元のスキーチームの子どもたちだ。スキー場にゴンドラはなく、4本の2人乗りリフトと2本のフード付きクアッドリフトがあるだけだ。総輸送人数は1時間につき9,699人だそうなのだが、ご心配なく。週末でさえリフト待ちの列ともパウダーの取り合いとも無縁だったから。

スキーの大会や国体の舞台としての長い歴史を持つたざわ湖スキー場は、次世代のスキー選手の育成にも力を入れている。僕らの1週間の滞在中にも、スピードスーツを着た子供たちがレースや練習に励む姿を毎日のように目にした。

パトロールやスタッフは皆このレースに駆り出されているのか、他の客がどこを滑ろうが構っている暇はないのだろう。日本のリゾートはとかくロープと立ち入り禁止サインの多さで有名(偽パトロールの振りをしたマネキンまで立っている所だってある!)だけれど、ここではどこにも見当たらない。古き良き自由の風がまだ吹き続けているのだ。

木々の間を縫ってコースから次のコースへと続くそのパウダーの深さに、笑った顔が戻らない。山は大きくてコースの幅も広いことが圧雪エリアを最小限に留めてくれる。とはいえ、家族連れにも十分に楽しめるスキー場だ。ベース近くのワイドで緩やかなコースは初心者や子供たちにはパーフェクトだし、地元料理をふるまうスキーセンターのレストランもかなり良い感じだ。焼きそばも生姜ラーメンも何を食べても新鮮で美味しく、普段はスキー場の食事はどうも避けてしまう僕でさえ見直してしまった。

たざわ湖スキー場は西向きで、どのコースからも眼下に田沢湖の素晴らしい景色が広がる。もちろん見えたら、の話だが。僕達は1週間続いた吹雪のおかげでかなり視界の悪い日が多く、はぐれないよう注意しながら滑っていた。それでも夕暮れ近くの時間まで粘ってみれば、湖が見られる可能性が高いと思う。僕らの滞在中も何度かこの時間に、目の前に広がる田沢湖のパノラマビューに出会うことができた。雲の切れ目から差す自然のスポットライトが湖を照らし出し、観音像もキラキラと輝いていた。この風景は僕の心に永遠に焼き付いて、ハードディスクにもしっかりと保存されたのだ。


乳頭温泉郷

外は風が吹き荒れる大吹雪。まさに温泉日和! と言う訳で僕達は乳頭温泉で1日を過ごすことにした。乳頭温泉郷は7つの小さな旅館で構成されていて、それぞれに独自の源泉を有している。特に有名なのが350年の歴史を持つ鶴の湯だ。かつて秋田藩主の湯治場だったという由緒ある温泉で、庶民にむけて解放されたのは1600年代後半だそう。藩主たちが寝泊まりしていたという茅葺屋根の長屋は保存状態が素晴らしく、今でもここに宿泊することができる。乳頭温泉の露天風呂は殆どが混浴なのだが、独特の乳白色の湯がちょうど良い目隠しになってくれる。それでも、僕らのような若い雪山男集団の入浴姿は、入ってくる女性達に警戒心を与えてしまったようだ。

携帯電話の電波の悪さや、除雪車のおかげで随分走りやすくなったとはいえここに着くまでの長いくねくね道が、21世紀とは思えない秘湯の雰囲気を守りぬいているようだ。温泉に浸かり、しんしんと降る雪が舞い降りてはお湯に溶けて行く様子を眺めていると、300年前にタイムスリップしたような感覚を覚えた。


田沢湖キャットスキー

ロッジで天気予報を見ながら、どうやらこの頑固な吹雪はしばらく居座る気満々らしいと気付いた。青空は望めないにしても、せっかくだから駒ケ岳の8合目まで登るキャットツアーに行ってみようということになった。5キロほど離れた、今は営業休止となっているスキー場から出発して、雪上車はくねった林道をずんずん登って行った。

8合目小屋に到着し、僕らを降ろした雪上車が去って行く。夏には高山植物が咲き乱れて生命あふれるこの山も、今は見渡す限り静まり返っている。とは言っても、実はそんなに遠くまで見渡すことはできなかった。強い風が吹きつけ、視界はせいぜい20~30メートルしかない状態だったのだ。

たざわ湖スキー場の運営するキャットサービスにはガイドは付かない。地形はそんなにハードではないものの、コンディション次第では危険になり得るので、しっかりとした冬山の知識と経験が必要だろう。春ならば山頂までハイクしてスキー場に合流するロングランを楽しむのも良さそうだが、残念ながらこの日はそんなコンディションではなかった。僕らは林道から離れすぎないように注意して、楽しそうなセクションを見つけながら深い雪の中を滑り続けた。安くて楽しくて、なかなか知られていないバックカントリーの遊び方のひとつだ。

スキーと温泉と風景探索の5日間が過ぎ、僕達はしぶしぶと帰り支度に取り掛かった。これがさすらいのウィンター・バムの宿命なのだ。新たなディープ・パウダーの噂を聞きつけては新天地へと旅立つのである。でもその前にもう一本だけ! 山頂に上がって皆で集合写真を撮っていると、3人のスノーボーダーと遭遇した。少なくても60代位に見えるフレンドリーな夫婦とその友達は、10年前にスノーボードを始めたという熱い地元の方達だった。またおいでねと言い残して、3人はスプレーと共に林の中に颯爽と消えて行った。そう、そこには彼らを阻むロープの姿はない。無人の3キロクルージングを満喫してベースに戻った僕らは、田沢湖に別れを告げた。

田沢湖よ、ありがとう。また戻ってくるよ。


たざわ湖スキー場 
Tel: (0187) 46-2011
Web: www.tazawako-ski.com
*詳細はWinter Sports Guide (XXページ) に。