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特徴

2009
Issue 31
スノーシューと「えびのしっぽ」
By Peter Skov

中央アルプスの尾根へ、自分流スノートレッキングで


18,000年前、日本アルプスは岩ばかりの山脈状に連なる高山群だっただけでなく、氷河の舌でもあったのだ。万年雪はところどころあるものの、今では本当の氷河は日本には存在しない。しかしそんな遠い過去の時代を証明する、氷河によって作られたカールが日本アルプスの三つの山に存在するのだ。

もっともアクセスのいいのが、中央アルプスの千畳敷カールだ。ケーブルカーが一年中運行され、毎年さまざまなアルペンファンが訪れるこの場所は、2,600メートルの地から花崗岩で形成された宝剣岳(2,931メートル)をのぞむことができる。天竜川の谷の向こうには南アルプス、そして富士山の姿も見え、一年中運営している千畳敷ホテルもあるため真冬に訪れても快適に過ごせる魅力的な場所だ。

いい冬景色を写真撮影するために、12月に千畳敷カールへ向かった。ホテルにチェックインしてすぐにスノーシューをつけ雪の中にとびだした。標高2,956メートル、中央アルプスで一番高い木曽駒ケ岳とカールの北側になんとしてでも登ろうとかたく心に決めていた。しかしその日はあいにく雪崩の危険があり、登頂をするなと注意されていた。でも日は傾いていくし、一日中カールの影だけを歩いてばかりでつまらなかった。そんな時、カールの南側の尾根に続く山道で、他の登山客の足跡をみつけた。そし僕も行けるところまで行ってみることにした。

スノーシューでの登りは順調だったが、お椀のような形をしたカールに近づくにつれてスロープは急になってきた。ウールの手袋をしていたが、雪をつかんで登るしかなかった。ようやく頂上に着くと、目の前に雪の壁が立ちはかだっていた。ブーツを雪に食い込ませて登るしかなく、スノーシューを脱がなければならなかった。シューを取りはずそうとした時、手が凍って感覚が無くなっていることに気がついた。手のぬくもりで手袋についた雪が溶け、それがまた冷たい空気で凍り、手の先が凍傷してしまったみだいだ。

ようやくスノーシューを脱ぎ、雪の壁の上までよじ登った。頂上は冷たい風が吹き、まさに日が暮れるところだった。今ならすごいいい写真が撮れると思ったが、僕の指を救うほうが先だ。風を背にし、着ていたジャケットのジッパーを下ろし、凍った手を自分の脇に入れて暖めた。指に感覚が戻りはじめたが、なかでも3本の指はひどく、感覚が完璧に戻るまでにその後3日間も必要とした。そんな状況でもどうにか尾根まで行くことができたのは収穫だった。翌日もっといい手袋を用意してまた挑戦することにした。

朝のうちにアルペンの景色をいくつか撮り、また同じルートで下山した。登るのはたいへんだが、ダイナミックな景色に苦労は報われる。南側には、ごつごつした空木岳と南駒ケ岳が空にむかって突き出ている。東には南アルプスが目の前に大きく広がる。北には花崗岩の宝剣岳がたたずんでいる。冷たい風が運ぶ水滴が凍結してできる、不思議な形の霧氷が尾根の岩にたくさん付着しているのも見た。日本では形が海老にているので「えびのしっぽ」と呼ばれているそうだ。

12月の短い一日を、僕は高い尾根から風、雪、氷の創造物を、最終のケーブルカーが発車する時間まで満喫した。苦労して尾根まで登らなくとも、カールからも冬景色のすばらしさを知ることはできる。宝剣岳の下のあたりの遊歩道を散策したり、静けさの中、この雄大な景色にゆったりとひたることができるのだ。そして寒くなったらホテルに帰り、温かいお風呂に入り、一杯やる。日本アルプスのウィンタートレッキングは、こんなに楽にエンジョイできるのだ。

アクセス
電車:
東京駅からJR中央線で松本経由、岡谷で乗り換える。名古屋からはJR中央本線で塩尻経由、岡谷で乗り換える。岡谷からJR飯田線に乗り、駒ヶ根駅で下車。駅前から出ているバスでケーブルカーの駅があるしらび平まで行く。

車:中央自動車道または国道153号で天竜谷を経由して駒ヶ根市へ。駒ヶ根高原スキー場まで行き、近くの「菅の台バスセンター」、大駐車場に車を駐車し、バスでしらび平ケーブルカー乗り場へ。

 

宿泊
千畳敷ホテルの料金は1泊2食付で11,500円(一人)より。季節や人数によって料金は変わる。詳しい情報はwww.chuo_alps.com/hotel_senjojiki.