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特徴

2006
Issue 5
The Powder Kingdom of Tateyama
By Taro Muraishi

「カツッ、カツッ、カツッ」

自分の足音がトンネルの壁にあたり跳ね返ってくる。まるで第二次世界大戦時につくられた要塞のような異様な雰囲気。

「カツッ、カツッ、カツッ」

薄暗く、陰気な蛍光灯が前方に延びた闇間を照らす。そして、光りの漏れる方向に歩いて行くと、突然目の前に巨大な渓谷と、そのすき間につくられた黒部第4ダムが表れる。
長野から立山室堂へと向かっていたぼくらは、スノーボードを脇に抱え、着替えやブーツ、スノーシューをくくりつけたバックパックを背負い、寒々としたダムの上につくられた橋を渡ってケーブルカーの黒部湖駅へと向かっていた。   
ここは、日本最後の秘境とも呼ばれる黒部渓谷。黒部第4ダムとは高さ186m、長さは492mにも及ぶ日本最大のアーチ式ダムのこと。昭和38年(1968 年)に、このダムが完成するまでには、下流にある黒部第3ダムとともに数々の逸話が残されている。第3、第4とあるからには、第1と第2もあるわけで、大正時代から黒部の豊富な水量や急流を利用して水力発電を行おうとしてきたのだ。

ぼくらが出発した長野県新大町市のJR信濃大町駅からはバスに乗り、扇沢でトローリーバス(電動バス)に乗り換えて、ここに辿りついた。ここから目的地となる室堂までは、さらにケーブルカー、ロープウェイ、さらにもう一度トローリーバスに乗り、ようやく辿りつくという、長い道のりだ。とくに、すべてトンネル内を走る、国内唯一とされるトローリーバスの乗車は、室堂へと向かう儀式ともいえる。

黒部第4ダムの底から吹き上げられる水滴とも、氷の滴ともつかない霧が、寒風とともに顔を叩く。時折、風が竜巻のように身体を覆い、前を見ることも、進むこともできなくなる。そうして、「カツッ、カツッ、カツッ」と、また薄暗いトンネル内の反響音を聞きながら薄暗い駅舎の入り口をくぐり、暖房で温められた室内温にほっとする。

室堂へ、そして

トローリーバスの終着点・室堂バスターミナルの階段を上ると、そこはもう白銀の世界だ。樹木さえない。ぼくらはここで、ザ・ノース・フェイスチームと合流し、これからの3日間立山のパウダー三昧と、いくところだ。メンバーには、プロスノーボーダーの竹内正則、小松吾郎、豊田貢の3氏。それにアウトドアジャパンにも寄稿してくれているニール・ハートマンやツアー参加者も一緒だ。

まずは日本最古の山小屋といわれる室堂山荘へ。そして、最初のひと滑りへと向かった。

ひどい吹雪だ。ゴーグルをしていなかったら、まともに目もあけてられない。霧も出てきた。十数メートル先に歩いている人の姿が見えない。3000メートルの峰々が連なる立山連峰の、森林限界を超えた雄々しい姿などあったものではない。いくら動いたところで、身体は冷えるばかり。ただ、この記録的な雪。積雪量だけは、文句ない。そう、まったく文句ない。この吹雪も、霧も、寒気も。

吹雪と霧の中を、恐る恐る降ってきたぼくらは、初日の1本に満足し、再び室堂山荘へと戻ってきた。あたたかな部屋、あたたかな風呂、あたたかなメシ、そして冷えたビール。さらに、あたたかな布団。

室堂山荘の始まりは、300年以上前の1695年(元禄8年)といわれ、ぼくらが宿泊した山小屋の隣に現存する2棟あるうちの北室が1726年(享保11 年)、南室が1771年(昭和8年)に再建されたものだという。現在は国の重要文化財に指定されているが、十数年前までは実際に宿として使われていたというから驚きだ。ちなみに現在の室堂山荘は、山小屋とは思えぬ、快適さなのである。

さて、2日目のぼくのメモには、こう書いてある。

「風、霧、寒気。昨日と同じ」


明日はきっと晴れるだろう、と思い床についたが結果は同じ。やはり、いくら雪道をハイクアップしようにも、凍えるばかりであった。しかし、天気は優れないものの、ぼくの心のなかは決して霧や吹雪ではない。

3日目。日本でもっとも歴史の古い山岳信仰の地としても知られる立山に、日の光が舞い戻った。とすれば、ぼくらがどんな気持ちで新雪を滑ったかはわかるだろう。

Useful Info

立山室堂へは、長野県側の扇沢(JR信濃町線・信濃大町駅からバスで40分)、富山県側の立山駅(富山地方鉄道・電鉄富山駅から60分)から、それぞれ乗り継ぎを含め1時間30分ほど。扇沢からはトローリーバス、ケーブルカー、ロープウェイ、トローリーバスを乗り継ぐと到着。立山駅からはケーブルカー、高原バスでつく。通常の営業は、4月中旬から11月末日まで。これ以外の期間は深い雪に覆われ、訪れるものはほとんどいない。なお、扇沢、立山駅から先はすべてマイカーの乗り入れ禁止、双方に有料駐車場がある。

立山黒部アルペンルート www.alpen-route.com
(5カ国語:日本語、英語、韓国語、広東語、北京語)