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特徴

2010
Issue 37
スノー・チェーサー
By Evans Parent


Episode 2 予報:雨ときどきヒザ丈のパウダー

ものすごい勢いで窓を叩きつける雨の音で目が覚めた。バンの中、隣にいる友達は、もうどうでもいいやという顔で天井を見つめていた。トマムに向かっているというストームを追いかけて、僕たちは夜通し車に乗ってここまで来ていたのだ。肝心の低気圧は予報通り到着していたが、運んできたのはスキーヤーの天敵、雨だけだった。

北海道のアルファリゾート・トマムからきっかり25キロ、海抜はリゾートのベースとほぼ同じという占冠に駐車した車の中に僕らはいた。今後コンディションが良くなることはないとわかっていた。それでもトンネルを抜けるたび、少しでもスノーストームの残りがないかと期待を込めて車窓を眺めてきた。気温はグンと下がっていたが、外はいまだにウェットで、雨が降りしきる景色ばかり。道路の両側にあるコンクリートがまるでスノーバンクみたいに見える。

心の隅にあったさみしい結論は徐々に大きくなり、2人が同じことを考えているのはわかっていたけれど、あえて言葉にしてみた。

「頂上までずっと雨だったみたいだな…」。

予定はまずトマム・リゾートでスキーをしてから、リゾートのベースにある印象的なタワーで一泊。その後、3ヶ月かけて日本中を回った僕たちのスノー・ロードトリップを打ち上げるために予約したキャットスキー・ツアーに参加する、という流れだった。

しかし、車から降りて凍りついた地面に足を置いた時には、スケートを履いていれば良かったとさえ思った悪コンディション。とりあえず1時間ほどロッジの周辺を歩いた後、どうにかやる気を奮い起こし、ギアをセットしてスロープへ出かけることにした。

うなりを上げる風のせいで、一番楽しそうな地形のトップリフトはどれも動いていない。頂上で雪が降ったのかどうかもわからなかった。ただ、順番を待っている間に、僕たち2人にもだんだんと現実が見えてきた。上がっていく間に聞こえるスキーヤーの声にも、それほど心は躍らない。さらにその後、最初の(そして唯一の)ターンをした瞬間、疑念は確信に変わってしまった。僕たちのシーズンラストを飾るはずの一日は、どうやら最悪のスノーコンディションで終わってしまうようだ。

2人の意見は一致した。今日はスキーをする日じゃない。でもその代わりに何をしたらいいのか、雨の日のリゾートに慣れていない僕たちにはすぐに思いつかない。

そうだ、VIZスパハウスへ行ってみよう。
そう気がついたのは、しばらく経ってから。最悪のコンディションのせいで落ち込んだ気持ちをきっと癒してくれるはずだ。これまで温泉には何度も行ったことはあるが、とにかくここは最大級のインドアのウォーターパーク。温泉はもちろん、巨大なジェットスパ・エリアやウェイブプールまで揃っている。


結局午後は、いくつものプールを渡り歩き、無数のエアジェットにマッサージされながら過ごすことになった。


スパから出て歩いていると、半分曇った空からハラハラと小さな雪が舞い降りてきた。遅めのランチを食べた後、雪合戦リーグのドキュメンタリーらしきものを見たりしているうちに日は暮れていった。ホテルの部屋からはイルミネーションが輝く美しい山の夜景が見えた。そして空からはキラキラと雪が落ちてきていた。

ベッドに入り、眠りに落ちる前に翌日のスノーキャット・ツアーのことを思い浮かべていた。

「たとえばバックカントリー・スキーなら、天候が最悪な場合は1回降りてから車に逃げ込むこともできる。でもキャット・スキーだと、たとえそこが氷でガチガチでも、一日中ずっとランを続けなくちゃいけないんだ…」。

翌朝、目覚めてみるとヘビーなスノーストームになっていた。風も強く、大きな雪のかけらが部屋の窓にフワフワと当たっては落ちていく。

ホテルのコンビニでスナックを買って簡単な朝食にしてから、ロビーでそわそわとガイドを待った。彼が現れたのは8時ちょうど。英語がとくにうまいというわけではなかったが、僕たちのギアを扱う感じや、それをテキパキとバンに積み込む様子を見ていれば、彼の優秀さはちゃんとわかる。

まずはトマムの巨大コンプレックス一帯を軽くクルーズ。他のスキーヤーたちを拾ってから、いよいよトマム・アドベンチャー・ヘッドクオーターへ。そして1時間半近く、安全確保のためのインストラクションが続いた。インストラクターは魅力的な女性のガイドだったから集中するのは難なくできたが、この3ヶ月間の旅の間、一生懸命日本語を聞き取ろうとしてきたものの、やっぱりいまだにほとんど何を言っているのかはわからないままだ。

といっても、結局最後に英語で通訳してもらって聞いた話はたったの5分で済んだ。しかもその5分ですべてがキチンと説明されている。もしかしたら日本語っていうのは英語よりもずっと面倒にできているのだろうか…。

オシャレなヘリコプターが停まっているガレージへ向かう。そして乗り方およびヘリ周囲での行動についての説明があった。僕も友達もだんだん困惑顔になる。あれ? ヘリ・スキーに行くんだっけ…? どちらにしろ、最終的にその日は強風でヘリが飛べないらしく、プランBであるキャット・スキーで落ち着いた。

