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特徴

2010
36 号
屋久島に深く根をはって
By ブラッド ベネット

緑生い茂る屋久島は、日本最多降水量を誇り、九州最高峰の山を有し、1万の人、1万の鹿、1万の猿たちが住む島と言われている。旅人たちは日々の喧騒から離れ、静かな島の自然に身を委ねる。また或る者はこの島でのゆったりとしたシンプルライフに魅了され、屋久島を故郷と呼ぶ。

1993年に屋久島が世界自然遺産に登録されてからというもの、この神秘的な島は一気に世界中の旅人たちの知るところとなった。今では実に年間40万人以上もの人々が訪れる。ほとんどの人は古代杉による森のトレッキングを楽しんだり、オサガメが白い砂浜に卵を産み落とす瞬間を見たり、海辺の温泉や点在する滝を写真に収めたりして過ごす。

日本アニメ界の巨匠、宮崎駿氏のファンにとっては、映画「もののけ姫」のモデルになったという原生林、白谷雲水峡への巡礼はもはや通過儀礼となっている。もう少し年のいった旅行者にとっては、樹齢1万年と言われる縄文杉を訪れることは夢のような話であり、屋久島の原始林と豊かな生態系に引き寄せられて、世界中から科学者や生物学者も訪れている。

僕の屋久島の旅はというと、天気や、無料のキャンプ場、地元の温泉へのアクセス、そういう事たちに左右される台本のない旅だった。唯一予定を組んでいたのは、荒川ダムから、九州最高峰である宮之浦岳 (標高1936m) を経由してヤクスギランドまで縦走する2日間のハイクだけだった。途中、縄文杉や焼野三叉路という素晴らしいビューポイントがあるので、出発は日が昇る前の早い時間とした。宮之浦の湿原の、風で浸食されてナイフのように尖った峰を、巨石の間を縫って登っていく。途中ものすごい風に煽られて、一緒に歩いていた友人と僕は、平石の辺りで逃げ込める場所を探したこともあった。寝袋に潜り込んだのは巨石の袂だ。一頭の鹿が、一晩中僕たちの様子を窺っていたようだ。

屋久島の屋根に向かうには、僕たちが歩いたルートよりもう少しハードなルートもある。より急な斜面を行く永田から入るルート、より長い距離の尾之間から入るルート等がそうだ。初めての人には、安房登山道から入るルートがお勧めだ。早朝バスも走っている。英語標識も分かりやすく出ているし、現地で手に入る地図も正確だから、トレイルの発見に苦労はしないはずだ。けれどもっと安全に、歴史や自然について学びながら歩きたい人は、やはり経験豊富なプロのガイドに同行してもらうのが一番だろう。

この旅で僕は、屋久島に根を下ろし、この島を故郷と呼び暮らす人々に出逢うことができた。藤吉竜二さんとアキさん夫妻は、長い新婚旅行の途中、2006年に屋久島に辿り着いた。今ではNomado Café を仲良く営んでいる。神奈川県出身の二人はどこか田舎で暮らしたいと考え、日本中を旅した末、屋久島こそが彼らの求める地だと確信した。山と海と川に包まれた美しい地が、彼らの決心を促したのだ。

島の人々と関っていく中で、その結びつきの強さと支え合う関係とを二人はすぐに感じていく。地元の人たちや旅人たちと触れ合いながら、ゆっくり流れる時間を楽しむ中で、美味しいコーヒーや食べ物を囲んで人々が集える場所を創りたいという夢が広がっていった。2007年の11月、古い一軒家と巡り合い、その夢は現実化していく。それから3ヶ月後に改装を始め、竜二さんの持つ建築関係の知識とアキさんの流す汗水を味方に、6か月後にNomado Café はオープンを迎えた。

僕が島の生活についての良い点、悪い点を聞くと、「いろんな面で、我慢すること。小さな事は気にしないことが大事だと学んだ。24時間営業のスーパーや高速のインターネットみたいな贅沢が無くても苦にはならなかった。それよりもご近所さんとお互いのおうちで食卓を囲んだり、音楽を奏でたり、ヨガをしたり、魚釣りにいったり、そういう事がとっても楽しいの」とアキさんは話してくれた。

