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特徴

2008
Issue 20
Blind Men, Elephants and the Bald Faced Cat
By Yuske Hirota

カナダでのスキーに対するイメージとは、どういったものだろう?
広大な氷河でのヘリスキー、ウィスラーやロッキーでのスキーリゾート。とてつもなく広い国・カナダには、無数の遊び方がある。まだ、日本で一般には知られていない・ノーキャット・使って最大限にパウダースキー、スノーボードを楽しむ方法を紹介する。

「群盲撫象(ぐんもうぞうをなず)」という、仏教の経典に由来するとされる諺がある。数人の盲目の男たちが、象を撫で、象の耳を触ったある男は「象は団扇のような生き物だ」と言い、足を触った男は「象は太い柱のようだ」と言い、尻尾を触った男は「蛇のような生き物だ」と、それぞれ異なる印象を話したという。この故事から、自分の少ない体験をもって、全体の姿を判断してしまうと大きな過ちを犯してしまうことをいう。

昨シーズン、その諺のように僕はカナダという大きな象に対して、まさしく盲目になっていた。雪を求めて方々を歩き回ることはせずに、ブリティッシュ・コロンビア州の山奥にあるキャットスキー・ロッジで1シーズンを過ごしていたのだ。僕にとって、カナダの雪というものは、“信じられない位軽く、深く、そして毎日パウダー”であった。
無論、カナダのすべてのエリアがそうではないことはわかっている。日本人が毎日、寿司を食べているわけではないように、カナダ人が毎日パウダースキーをしているわけではな

だが、僕が過ごしたボールドフェイス・ロッジにおいては、シーズンを通して雪は軽く、深く、毎日パウダーであったのだ。この山で過ごした1シーズン、カナダという広大で多様性のある国にいながら、他の地方に行ってみたいという欲求がそれほど生まれなかった。

僕はディズニーランドのような巨大リゾートスキー場から、あえて盲目になることによって、深く、静かな、その土地を十二分に味わうことができたのだ。  カナダでのヘリスキーというものはとても、イメージがしやすいものだと思う。ゆったりとした斜面を、スキーヤーが並んで滑っているヘリスキーの写真を見て、これこそが真のカナダのスキーだと思うかもしれない。それに比べキャットスキーを説明するためには少々の労力が必要となる。
幸いにして最近では、「キャットスキー? 何それ? ああ、あの猫が履く位短いスキーのことね?」みたいな人は少なくなってきてはいる。だが、まだまだ日本ではキャットスキーのコンセプトと魅力を理解している人は少ない。

滑り降りる標高差では、ヘリコプターで上がる山のほうが雄大であることは間違いない。日本では味わえないような氷河の山、雄大な景色を楽しみたいのであればヘリスキーはうってつけだ。ただ、残念ながら山はいつも晴天とは限らない。
だから、そういった楽しみはオプションとして考えておくべきものだとも言える。でも、キャットならば、たとえストームの最中でも山の中に入っていくことができる。ツアーが中止になることも、まずないのだ。ヘリスキーとキャットスキーは、ともにパウダースキーを対象としているが、それぞれ微妙に遊び方が異なり、それぞれにメリットとデメリットがある。その違いを理解した上で、自分にあった楽しみ方を探してほしいと思う。

キャットスキーの歴史は1975年、セルカーク山脈(カナダ3大山脈のひとつ。ロッキー山脈の西側)のバックカントリーに、最初のキャットスキー会社が現 れたことに始まる。それまで、スキー場のゲレンデなどで、人員輸送などの目的で使われていた雪上車をバックカントリー・スキーのために利用しはじめたの だ。

現在カナダでは、ブリティッシュ・コロンビア州で組合に登録しているツアー会社は13社。登録していない会社も多数ある。
   カナダというと、ウィスラーやロッキーが有名だが、なかでも多くのツアー会社が集中しているのが、セルカーク山脈だ。ウィスラーのある沿岸山脈では降雪量 は多いのだが、海に近いため水分含有率の高い、湿った雪が降る。有名なロッキー山脈は内陸にあるので乾燥した、軽い雪が降るが、実はあまり降雪量は多くな い。ロッキー山脈は低温で、アイスクライミングには丁度良いのだが、深いパウダーを当てる機会はそう多くはないのだ。
そこで、我らがセルカーク。この山脈は、その中間(山間性気候)にあり、ウィスラーとロッキーの素晴らしい特徴(降雪量も比較的多く、ドライで軽い雪が降る)を兼ね備えている。

