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特徴

2009
Issue 30
「熊が僕の乳首を」
By Ed Hannam

僕は子供のころからクマに慣れ親しんで育ったといってもいい。例えば、クマのプーさんでしょ、クマのパディントン、べレンスタイン一家、ヨギベア、それにグリズリーアダムスだって見ていた。クマは可愛いもんだ、姿を見せたかとおもうとすぐ逃げていく。今まで日本の山で何回も熊をみかけたけど、体格のいい熊でさえ僕らを見るとすぐ去って行った。また熊に実際に襲われた人なんて今まで会ったことがない。アメリカやロシアで熊に襲われる事件があるけど、たまたま運が悪い人達を大げさにレポートしているだけだろう。

僕は一年中トレイルを走るけど、熊のことより心拍数や電解質がバランスをくずしはしないかの方がよっぽど心配だ。走る時は、テクニック、ヒルやディセンドを考慮すること集中して、プロテインやパワージェルの補給、靴擦れ予防に細心の注意し、10グラムでも軽量化しようとシャツのラベルを切りとる事などを考える。熊? ノースフェースのうまいマーケティングの犠牲になり、なんかまたお金を使ってしまうことはあっても、僕が野生動物の犠牲になるなんて考えたこともない。

朝、仲のいい友達と、群馬県の水上山を走るのを日課にしている。最近だんだん僕のスピードが上がってきて、友達ははだんだんサイズダウンしはじめ、ストレッチしていたタトゥーの絵がもとの形にもどりつつある。朝10キロ走り、午後にもう一度同じ距離を走る。毎週または2週に1回は3時間ぐらい、携帯の電波が届かなくなる所まで長いランをする。熊を時々見かけるけど、だからどうしようなど何かを考えたことなどはない。

この日はちょうど、尾根道を25キロの長いランに行く予定にしていた。梅雨の雨雲が800メートルの高さに下がってくるまでは、すべてはいつもどうり順調だった。1700メートルのところを走る予定だったけど、安全だし楽なので、雲の下の高さまで走ることに計画を変えた。

朝は気温も低く、僕達は快適に走っていた。5キロ走ったところで、トレイルの脇の岩の辺りで何かが動いているのに気がついた。

「クール、猿だ!」猿好きの僕は、それが猿だと決め付けた。

急斜面を転がり落ちてくるものを見て「熊だ!」とタトゥーの友人が言った。そして僕は、走りさる熊を冷静に見送ったと記憶している。この後に起こったことについては、記憶が切れ切れだったり、思い込みも混ざっていたりで、はっきりしていないのが現実だ。ある部分ははっきり覚えているけど、ある部分はまったく覚えていない。

まず、熊は逃げなかった。しばらく僕らのにおいを嗅ぎ、そのあたりを行ったり来たりしていた。僕は熊から15メートル離れたところにいたけど、友達はそのまま止まらず走り続けた。熊はしばらく考えた後、僕に興味を定めた。そして一目散に僕をめがけて走りだした。最初はゆっくりと、そして、その後はものすごい速さになった。

走るスピードを上げ、混乱した毛むくじゃらなただの物体から、本能のみにしたがう、力強い筋肉と鋭い歯を持った野生動物へと豹変していったのだ。僕はもう女の子みたいになりふりかまわず走った。でも熊のほうが足が速かった。振り返ると僕のすぐ後ろまで追1いついていた。もう逃げ切ることはできない。何かしなくては。

以前モンゴルからクルジスタンを旅行した時、からんでくる犬を、逆にもっと大きな声で吠えることで追い払った経験がある。すごい目で威嚇していた犬達が見事に去っていった。犬と熊はそう遠い仲間とは思えない。でも、この熊には同じ手が通用しなかった。そして闘うしかないんだと思った事をはっきり覚えている。

状況は、毛皮のコートを着た人が、手にステーキナイフを持っていると想像してみよう。熊はよたよたと後ろ足で立ち、前かがみになりながら、両手で敵の口の辺りをつかもうとした(敵とは僕のこと)。僕らがメディアで知らされている熊は、のっそりと動き、よたよたと頼りがいがなく、頭もよさそうじゃない。これは全く不正確な情報だ。彼らの動きはとても敏捷で性格、そしてすべてが計画的だ。目の前の熊は低いうなり声を発し、目をむいて僕に挑んできた。