その後ようやくバンに乗り込んで、狩振岳へ。午前中ずっと無言だったドライバーは、車を脇道へと走らせる。この道はキャット・スキーとヘリ・スキー専用に作られたエリアへ続くトマムの私道。車から見たノーバンクはちょっと柔らかそうになっていたが、道路は相変わらず凍ったままだ。

スタッフがキャットの後部に僕たちのスキーやらポールやらを積み込んでいる間に、僕たちも乗り込むようにと促される。ふと見れば、さっきのドライバーはテールガイドも務めるようだった。30分後、ランの頂上に到着。固い地面だろうと予測しながらキャットから飛び降りてみると、なんとヒザまで沈み込んでしまった。その瞬間、全員が大歓声をあげた。

ここでもう一度軽い安全確認があって、それからキュートなガイドがゴーグルを付けて、笑顔を浮かべてボードを下に向けた。余計な音は何もない。彼女のボードがゆっくり雪面を下っていく音だけが聞こえてくる。

ガイドのトラックから外れず、ボトムで止まるようにとテールガイドに言われた。といっても、彼女はボードで僕はテレマーク・スキーなわけだから、たぶん雪面下の氷のクラストをヒットすることになるんだろうと思っていた。が、実際そうはならなかった。僕はまるでクリームのような雪の上に浮かんでいるようだった。

彼女の横で止まった時には、自分も満面の笑みを浮かべていた。あんなに雨が降ったのに、その翌日にはヒザ丈のパウダーでスキーができるなんて…信じられない思いだった。そして思っていた通り、例のテールガイドは非常にすぐれたスキーヤーで、弾丸のようにスロープを下っていった。このスキーコンディションに全員が夢中になっていたようだった。

その後、ランのボトムにいるキャットの周りに全員が戻ってきた。当然次への欲求をおさえることができない。するとドライバーが山の反対側にあるもっと長めのランへ連れて行ってくれた。そこはものすごい傾斜がある地形というわけではないが、好きなだけターンし放題という感じのスペースある場所だった。木もそれほど多くない。しかもガイドたちが上手に残してくれるので、僕たちは新雪を思う存分楽しめる。とにかくコンディションは最高だ。つい昨日、バンの中で目覚めたことが夢の中の出来事のように思えてくる。

もう1本滑ってからランチとなった。ここでもまたビックリすることが待っていた。というのは、ランチの場所が、グループ全員が入っても余裕ある大きなテント小屋だったから。

中に入ると、スキーブーツで滑らないようにと床が常緑種の枝で覆われていて、かすかにいい香りも漂う。ランチは量も十分なコースの4品で、どれも北海道ならではの素材で料理されている。それにフォークとナイフが置かれ、お箸はなし。ステーキだから当然とはいえ、この数ヶ月間シルバーウェアを使っていなかっただけに妙に新鮮だった。

そこで僕たちは新しくできた友人を相手に、身振り手振りで日本での体験をいろいろと説明した。信じられないという感じの彼らの表情を見る限り、彼らは僕たちの3ヶ月にわたるジャーニーをほぼ理解してくれていたようだった。テント小屋の中で料理してくれているシェフもすごく楽しい人だった。体もあったまりお腹もいっぱいになった僕は、山に戻る途中で爆睡しないためコーヒーを飲みまくることにした。

次に僕たちがキャットで向かったのは、またもや最高にソフトなパウダーに包まれた1,200メートル級の斜面。ガイドたちは地形を熟知していて、その中でも一番状態のいいスロープだけを選んで連れていってくれた。たくさんのフェイスを持つこの山には、風の影響を受けにくい場所がいくつもあるようだ。途中、ちょっとだけガイドに言われた範囲の外に出てみたものの、すぐに戻る羽目になった。コンディションがまるでホッケーリンクだったからだ。

最後のランで、そのままスタート地点まで戻る。下がれば下がるほどコンディションは面白さを失っていくのだが、この時点ではもうみんな満足していたから問題はなしだ。正直に言うと、僕たちはキャットツアーに出かける時に仮病を使ってでもやめようかと思っていた。コンディションがいいわけない。きっと最悪だろうと勝手に思っていたからだ。でも、こうして無事トマムのバックカントリー体験を最高の形で手に入れられてよかった。おかげで改めて実感できた。そう、やっぱり家にいるいい一日よりも、“バッド”な一日でもスキーをしている方がずっと楽しいぞって。


トマム・ヘリ/スノー・キャットツアー

シーズン:1
月初旬から3月下旬
ベストタイム:2月(もっとも気温が低い月だが、雪は最高)もしくは3月(基本的に天候は良く、スノーパックには最適)
費用:キャット・スキー ¥29,400 (レギュラーシーズン)、¥23,200 (スプリングシーズン)、¥78,750 (ヘリ・スキー)
スノーバム・プラン:2010-2011シーズン新設されたお得プラン。1週間以上の滞在なら、1泊ステイとスキーで¥4,200(リフト代込)
コンタクト:Tel: 0167-58-1122 (予約)
0167-58-1111 (インフォメーション)
Web: www.tomamu.jp