>  屋外日本雑誌  >  Issue 5 : 3月 2006  > 特徴 >  Stalking the White Cliffs of China

特徴

2006
Issue 5
Stalking the White Cliffs of China
By Emmanuel Lacoste

中国に滞在して3週間目というとき、クライミング・パートナーが北部にある岩山の話を聞きつけてきた。少しの情報と、小さな写真だけをみて、つぎなる中国のクライミング・メッカを探しに週末でかけることにした。

この地域の山は、ほとんど手付かずの状態だ。僕らが“最初の挑戦者になる”という夢がちらつく。しかし、この国では、たとえその夢がかなうとわかっていても、そこに到着するまで想像以上の困難が待ち受けていて、気がうせてしまうのが現実だ。

道のり

土曜日、午前7時15分。相棒とは6時30分に待ち合わせをしていたのに、遅刻してきた。何度目だろう。だが僕は笑顔をつくる。バス乗り場には広州の近代的な地下鉄で行くが、ついてみると2分差で朝の便のバスは出てしまっていた。その時点での、僕の心境についてのコメントは控えておく。

相棒はそんな事、気にもかけていない。地元の人間だから、時間がルーズなことには慣れっ子になっているのかもしれない。そして、僕は今回、いつもよりも入念に、たくさんのギアを詰め込んできた。でも、彼の荷物はもっと多そうだ。

込み合い、エアコンが壊れたバス乗り場で待つこと1時間。僕らの旅の序章としてはパーフェクト、11人の乗客と、よく冷房の効いたバスで2時間の旅へ。しかし、数分もたたないうちに、エアコンの吹き出し口から北極風のような冷気が吐き出されてくる。あまりの寒さで鼻毛の数さえ数えられる。気がつくと、相棒はなんのことなく持ってきたダウンジャケットをとりだす。僕はといえば、クッションのきいた席に座りなおし、
持ってきた水が車内で凍ってしまう前に飲みほした。


僕らをのせた移動冷凍庫が、インデに到着する。中国が両極端な国というのは言い古された表現と言われるけど、僕は全面的に信じる。短パンとTシャツといういでたちだった僕は、外の華氏90℃(摂氏約32℃)という暖かさにほっとする。しかし目的地は、まだ先だ。町の反対側から、またバスに乗らなくてはいけないのだ。という事は、そこまではタクシーでいかなくてはならない。

タクシードライバーはまるで自殺志願者のように、崖の下に突っ込んでいってしまうかのような運転だ。窪みや歩行者をドキドキするほどギリギリのところでよける。窓は閉めているのに、残飯、ぬれた犬、下水道の臭いが漂ってくる。

ようやく目的地につくと、重いバックパックを背負い、ほこりっぽいが日の照る車外に飛び出す。不思議なことに、相棒は僕ほどタクシーにうんざりしていない。彼は改造した18人乗りバスに乗り換える前に、意味ありげに僕にウィンクする。

さっき言ったことを撤回する。今立ち去ってしまったタクシーは、ファースト・クラスのリムジン並みだった。バスの中には数個の扇風機が回っている。18人乗りの車に21人の乗客がいるということは、束ねた人民日報が座席ということだった。


残念ながら僕には股の下にしかれた中国語新聞は読めない。読めたとしても、きっと「お客様にお願います。車中では悲観的にならないようご旅行をお続けください」と、書いているにちがいない。うらやましい事に荷物はバスの屋根にガチョウと一緒に乗せられる。

乗車中、2度も男の子が僕らのいる場所をトイレ代わりにし、床にむかって用を足す。そんななか、僕の唯一のなぐさめは、車窓からみえる数え切れないほどのライムストーンのタワーだ。相棒に見てみろと合図すると、彼もにやりとしている。ここは見渡す限り、地上200mの高さのライムストーン・トーテムポールなのだ。

バスを降りる。くらくらして、身体はこちこちで方向感覚もマヒしてしまった。現地のバイク・タクシー運転手を交渉して雇う。スクーターは2人の大人と60ポンドの荷物を乗せ、死の恐怖を再び僕に思い出させながら山道を駆け上がる。

運転手は僕の心臓の鼓動を背中越しに感じているだろう。僕の両腕はロープのごとく、彼のほっそりした胸に絡み食い込んでいる。神様はいた! スクーターは砂埃を上げて6重力で停まり、僕らは到着する。身体は、ボロキレのように疲れていたけど、やる気まんまんで岩場へと急いだ。

目的地


もし僕らが最初のクライマーじゃなかったら、最初に登ったグループには入るだろう。温度は華氏95度、湿度もそのぐらいの数字のなか、ハーネスを装着する。水1リットルを飲み干し、最初のリードをつける。グレードは5.9、最初のピッチはまっすぐの登り。10分で僕のリードが終わり、相棒が続く。

第2ピッチは、2インチ幅の縦クラックから、頭上に少し突き出していて、ホールドが小さい面。手を使わなくていい場所を見つけ、休める間に休んでおく。上のホールドは小さそうだ。頭にシークエンスを思いうかべながら、クラックにむかう。腕は重く、汗のつゆが目に入る、ふくらはぎは火が付いたように熱い。しかし、登りつづける。

クライミングを楽しむ余裕などなく、なんとか現状をしのいでいるだけ。恐怖の乗り物に乗ったことからか、睡眠不足、あるいは、なれない環境からからか、ウエットスーツに水が入ってくるよな恐怖感が込み上げてきた。

恐怖から、もっと強く岩をつかむので上腕により乳酸がたまる。足はプルプルと震え、手は上にあるのに、元の手の位置を考えていて、転落。クラックのシークエンスを何度もトライするもの、もう力がつきてクライミングをあきらめる。それだけは避けたかった。

曜日朝、午前6時。僕らは再びスタート地点に戻る。朝のひんやりとした空気と身体が軽くなったので、最初のピッチはスムーズに行く。相棒もすこぶる快調だ。

再び、あの第2ピッチを登る。昨日はグレード5.11のように感じたのに、今日は5.9+に感じる。少しの睡眠や日陰のおかげでこんなに差がでるなんて、すごい。第3ピッチは簡単、いいや簡単すぎるぐらいスムーズだ。あっというまにクライミングを終え、荷物をまとめ帰り支度をはじめる。

まず、おなじみのガチョウ、鶏や肉などを屋根に乗せたバスを停める。最初は空いているものの、すぐに30人ほどの人が乗ってきた。自然のエアコンが心地いい。窓を開けると、早く走れば走るほど、涼しく、車内のおしっこはにおわないし、つばや痰を吐かれても耐えられる。

そしてまたクレイジーなタクシーから、動く冷凍庫バスへと乗り継ぐ。旅の最初と同様、相棒はダウンジャケットのなかでぬくぬくとし、僕は寒さで凍えている。震えながら、彼に感想を聞く。彼はただ肩をすくめて、笑うだけ。どうやらこの珍道中も、この国独特のクライミング事情をよく心得ているようだ。あの岩での体験は素晴らしかった。だけど、この次は絶対ダウンジャケットを持っていくぞ。