驚いたのは、僕が実際に熊と闘えたことだ。僕はジャッキー・チェンなんかじゃない、でも冷静さは失っていなかった。後足で立つ熊はバランスが悪く、そして殴り合いは互角だった。相手が攻撃してくると、僕は左の腕でブロックし、右手で相手の目を狙ったけど怪我をするだけだった。倒すことはできたけど、また起き上がってくるから同じ事だ。

怖いと思った記憶はないが、状況的に追い詰められてはいた。闘いはとても残酷だった。人間は何か理由がないと襲わない。でも熊は違う。だんだん自分の怪我がひどくなってきていたので、とにかくかたを早くつけたかったのを覚えている。僕ができる精一杯のことといえば、相手をなぐり、奇声を発して相手をおどすぐらいだが、相手は僕をかみ殺し、切り裂き、内臓をえぐることができるのだ。

とうとう熊の攻撃が続く中、僕は倒れてしまった。シャープな爪の痛みで足もやられてしまった。攻め続けられ、怪我も負って、自分がとても弱い立場にいるのを強く感じた。大きな石を探すために再び立ち上がったが、熊の攻撃はやまない。熊が僕の手をくわえた時の歯の感触を今でも覚えている。熊は疲れを見せず、僕のダメージは大きくなるばかりだった。

熊は本能的に自分の遺伝子を残すために闘っているのだ。彼の目的は、より賢く、すばやく、強い子孫を残そうとしているのだ。ダーウィンの進化論でいうと、ほんの少しだけ活用している脳、ペッツエル社のヘルメット、健康保険と運しかない僕は、どれだけのチャンスがあるのだろう。現実を見る限り、僕の遺伝子が後世に貢献できる確率はだんだん小さくなってきている。

ここで起こることはちょっと現実離れしている。でも思い掛けない事態に遭遇すると、また思い掛けないことが起こるものだ。熊よりでかい脳も役に立たず、武器となる石も見当たらないなかった時、何かが代わりに助けてくれた。それは何をかくそう、そうアドレナリンパワーだ。

アドレナリンハイとなった僕は、勇敢にもその噛まれて傷だらけの腕でエイと熊をブロックし、その頭の毛をガバっとつかんでブンと投げやったのだ。熊は背を下に寝ころがったと思うと、トレイルの下、岩肌の崖を転がり川へと落ちていった。僕としては、熊を片腕で軽々と崖下に投げ落としたと思いたいけど、実際はそんなにかっこよくはいかなかった。でもうれしい。とにかく熊は去ってくれたんだから。

実際には一分ぐらいしかかかっていなかったんだろうけど、熊との闘いは永遠に続いたように感じた。タトゥーの友達は僕がちょうど熊を投げた時、まるでヒーローのように道端の道路工事の棒を引っこ抜いて、助けに来てくれた。もしまだそこに熊がいたなら、友達は獣との血のでる格闘を繰り広げてくれたに違いない。タトゥーを好む人は、こういうことが好きだからね。

現実はそうとう頭にきている熊がうろつくなか、僕らは車からは数キロ離れたトレイルにいた。僕らはアドレナリンだけを頼りに、本職であるアウトドアガイドとしてもっとも懸命なプランを決行することにした。僕は手首と指から流れる血をシャツを巻いて止め、一人でがんばって走ることにした。友達は救急車を呼ぶため全速力で山をおりていった。もし倒れるなら、いつものトレイルのどこかにいることを約束した。そうすれば友達はを簡単に探し出すことができる。でも、熊より早く到着してほしい。

日本の霧がかる山の中で一人、興奮したまま、怪我を負ったまま走った10分は、なぜかすばらしい体験に思えた。何より、自分が生きていると実感した。怪我の様子をチェックするのも、止まるのも、振り返るのも、何も怖くてできなかった。ただ、自分がこの後で何をしなくちゃいけないかを言い聞かせて、ただ走りつづけた。

