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特徴

2007
Issue 17
Kyushu MTB
By Pauline Kitamura

Ride in 九州
Riverbeds, Tabletops, Volcanoes and―Pub Riding in Kyushu

羽田から飛行機に飛び乗り、その45分後には福岡空港で迎えを待っていた。九州MTB旅行前半のガイドは、タチとミチという兄弟で、彼らはアクロバットMTBの名手であり、MTBをこよなく愛する青年として知られている。
どんなとこに連れて行ってくれるんだろう? 彼らについていけるかな?
などと考えていると、使い古されたワーゲンのウエストファリアが急ブレーキをかけて目の前に止まった。オーストラリア人カウボーイがかぶっているような帽子に、足にはゴムサンダルという姿の日本人が車から飛び出してきた。いまにも「グダイ」(オーストラリア訛りの「グッデイ」)といいそうな雰囲気なのは、兄のタチだった。高速道路を飛ばすバンの中では、大きな音でトランスミュージックがかかっていた。

「心の準備は大丈夫?」

と、タチがにやりとする。

「滑床に向かってるんだ。滝からジャンプするから濡れるかも知れないよ」

「えっ、バイクに乗ったまま?」

聞きかえす私を見て、彼は笑う。

Ride One
滑床リバーライド

滑床渓谷は福岡から東に2時間ほどの大分県の川。滑床とは文字どおり、ツルツルとした板という意味だが、川底が何千年も前の噴火で流れ出た花崗岩でできている。昔は村人が浅瀬を通行したものだが、最近ではライダーたちがスリルを求めてやってくるようになった。

ヘルメットをかぶり、プロテクターをつけ、川に入る。浅く、川底は平らだが、ところどころボコボコとした穴がある。川の音、濃い緑のトンネルが渓谷を包み、気持ちいい。そして、何と言っても川でMTBということ自体が新しくてワクワクする。

数回滑りそうになるものの、何とかコツを覚えた。といっても滝は別の話。落差はたいしてないものの、着地する場所が平じゃないというだけで怖い。

「さあ、行って!」

背の高い弟のミチが言う。せっかく東京から来たのだ、怖いなんていってられない。

「OK やるわ。5、4、3、2 あっダメ、待って!」

崖とか飛び降りるのは大の苦手。でも、何度か怖じ気ついたものの、ついに勇気を奮い絞ってペダルを押し前に進んだ。タイヤが崖のふちにさしかかると、恐怖が急に襲ってきった。腕に力が入ってガチガチ、身体も硬直状態。なさけない。前輪さえコントロールすることができなくなり、顔からMTBとともに落ちてしまった。 体とMTBが水面に浮かび上がると、私の新しい友達がゲラゲラ笑う声が聞こえてきた。タチがいろいろアドバイスしてくれたものの、また数回顔から落ちてしまった。そして、とうとうミチがフロントフリップ・ダイブをお手本に見せてくれた。

「ウオッホー」と奇声をあげ、滝からジャンプ。フォワードフリップを空中で飛沫を上げながら見事に水中に着地。私はそばであっけに取られながら、なるほどクレージーと呼ばれるワケだと思った。

Ride Two
フランダーズ・フィールド/テーブルマウンテン

次の挑戦はテーブルマウンテンと呼ばれる、川床とはまったく異なるものだった。大昔の噴火の結果できた、平らになった頂上部は九州独特で、とても切り立っている。まるで侍が刀で山を二つに切り、下半分を残して去って行ったようだ.

人気の万年山など、たくさんの山があるが、私たちが目指したのは大分県の玖珠町にある小さなテーブルマウンテン。出発地点は日本の牧場らしくない名前の「フランダーズ牧場」というところ。バイクを押してダートロードを進み、抱えたりしながら登る。ときどき休んで、眼下に見える牛たちを眺めると、だいぶ登ったなと思う。 山の頂上は広々して緑の平原。どこでも自由にバイクで行くことができる。この自由な感覚なのか、それとも静かでのんびりした目の前に広がる田園景色のせいなのか。

どちらにしろ、テーブルマウンテン以上に気持ちのいい場所はない。そしてとっておきのお楽しみは、頂上から下の牧草地まで、MTBで降りおりること。 「下におりたら、一つだけ気をつけなくちゃいけないことがある」

とミチが言うが、わずかながら遅い。

「牛の落し物のうえを行っちゃだめだ」

Ride Three
阿蘇山火口ツアーと温泉

後半の九州バイクトリップには、日焼けした、長髪にお髭姿というボヘミアンないでたちのテツが加わった。タチとミチが週末だけのガイドなら、テツは北九州のフルタイム・プロマウンテンバイクガイド。この地域のことを自分の裏庭のようによく知っている。滝から顔から転落、牛の落し物に悩まされたりしたので、今度はもっとリラックスできるコースに挑戦してみたかった。するとテツは熊本のバックロードはどうかと言ってきた。 九州の田舎町はのんびりして美しい。九州の中央には、活火山の阿蘇山がある。直径25kmというカルデラは世界一の大きさで、円周は100km。クレーターの縁からの景色には、まさに圧巻。山はきれいな線を描きながら、谷間、田んぼ、花咲く麓へと続く。この景色、一生忘れることはないだろう。

