特徴

2011
Issue 41 (Autumn 2011)
The Shinetsu Trail
By Bill Ross

The Shinetsu Trail

森に囲まれた日本の美しいトレイルを歩く

山を登り、小屋やテントでひと晩を過ごし、翌日はまた次のピークを目指してテクテク歩く。日本にはそんな場所がたくさんある。しかも、それを一気に何日間も続けられるような場所だっていくつもあるのだ。

だがその一方で、本当の長距離をハイクできる場所は少ない。何日にもわたってトレイルをたどり、それなりの距離を歩きながら、道の途中ではそこに暮らす動物を観察したり、美しい景色や植物を楽しんだり。しかしアップタウンは全行程を通してもそれほど激しくない、というタイプのハイクがあまりないのだ。

タカノ・ケンイチ氏によれば、2000年頃に長野県は、長野市と日本海を結ぶプロジェクトに乗り出したという。日本海は長野県の北、それほど遠くない距離にある。

「最初に出てきた案は、いわゆるウォーキング・コースのようなアイディアでした。国からの補助金もある程度は出る予定でしたし、地元の人たちも、自分たちも何らかの形で関われるようなものにできれば、と考えていたんです

そして3年をかけて計画を練り、南の斑尾山から関田山脈に沿って北へと向かうコース作りの準備が始められた。現在は、ネイチャーセンター、ロッジ、NPOの信越トレイルクラブの本部でもある『なべくら高原森の家』のマネジャーを務めるタカノ氏は、2003年頃からここでの仕事をスタートしたのだそうだ。

「このトレイルを管理維持するための何らかの組織が必要だと考えていたので、すぐにNPOを作ったのです。第1ステージは斑尾から牧峠までの50キロのコースで、2005年の4月にオープンしました。2008年9月には、さらに北の天水山まで延びました」

ほとんど尾根沿いの道のりであるため、どこでも標高の変動は少なく、セクションによってはトレイル上から素晴らしいビューを楽しめる。志賀から野沢温泉にかけては長野の山々が楽しめるし、東には千曲川、西には妙高山を含めた頸城アルプスが見える。さらに北の方向を見れば日本海も視界に入ってくる。

「できる限り既存の道路や道を使って、無意味に木々を伐採しないことを心がけ、それほど幅の広くないシングル・トラックの道をイメージしていました」とタカノ氏。

そのため、ハイカーのトレイル・ランニングは歓迎するが、基本的にレースには使用しないということになる。

「実際に一部のセクションは100キロのトレイル・ランニング・レースで使われていますが」と笑いながら、「それ以外の場所はレースには狭すぎるトレイルですし、ぜひそのままにしておきたいと思っているんですよ」と言う。

信越トレイルクラブには、詳しい地図や、英語のセクションも備わった便利なウェブサイト(www.s-trail.net)など、わかりやすいインフォメーション素材が揃っている。といっても、このアトラクションを実感するには、やはり実際に体験してみることが一番だ。

8月に続いていた雨が落ち着くのを待ったものの、結局6つのセクションのうち南端にある短いセクションに出かけることにした。それでも途中で時おり激しい雨や霧に見舞われた。

トレイルと交差する中で最大の道路のひとつである292号線から南へ向かうと、道は山や農道に沿って進んでいく(ここはずっと他のハイカーの姿もなく、快適)。その後は細く、それほど人が通った跡も感じられない道に沿って、森の中へと向かう(だがタカノ氏によると、メインの5か月間のシーズンには毎年ここに3

5000人ものハイカーが訪れるのだという)。

周囲には様々な木々が生い茂り、鳥の声が聞こえ、緑のカーペットの中にイチゴの一種の赤いフルーツがなっていて、そのすべてが霧の中に浮かぶ光景はとても美しい。トレイルはさらに上りが続き、ついあのベリーを食べてみたいという気分になってきた時、1本の木からクマが降りてきた。

人間が動いているかのような、ガサガサという音がして見上げると、クマは近くに寄ってきていて、爪を立てながらほえている。手を叩きながらこっちもうなってみたが、クマはそれ以上突進するつもりはなかったようで、恐る恐る背を向けてその場から離れることにした。

これについてタカノ氏は「運が良かったようですね。このトレイルでクマが出るのはあのセクションぐらいなんですよ」と、笑いながら言っていた。個人的にはベアー・ベルがあまり好きではないのだが、あのエリアへ行く場合、とくに他にあまりハイカーがいない時にはひとつ持参した方がいいかもしれない。とはいえ、過去にトレイルで実際に事故が起きたことはないそうだ。

タカノ氏によると、トレイルすべてを通してハイクしたという人が現実にどれだけ存在するのか、とくに正確な数は把握していないという。「私たちのところに登録して、完全制覇の証明を受け取った方は200名ほどいらっしゃいますが、実際に全ルートを制覇している方というのはもっとずっと大勢いらっしゃるんだと思いますよ」とタカノ氏。6つのセクションは、それぞれひとつが1日で回れるように作られているが、タカノ氏によれば、たった4日で終えてしまうハイカーもいるということだ。

「ひとつのセクションを終え、ペンションで1泊するという方が多いですね。いまは北側の2つのセクションにテントのキャンピングサイトがありますが、来年にはすべてのセクションにキャンピングサイトを備える予定です」

コース沿いのそれ以外のエリアでキャンプすることは、基本的には禁止されている。それでも中には、地主に直接頼んで敷地内でひと晩キャンプさせてもらう人もいるそうだ。

週末にしか出かけられない場合には、斑尾高原のエリアもおすすめだという。

「ここにも信越トレイルと同様に多くのコースがあります。ここだけで50キロのコースもあるし、駐車場も多いので、ハイク後に戻ってくることも可能です。斑尾の山頂からの眺めもまたとても美しいんですよ」

また、トレイルの北側半分に向けて移動するセクション4と5を選ぶのも賢い方法だということだ。

「ここからは、長野の山々と海という素晴らしい眺めを楽しめます。美しいブナの森もあります。ブナというのはとても強い木なので、雪の多いこのエリアでもしっかり育つんです。これほど標高の高い場所でブナだけの森があるのはとても珍しく、その意味でも特別なエリアなんですよ。ただ雷雨などで天候が悪い時には安全とは言えない尾根線なので、注意が必要ですね」

多くのペンションでは、ロッジ宿泊者ならばハイキングに出かけた後も送迎を行ってくれる。セクションによってはバスや列車での移動も可能だということだ。

さらに、冬の尾根線を訪れるのもおすすめなのだとか。

「スノーシュー、テレマーク、クロスカントリー・スキーでのハイクを楽しめるんです。ただしこの時期はコーニスや急斜面が危険なセクションもあるため、ぜひガイドを付けて欲しいですね」

「信越トレイルは、ナチュラル・ビューティーを楽しむだけではなく、途中にある古い農家の集落や、いろいろな町や、数々の温泉や、地元の食べ物など、楽しみがたくさんある場所です。きっと新たな日本の一面を発見できると思いますよ」