車までたどり着く、冷静を取り戻す、呼吸を整える、ほかに傷がないかチェックする、ひどい傷を見て吐いてもそれを決して飲み込まない、怪我を抑えて止血し続ける、アドレナリンがなくなって気を失いかけていないか、傷口をまたチェックする、助けを呼んでくれる車が来ないか耳を澄ます、熊がそばに来ていないかもチェックする、心で思っていることを間違って声に出して言わないようにするなどなど。

現実とは思えない出来事だったけど、なんとかなった。友達は気をしっかり持てと励ましてくれた。救急隊に指示したりするほど、僕らは落ち着いていた。運ばれた病院はきれいで、ちょっとややこしくて、でもてきぱきとしていた。注射、点滴、傷口のホッチキス止め、包帯、それにピンクのユニフォームのやさしい看護婦さん、すべてすばらしい処置だった。着ていたちょっと高かったギアは処置をするために切り取られたけど。

熊に襲われた患者ということで注目を浴びたが、他の部屋にもっと重症の患者さんはいる。先生によると、熊は顔をよく噛むので僕はラッキーだったという。僕ら2人がよく知ってる看護婦さんが、救急処置室で友達が騒いでいたので、僕の怪我を知り、様子を見に来てくれた。

皆にこの武勇伝を話すまでアドレナリンハイは続いたけど、病院に通院したり、保険の請求のめんどくささや、不自由な身体での現実の生活がクロースアップされてきた。心配する両親以外、だれももうこの話に興味をしめさなくなった。のちには説明するのがいちいち面倒くさくなって、スケートボードで怪我したと嘘をつくようになってしまった。

熊に襲われて僕は指の先を失い、手首の腱と神経を切り、二の腕と肩に噛み傷をうけ、乳首を失った。その他に長いひっかき傷、えぐられた痕、裂け目、歯型の跡、打ち身から内出血、そして両方の膝を砂利道でこすった傷などのダメージを受けた。

高度測定器付時計はバンドに少し傷がついただけで、熊攻撃にもよく耐える機能がついていた。着ていたシャツは、僕の乳首を守ることはできなかったが、ひっかかれたのに不思議と織目にはダメージがなかった。支離滅裂に走ったのにシューレースも大丈夫だった。看護婦さんがほどくのに苦労したほどしっかり縛られていた。汗を吸収する機能付パンツは、期待を裏切らずたっぷり血を吸ってくれた。近日中にこれらのメーカーは、熊襲撃に耐えた製品を褒めちぎられた後で、新品と交換してくれないかというメールを受け取るだろう。そして本当の事故のショックは数日後、病院の処置室で起きた。僕は失神してしまった。

その後
僕が襲われて一週間後、道路工事の作業員が熊に襲われた。地元の人によると襲ったのは同じ熊だったという。もうすでに人間と出会っていたので、もっと凶暴になったのかも知れない。作業員の怪我は僕よりもひどかったらしい。猟銃会の人達がこのエリアの熊を2頭しとめたが、そのメスは100キロを超え、150センチの高さだったという。小熊はオスでこれも大きかったようだ。

猟銃会の人達は、ライフルの威力を試したいだけの危険な人などではなく、この村周辺に長く住む高齢の人だ。彼らは足袋をはき特別なバッジを付けていた。この人たちは熊と長く付き合っっている。今までも熊が人を殺したり、障害を負わせたりしているが、彼らはすべての熊を殺すようなことはしない。

その後、タトゥーの友達と僕は、大きな袋に入った熊のステーキとスープ用の骨を受けとった。ハンター達は冗談で僕だけに、熊の手と乳首をくれた。もちろんその日の夕飯はクマバーベキューだった。熊肉は、しょうが、にんにく、しょうゆを入れて1−2時間煮たり、山菜をいれて味噌汁にもできるそうだ。熊肉は癖があるので、嫌いな人もいるだろう。

退治した熊を食べてしまうのは道徳的にいいかかどうかは僕にはよく分からない。田舎と都会はいろいろ考え方違うし。

熊の実態
その後僕がトレイルランニングをやめたかって? ありえないよ。でもいろいろ熊について学んだから、皆に知ってほしい。熊についてはオスカー・C・ユージンのサイドバーを読んでね。

日本の熊は、いつもではないし頻繁でもないけど、人を襲うことがある。理由はわからない。日本の山の中には、ハイカー、ランナー、登山客、農家の人、写真家などが一年中入っている。しかし襲われるのは珍しいことだ。