九州に来たら温泉だ。このあたりでは、黒川温泉が有名だ。浴衣の袖をとおし、温泉入湯手形で湯めぐりとしゃれてもいい。

しかし、地元っ子の彼らは、涌蓋山のふもとにある小さな村を選んだ。ひっそりとした村に到着すると、あちこちから湯煙が立っているのを発見。各家には温泉のパイプが伸びており、道路、草むらまで湯煙が上がっている。沸き湯が豊富とみえ、一般家庭にも温泉が供給されているだけでなく、このスチームを暖房にまで利用している。そして、火口をツーリングした日を終えるには、湯気たなびく「岳の湯温泉」がぴったりだった。

Ride Four
「Kenji屋」でスピニング

九州最後のバイクライドは、ドロ道や川や山ではなく、「Kenji屋」というパブだった。福岡の中心部、ニューヨーク・スタイルのバーはマウンテン・バイカーのお気に入りの店らしい。ケンジは陽気でチャーミングな人。料理がうまいだけじゃなく、腕相撲日本チャンピオンであり、ハードコア・マウンテンバイカーである。そして、スピニングのインストラクターであったりもする。
年数回、パブの椅子やテーブルをかたづけて10台のスピニング・バイクを並べ4時間のバイクライドのイベントを行うという。本業はスピニング・バイクのインストラクターであるタチが、音楽をボリューム一杯にしてリードする。テクノの低いベース音が部屋一杯にながれ、ライダーをだんだん早くこがせる。 「カモン、レッツゴー!」

とタチが汗を流しながら声をかける。音楽、スピード、そして参加ライダーがリズムにあわせペダルをこぎ続ける。盛り上がりは極限に達していた。とうとう一番元気だったケンジがはじけて叫びだす。そして普段はおとなしくて、恥ずかしがりやのブッキーという女の子が続いて奇声を上げだす。このライドは人びとを変える不思議な力がある。なぜこのイベントが人気があるか、よくくわかった。

今ようやく、九州のMTBの噂の意味がわかってきた。川、山、火山そして繁華街のパブと、面白いところが一杯。人々はとても気さくで情熱的、しかも楽しい。そう、私が九州を本当に楽しめるように、彼らの秘密の場所を教えてくれるほど親切なんだから。


アクセス

福岡は九州で一番大きい都市で東京より飛行機で45分、新幹線で6時間。JAL、ANA、スカイマークが羽田~福岡間の直行便を就航中。

An Insider's Guide to Kyushu
Go where the locals eat, ride & play


MTB Guide:

Southern Works ・サザンワークス
福岡市南区清水1-16-8 1F
info@southernworks.com
(092) 212-8339
www.southernworks.com
北九州で数少ない、MTBとカヤックのツアー会社の経営をする松本哲氏。彼が川、テーブルマウンテン、ボルケーノライド、温泉などに案内してくれる。高品質なレンタルMTBもある。

Bike Shop:

Masaya ・ 正屋
福岡市南区向野1-3-9
info@masaya.com
(092) 553-2262
www.masaya.com

地元で有名なバイクショップ。オーナーのマサさんは、チームトレックのMTBメカニックでもあるから、彼に任せれば九州のツーリングは間違いなし。店の2階では、彼の奥さんが福岡~博多間のバイク便事業を行っている。書類だけでなく、「ケンジーズ・ドーナッツ」もデリバリーする。

Food & Drinks:

Kenji-ya ・KENJI屋
福岡市博多区店屋町3-5
(092) 272-2303
福岡にある、地元のライダーに人気あるパブは必見。メープルシロップのかかったフレンチトーストが特においしい。ケンジの新しいドーナッツショップの「ケンジーズ・ドーナッツ」もお見逃しなく。

“Pyonkichi” Yatai ・屋台「ぴょん吉」
福岡の屋台は有名で毎夜約180件が営業する。なかでもMTBライダーたちに人気なのが博多駅と「博多キャナルシティ」の間にある「ぴょん吉」。MTBをこよなく愛し、バイクのメカニック・エプロンをしながら美味しい料理をつくる。

Ospitalita ・オスピタリタ
熊本県阿蘇郡小国町北里明野
(0967) 45-5564
熊本や阿蘇山周辺をまわるなら、小国町近くの小さなピザ屋で自分にご褒美を。店も小さければメニューも小さく4品。マルゲリータ、ソーセージ・ピザ、ハムアンドサラダ・ピザ、そしてアップル・ピザ。ピザは手作りの牧オーブンで焼かれ、とっても美味しい。営業時間も限られているので確認を。

Hot Springs:

Kurokawa Onsen ・黒川温泉
熊本県阿蘇郡南小国町黒川さくら通り
(0967) 42-0076
www.kurokawaonsen.or.jp
熊本で有名な温泉。

Yukemuri Chaya ・ゆけむり茶屋
熊本県阿蘇郡南小国町西里岳の湯2816
(0967) 46-5750
www.waita.info/inn/takenoyu/takenoyu.html
涌蓋山のふもとにある温泉