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特徴

2007
Issue 16
Salaryman Snow Safari
By Shoji Matsumoto

3人の普通のサラリーマンが、エンドレス・ウィンターを求めに南に向かった!

今年も暑い夏がやってきた。暑さと人混みに弱い僕にとって、げんなりする季節だ。しかし、それと同時にワクワクさせるものがやってくる。

日本人が後ろ指を指されずに長い休みを取れる数少ない期間“夏休み”。目前まで迫ってきている。 僕たちは、厳しい夏を“社会人”らしく働き続けられるように、火照った体を冷まして、英気を養わなければならない。そのために南半球へ滑りに行くことは必要不可欠なことなのだ。 

旅のメンバーは僕ショージとテツオ、タダシの3人。彼らとは山で出会い、気が付くと一緒に滑るようになった。本当に働いているのか疑問に思うくらい、この仲間たちと時間を作ってはフィールドで遊んでいる。 

今回のトリップの目的は、氷河の中の山小屋に泊まり、自分たちの足で山々を登り、登った分だけスティープで、ディープで、ドライなパウダーを滑るというシンプルなものだ。 

行動拠点は、ニュージーランドの南島にある静かな町メスベン。目的地はそこから2時間ほど車を走らせて到着するアロースミス山脈というエリア。標高1500m近くへと登っていくと、広大な氷河が広がっている。その氷河の真ん中に、僕らの寝床となる小さな山小屋がポツンと建っている。山小屋まではヘリコプターでアクセス。そこから先は自分たち次第というわけだ。

羊の国のトラブル

新雪50cm! 

顔がほころぶ。嬉しいことに、この先数日間は雪がなおも降り続き、その後天気が安定してヘリが飛べそうだとのこと。この素晴らしい情報に3人とも小躍りする。 

ヘリが飛べる天気になるまで、クラブフィールドというスキーエリアで3ヶ月ぶりの雪の感触を確かめるためでかけた。 ここは、スキークラブがつくった会員制のスキー場だが、一般にも開放されている。営利目的ではないので、設備も最低限しかない。足慣らしのつもりだったが、雪はどんどん降り続き、粉雪の深さは膝上から腰まである! 

あっという間に足はパンパンになり、足慣らしどころじゃない騒ぎになった。 

最高のスタートで、僕らはヘリが飛べるタイミングを待った。 ヘリの搭乗日。前日までの雪が嘘のように止み、静かに青空が広がった。僕らはパイロットに指定されたヘリポートまでの道のりを急ぐ。途中、いつも味わう“旅の醍醐味”に遭遇した。

そう、トラブルだ。

ヘリポートまでは一本道で、迂回路はない。そこで予想外に渋滞にはまってしまったのだ。先を急ぐ僕らの行く手を防いだのは、なんと羊の群れ。 羊渋滞とは……。さすがニュージーランド。なんでも揃っている日本でもこれだけはないぞ。おかげでヘリの離陸時刻に15分遅刻。しかし、ヘリのメンテナンスで出発時間がさらに遅くなった。

僕らの「5つ星ホテル」は、360度見渡す限り岩々した山に囲まれた、わずかな平地に建っていた。さっそくヘリから駆け降りると、腿まで絡みつく粉雪に出迎えられた。 

僕らは急いで粉雪まみれの山小屋のドアを掘り出し、荷物を小屋に放り込んで、地図に頭を寄せ合ってルートを決め、我先にと歩き出した。 

僕以外の2人はスキーヤーだ。スキーにシールを付け、サクサク進んでいく。スノーボーダーの僕だけは、スノーシューで進む。 雪は深く、2人が歩いた後を歩くと、さらに脛まで吸い込まれる。 氷河の天気は穏やかで、心地よい微風が吹いていた。青く澄み渡った空の下、僕らの話し声と、風と、ハイクの音しか聞こえない。

氷河の貸切だ。悪くない。

いや、とてもイイ!  「うぉ~~~~~~」 僕は思わず叫ぶ。 

しかし、そうはさせまいと言わんばかりに、ヘリ・スキーガイドの「メスベン・ヘリ」社のヘリが轟音をたてて上空を横切った。きっと上から、「哀れな貧乏人たちが歩いてるぜ!」なんて言われているのだろう。だけど、僕らはヘリガイドたちが連れて行ってくれない、どんな斜面だって選ぶことができる。ざまあみろ。ただし、ヘマをしたら自分たちで尻を拭きあわないといけないルールだけど。 