熊よけの鈴は、実際には役立たないかもしれないが、気休めにでも持ったほうがいいと思う。水上の人たちはあまり使わないけど、子供は全員鈴をもつことが義務付けられている。

鉄砲以外のものはあまり役に立たないが、熊よけスプレーは持たないよりいい。でもスプレーを使うためには熊に接近しないといけない。

走る? 君はものすごく足が速ければいい。でなければ遅かれ早かれ熊と対決しなくてはいけない。

逆に熊を脅す。僕のストーリーを読むとお分かりだと思う。考えるだけ無駄だ。

熊は両手で相手を捕まえたあと、噛み付く。熊が両足で不安定に立ち上がっているときに、倒すのは何もしないよりいい。

熊の目と鼻を狙うという考えはすばらしい。でも熊は歯と爪で自分を完璧に守るからとても難しいことだと思う。

あまり支持されているテクニックではないけど、熊投げは成功することもあるので、必要にせまられればやってみる価値はある。オリンピック競技候補にはならないだろうけどね。

死んだふり? これについては僕はわからない。実際に試した人と話をしてみたい。

熊と闘えば、最低ひっかき傷、刺し傷、内出血、炎症、骨に至る傷、失血、顔面傷などの傷を負うと思ったほうがいい。

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EXPLAINING AND AVOIDING BEAR ATTACKS
With Japanese Black Bear Biologist and Expert Oscar C. Huygens

Unlike North American bears, no systematic analysis of bear attacks has been done in Japan and, except for individual reports, our scientific understanding of these attacks is far from complete. Therefore, current recommendations to avoid such attacks in Japan are based mostly on findings in North America.

• Asiatic black bears (found in Honshu and Shikoku) are more aggressive than American black bears. Brown bears on Hokkaido may be more aggressive yet, and more dangerous because they are much larger.

• Attacks may be on the increase. One possible, yet unproven, explanation is reduced hunting pressure, itself the result of a fast aging and dwindling population of hunters, is causing bears to lose their fear of humans.

• There are two types of attacks: predatory and non-predatory. A predatory attack implies the bear’s intention is to kill and consume its victim. Such attacks are extremely rare but do occur in Japan with both species. Playing dead in such circumstances is not a good idea. On the contrary, pick up a rock or anything that may serve as a weapon before the bear gets too close. Try to remain standing and tall (bending down or kneeling once contact has been made is dangerous), but if you have fallen over, go for the eyes and the nostrils.  Don’t give up.

• Non-predatory attacks are usually the result of sudden encounters and most of these can be avoided. The surprised bear, thinking it is threatened, defends itself by counter-attacking. In such a situation, the more you fight back, the more the bear may feel threatened, causing it to increase the intensity of its attack. In this case, perhaps the best advice is to keep your ground as long as you can remain standing but to lie still while protecting your neck, face and abdomen if you are pushed over.

•Avoid sudden encounters by moving in larger groups, making noise, attaching a bell to your walking stick (better than your backpack as it will jingle more), and avoiding or making extra noise in areas where bears might congregate each season, such as bamboo thickets during spring, berry patches and fruit-bearing trees such as wild cherries during summer, and groves with lots of oak, beech and walnuts in the fall and early spring.

•Note jogging is not a natural activity, and joggers and trail runners are at more risk in predator country. Runners often concentrate on their effort and are less in tune with their surroundings and, by moving fast, they increase their likelihood of running into a bear. If you are running toward the bear, you are a potential threat, and this may trigger a defensive attack. If you are running away from it, you may be a fleeing prey, which may trigger a chase reflex. Thus, joggers should be extra careful and make noise in areas with reduced visibility.

I have, for instance, avoided at least one sudden encounter running downhill on switch backs in a bamboo thicket by hitting each tree I could two or three times with a stick as I ran by it. Maybe not the peaceful running a trail runner may prefer, but the alternative can be even less pleasant.

•Further reading: “Bear Attacks, Their Causes and Avoidance” by Stephen Herrero (or its Japanese translation).

Oscar is a bear biologist and leads bear-watching tours in Central Japan every summer. His tours are described at www.withoscar.com/viewbears or you can contact him directly at oscar@withoscar.com.