僕が1シーズン、ガイドとして過ごしたボールドフェイス・ロッジは、そのセルカーク山脈の麓、ネルソンというチャーミングな街の裏山にある。1シーズンの 総降雪量は12m(山間性気候の軽い雪の12mは、沿岸部の湿った雪20mよりもおいしい!)を超え、占有エリアは北米最大級の規模でもある。

また、世界でも唯一といっていいほど、ガイドの多くがスノーボーダー、もしくはスノーボードもできるガイドであることも特徴だ。あなたがスノーボーダー だった場合、好みの斜面はスキーヤーとはことなり、特徴のない緩やかなオープンバーンよりも、起伏があり、バンクがあり、まるでサーフィンのようなドライ ブ感を得られる地形のほうへと、自然と板が向いてしまうはずだ。ガイドはそんなスノーボーダーの気持ちを理解していて、そのような地形へと導いてくれる。 ボールドフェイスの経験豊富なガイドのなかには、もともと筋金入りのスキー、スノーボードバムだったものも多く、そういうことを理解し、つまり、ガイド自 身も楽しめる地形へと導いてくれる。

仕事なのにガイドも楽しむだって? でも、これはとても重要なのだ。ガイドが退屈だと思い始めた瞬間、ガイドが自分の仕事を楽しめなくなった瞬間、その瞬 間にツアーそのものの価値が失われ、ゲストに対しても最高のフィールドを提供することができなくなる。最大限、安全を考慮したうえで、最大限に楽しめる フィールドを提供し、ガイド自らもチームの一員として過ごせれば、ロッジに帰ったあと、ビール片手のパウダー談義にも花が咲くというものだ。

 ま た、ガイドだけではなくボールドフェイスのスタッフ全員がゲストに対して家族のように振る舞い、究極の目的、つまり、毎日パウダーを滑るためにロッジすべ てが機能している。アフタースキーは、サウナで汗を流して、セラピストによるマッサージを受け、ディナーを楽しみ、ビール片手にパウダーフリーク達と語り 合うのだ。

ガイドルートの多くは、疎らなツリーランであり、日本では味わえないような急斜面の針葉樹ツリーランが楽しめる。日本でのツリーランといえば、広葉樹、ブナやダケカンバが多い。だが、広葉樹はそれほど急な斜面には成長しないので、それほど急な斜面はない。

また、落葉してしまうので、均一に雪が降り積もる。それが針葉樹の場合、葉っぱに雪が降り積もり、雪面に起伏ができることが多い。この起伏こそが、小さなエアを生み出し、最高に面白いミニチュア的地形特徴を生み出す。これこそ、針葉樹ツリーランの醍醐味だ。

  セルカーク山脈の奥深く、ネルソンの街は陸の半島とも呼ばれている。主要な国道から外れているために、明確な目的を持った人間以外がやってくることは少な い。その目的とは、とてもシンプルなものだ。スキーをして、人生を楽しむこと。もちろん、スキーだけが人生ではないが、家族や生活といったものと同様に、 この街では、それが人生の重要なパートを占めている。そして、街に住む人々は、セルカークに降る雪ともに、あなたと、あなたの数人の仲間だけを静かに迎え てくれることだろう。(廣田勇介)

Getting there
ボールドフェイスへのアクセスは、成田空港からシアトル経由でワシントン州スポーケンへ。スポーケンからはボールドフェイス山麓の街、カナダ・ブリティッシュコロンビア州ネルソンまでシャトルバスで3時間。途中で国境を越える。ネルソンからロッジまでは専用のヘリで約5分。
Baldface Lodge Web; www.baldface.net
英語でのお問い合わせは、info@baldface.net 
日本語でのお問い合わせは、baldface.jp@gmail.comまで。