2時間ほどでドロップインするポイントに到着した。積雪の状態を確認する。吹き抜ける風や、まぶしい太陽、そびえたつ山々から、僕らに与えてくれている情報をかき集める。滑りたくてたまらない自分の理想のラインと、その陰に潜む様々なリスクを想像し、考え、滑るラインを決断する。滑るのは自分、リスクを受け入れるのも自分だから。

一人ずつ自分のラインを決め、滑りこんで行く。 僕が一番最後。 言葉にならない声とともに、すぐ隣にいた仲間が、みるみるうちに豆粒ぐらいの大きさになってしまった。その声を聞けば、雪の状態はすぐわかるってもんだ。 

自分の番。 ひとつ深く息を吸い……、ドロップ。 滑り出すと、スノーボードを通して雪の感触が伝わってくる。 

重力に身を任せながら、スピードをターンへ。ターンをスピードへと変えていく。晴れたことにより、雪からはいい具合に水分が抜け、絶妙な浮遊感を与えてくれた。 

深いターンでも底付きはせず、ぐんぐん板は走っていく。大きな山の斜面に、僕ら3本だけのラインを刻みこんだ。 すでに日が陰りだしていたので、後ろ髪引かれる思いで、何度も何度も振り返りながら、山小屋へと戻っていった。 

その晩、さっそく僕らは貸切の「5つ星ホテル」の中で祝杯をあげた。1人1本の缶ビールと紙パックのワインは、乾いた喉と体に本当に良く染み込んだ。山の上でのビールに値段なんか付けられない。

聞き取れぬラジオ無線の不安

2日目はさらに遠くまで足を運んだ。 

天気は相変わらずの快晴。気温が低いので南斜面でも雪面が解けずに、雪が良い状態を保っている。僕らは地図で目をつけていた大きなカールへとハイクアップしていった。途中までは昨日の足跡をたどっていけたので、3時間ほどで目的地に着くことができた。そこには斜度40度ぐらい、標高差 300mほどのカールが広がっていた。 

こんなところを見つけてしまったら滑らないわけにはいかない。僕たち3人は、雪煙を上げる絶叫マシーンと化し、思い思いのラインを残していく。 テツオは、前からやりたかったというパウダーでの直滑降を慣行! 

その夜、心地よい1日の疲れを感じながら、ある相談を始めなければならなかった。スムーズに全てが進んでいたが、1つだけ問題があったのだ。 このエリアの各山小屋には無線が設置されており、天気予報を朝8時半と夜7時に連絡してくれる。みんなそれを聞いて、山を降りると判断した場合には、無線で山小屋に迎えのヘリを呼ぶのだ。

問題とは、その無線のノイズがひどく、音量を上げるとハウリングしてしまい、内容が聞き取れないのだ。初日はまったく聞き取れず、「なんとかなるでしょ!」とさっさと寝てしまっていた。 

今日も内容は解らなかったが、翌日から天気が悪くなるという予報を山に入る前に聞いていたため、いろいろ考えた結果、無線でヘリのピックアップの要請をした。

朝、風が窓を叩く音で目が覚めた。予報どおり風が強くなってきたようだ。昨晩迎えをお願いしたのは正解だったのだ。 ちょうど朝食を食べ終わると、ヘリの音が小さく聞こえてきた。迎えが来てくれてホッとする反面、「もう終わりかあ」という気持ちが込み上げてきた。 

僕らはそそくさと荷物をまとめてヘリに飛び乗り、遊び場所を後にした。 その後、僕らのニュージーランド滞在中に青空を見ることはなかった。運が悪いと言えばその通りだが、結果的に正しい行動をしていたことが証明され素直にうれしかった。山小屋には3日間しか滞在できなかったが、生涯忘れられない経験となるだろう。 

世界は広く、僕らはまだまだ次の旅先を探している。経験が足らなくて行けない場所もたくさんあるけど、真っ当な社会人でも、世界の山々を滑ることはできる他の国に行けば行くほど、日本のいいところも悪いところも見えてくる。長い休みは取りづらいけど、日本をベースに滑るこんな生活も悪くない。 

さあ、次はどこに行こうか。