トーマス・ ネッケさん夫妻は、2007年春に島の北西に位置する永田集落に越してきて、「豊かな自然と島の人々の温かさ」の恩恵を受けながら2年間を過ごした。 僕は2003年に南伊豆で行われたシーカヤックフェスティバルの会場でトーマスに会った事があった。500人が暮らすこの村で彼と再会した時、僕はシンクロニシティーを感じた。「村の人たちは皆温かく僕たちを迎え入れてくれたよ。彼らの畑や釣り場、鹿について、タケノコやキノコが取れる場所なんかも案内してくれた。僕らの大家さんは昔の事をとても良く覚えていて、昔の生活についていろんな話をしてくれたんだ。カンパチの追い方や、南にある花こう岩の海岸のどこで貝が取れるのか、そんな事を教えてくれる人達もいたな」とトーマスはその頃を振り返る。


島への移住者たちは、屋久島をもっと身近で訪れやすい場所にする為に、いろいろな分野で{たき}活躍している。またある人たちは、一湊に近い自然豊かな白子の谷で里作りをした詩人、山尾三省氏(1938-2001)とその仲間達の姿を追って、もっとスピリチュアルな自然回帰の道を探求している。

「ほとんどの外国人は日本に来ても東京や関西にしか行かないんだ。でも日本の田舎に住むっていうことは全然違う経験で、屋久島は日本の別の顔を感じる事ができるとっても特別な場所なんだ」とトーマスはまったく間違いないことを話してくれた。{つうか ぎれい}


屋久島 - A to Z

宿泊:ヤクシマゲストハウスは安く泊まれて、無料送迎もしてくれる。Tel: 080-5215-2141

ビーチ:
いなか浜ではウミガメの産卵や美しい夕日が見られる。

お弁当:
島むすび。事前連絡をすれば早朝の受け取りもOK。ベジタリアン対応可。

朝ごはん
:Stax Café で洋風朝食を。9:30から毎日営業。宮之浦港でフェリーを待つのにもってこいだ。

カフェ:ノマドカフェは、島一周道路沿い、安房と尾之間の間に位置する。12:00-18:00 / L.O. 17:30 ハイキングの後にはカレーとベーグルのセットが最高。手作りのデザートも。Tel: (0997) 47-2851

日帰り登山
:白谷雲水峡から太鼓岩展望台へ(もののけの森コース)。濡れても平気な服装で歩こう。原生林の中に現れる太鼓岩は、叩くと太鼓の様な音がする。霧や雨で滑りやすい場合が多い。そういう僕も初めて行った時に足を滑らせて、切り立った崖から落ちそうになった。3-4時間は予定しておきたい。特に下りは上りより危ないので、休み休み行こう。

移動手段:
車や自転車での移動は、英語圏の外国人にとっても比較的簡単だ。道標や標識、地図にも英語表記があるし、もともと道は沢山ないから大丈夫!ドラえもんを見つけよう!

屋久島までのアク
セス: 鹿児島空港から毎日JALのフライトが飛んでいる。鹿児島や種子島からいくつもフェリーが出ている。鹿児島港から屋久島の宮之浦港または安房港まで、波立つ海を約2時間で駆け抜ける高速船トッピ-かロケットがお勧めだ。台風の季節には遅れや欠航に気を付けよう。東京や関西方面からなら、飛行機、宿、安値のレンタカー等がパッケージになったツアーもあるので要チェックだ。

居酒屋:元気な“定年組”の女将、シサク カクさんが切り盛りする美味しい店、じゃらい亭(島の方言で“問題ない”の意味)。僕は泊って行きたいくらいだった。

温泉:海辺にある湯泊温泉は絶対に訪れてほしい場所。駐車場から、海側にある最初のお風呂と反対側に向かって降りて行くと、見逃しやすい海辺のお風呂がもう一つある。水着着用可。湯温は潮によって変化する。

ギアレンタル:ナカガワスポーツは、島随一の品揃えを誇るアウトドアショップだ。フレンドリーで知識豊富なスタッフが、地図や雨具のレンタル、販売をしてくれる。

旅館:
いなか浜に面する送陽邸は、家族で営む島の伝統的なお宿だ。Tel: (0997) 45-2819

:大川の滝。静かな西海岸の小さな集落の中間から栗生に向かう滝への道は、暗く湿っていて、さながらJ.R.Rトールキンによる架空の世界「中つ国」の様だった。

必要な物:質の良い雨具、防水の靴とスパッツ、ザックカバー付きバックパック、雨と日除け用の帽子、それから水筒。