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特徴

2010
Issue 32
忘れ去られた場所
By Michael John Grist

ADVENTURE TRAVEL: HAIKYO

静まり返った空間。床に転がる錆びたパチンコ玉を踏む音だけが聞こえる。目の前にぱっくりと割れて、年輪模様の中身をみせる緑色のボーリングが転がっている。タール塗装されたコンクリート支柱の周りには、ほこりと油染みだらけのスプレー缶が多く転がっている。

離れたところで可愛いひばりの鳴き声が聞こえる。通路を曲がると、一羽が僕の目の前を飛んでいった。瓦礫と化したロビーへ出て、シルバーの大きな落書きのある壁、扉が取れかかっている冷蔵庫などを通り過ぎていくと、巣があるのだろう、ひばりは柱の後ろへと消えていった。

草が伸び放題の駐車場へ目をやると、白いバンの廃車や、エスカレーターのエンジンの破片の向こうに、警官が赤い誘導灯で交通整理していてた。向こうからも僕らが見えるかもしれない。柱の影にしばらく隠れて、僕の周りを離れないひばりのダンスをしばし楽しんだ。

ここは確かに廃墟だ。
 “ハイキョ“とは日本語で放置され、荒れ果てた状態にある建物を意味する。多くはバブル経済の副産物で、建設途中で不動産ブームが終わってしまい、そのまま放置されている。買い手もつかず、解体するには費用がかかり、手が付けられない有毒物質のような資産である。

他の廃墟には、近隣の山々や町に化学物質の雨を長年降らせ続けたあげく、資源を掘りつくしたり環境問題を理由にやむをえず閉鎖に追い込まれた鉱山や工場などがある。いずれも大半は高度成長期に建てられたものだ。

海外では“アーバン・エクスプロアリング”、日本では”ハイキョ-イング“などと呼ばれ、いま廃墟探検は外国人の間でちょっとしたブームになっている。日本の本屋での「写真」、または「超自然」のコーナーを覗いてみるといい。ハイキョガイドや地図の本がずらりと並んでいる。荒れ果てたテーマパーク、工場、戦跡などテーマを絞った本まで見つけることができる。

僕は来日して7年になるが、前からハイキョには少し興味があった。最初の年に、偶然フェンスで囲まれていたアパートと米軍基地跡を見たことがある。そして2年前、本格的に廃墟を探検してみようと思った。

つたない日本語ながら、様々な本を自分なりに調べ、最初の廃墟探検の旅を計画した。レンタカーとホテルを予約し、友達2人と、群馬と長野の山奥へ出発したのだ。

この旅で僕らは、荒れ果てたテーマパーク、霧に包まれたゴーストタウン化した旧鉱山町、雪に埋もれた旧火山博物館、暗闇の鉄道トンネルを見てまわった。そして僕の廃墟に対する興味は決定的なものとなり、今日に至るまで何度もハイキョを探す旅を繰り返してきた。

の何がおもしろいの?
簡単に説明するなら、「インディージョーンズ」や「グーニーズ」という映画の影響だろう。これらの映画では、主人公は秘密を解くために、ミイラ、装飾品、宝物が隠され、仕掛があちこちにある墓場、洞穴、古めかしい寺院へ冒険に行く。

もちろん、ハイキョにこのようなものが隠されているなど思っていないが、秘密組織の金庫、閉鎖された病院の壁の素晴らしい落書きアート、押入れにミイラ化した動物を発見したり、廃墟となった寺の賽銭箱になぜがお金が入っていたり、夜に猿が叫ぶような不思議な声を実際に聞いたりしたことはある。廃墟にはミステリアスがあふれているのだ。

こういった事が廃墟を訪れる人々の冒険精神をくすぐるのだと思う。アルピニストは、頂上から素晴らしい景色を眺めるという冒険のため、何時間も身体的苦難に挑む。ハイキョに行くのは、そこまで負担はかからない。が、建物をよじ登ったり、雪崩のように上から落ちてくる土を掘って洞窟に入ったり,草が生え放題という崖っぷちの道路を、いつ壊れるかわからない標識につかまり進んだことはある。

ハイキョ探検をクライミング、ホワイトウォター・ラフティング、パラグライディングのようなアドベンチャースポーツと比較しているのではない。でもハイキョ探索はエキサイティングで、忘れた場所を訪れ、かつての様子を忍ばせるものを探し、なぜ今ここにこうして残され忘れ去られているのかを理解しようとする過程が面白い。

冒険感覚だけでなく、自然のもつ静寂と美しさを発見するのもハイキョの魅力なのだ。割れた窓ガラスからいつの間にか入り成長した葉っぱやツル、お風呂場の壁のヒビに繁殖するカビ、床からとぐろを巻いて屋根をつき抜け空に向かっている木々と、荒廃と再生、喪失と復興を間近にする経験はスピリチュアルな行為でさえある。

廃校に高く積み上げられたかび臭い畳の上に子供達が一心に勉強している白黒の写真を見つけた時、誰も住んでいない丘の上のアパートで朽ちたコンクリートの長い廊下を歩く時、苔だらけのウォータースライドに立ち、巨大だけれど人っ子ひとりいないテーマパークを見渡す時、僕は諸行無常を感じずにはいられない。

これらが僕をハイキョに引きつけた理由だ。これから僕は訪れた廃墟のいくつかを紹介してこうと思う。でもそれ以外のハイキョは君自身に見つけてほしいとも思う。

HAIKYO NOTES
ハイキョとは? ハイキョは建物や施設等が使われなくなり、荒れ果てた状態のもの。漢字では廃墟。最初の漢字、廃は捨てられたという意味。墟は荒れた跡を意味する。

ハイキョはどこにあるのか? ハイキョは街中や地方にある。東京から半径100キロ圏内に、僕が知っているだけで閉鎖されている病院が3つ、テーマパークが2〜3、駅が数箇所、レース場、米軍基地2つ、たくさんのホテル、ラブホテル、ソープランド、学校、神社、工場、レストラン、アパート、ボウリング場や博物館などがある。

不法侵入: ハイキョに行くということは、基本的に不法侵入であることを認識しよう。どのハイキョも誰かが土地を所有しており、フェンスなどで囲まれていようとなかろうと、侵入すれば訴えられる可能性はある。僕はハイキョの記事を提供するもの、ハイキョ探検を薦めたりは決してしない。しかしもし、ハイキョの世界を徹底的に知りたいなら、ハイキョガイドブックはたくさん出版されているし、テレビでも取上げられていたり、専門のウェブサイトだって存在している。

危険:ハイキョは危険がともなう。人生にアクシデントはつき物だけど、ハイキョを探検すればその危険性は増す。人里はなれた場所なら、携帯の電波は届かないこともあるだろうし、建物が壊れて生き埋めになっても、廃墟ゆえ通りがかりの誰かが助けてくれる可能性は低い。探検をする時はいつも冷静に、周りを注意深く観察し、懐中電灯を必ずもつことを忘れないように。そして周りの人に行き先を告げ、決して一人で行かないことが重要だ。