>  屋外日本雑誌  >  Issue 25 : 11月/12月 2008  > コラム  >  Travelers Tune  >  Family Connections

コラム

Travelers Tune

By  Troll

Family Connections

2008
Issue 25

ある日の昼下がり、自宅のハンモックにゆられながら、本コラムの担当編集者を待っていた。待合せ時間はどうに過ぎており、連絡をとろうとした。だが、ここ で彼がいまだに携帯メールの打合せ方を知らない事を思い出す。ウチは聾者だから電話が出来ないし、静かな携帯電話を眺めつつ心配し始めた。1時間位経って ようやく現れた彼は「トロールの家が見つからず連絡もとれなくて焦ったよ」と笑いながら、冷え切ったハンバーガーをパクついて、筆談ノートにペンを走らせ た。

そういえば携帯電話がまだなかった頃、明日から仕事というときに、海がシケてフェリーが欠航。公衆電話に並ぶ長い行列の奥で小さな船 舶事務所のファックスを借りて、家や会社に連絡をしていた。

今思えば、あちこちで人様のファックスを貸してもらっていた。だから携帯電話 が普及し始めると電話と同じように片手で携帯メールでリアルタイムに連絡ができ、携帯ウェブサイトがラジオのように天気や雪、波情報をチェックできるよう になった。これは、ろう者にとって革新的情報ツールの出現だ。

ウチと相棒のミホは携帯電話を自転車のフロントバッグに入れて、残暑の紀伊 半島をチャリ旅していた。父もろう者で、オフロードバイクにまたがり、携帯電話をベストのポケットに忍ばせて西日本の林道を走っていた。お互いメールで 「三重県に入ったよ。テントは暑くて眠れない」、「今、香川。晴れて最高!」という具合に旅の近況が飛び交った。

うちらはそんなメールを 繰り返しながら伊勢参りをして「赤福」のあんこ餅をほおばり、アップダウンの続く熊野街道を漕ぎ進む。本州最南端の潮岬を過ぎると四国も間近だ。

「今、 和歌山港。これから南海フェリーに乗って徳島港へ」
そう父にメールを送ると、「徳島港へ夕方行く」という短い返信があった。夕陽に染まる真っ赤な 徳島港へフェリーが滑り込む。港の中でたった1人、大きなシルエットを映し出す父が見えた。興奮したうちらは車両甲板から荷物満載の自転車とともに飛び出 す。

 「昔は旅先で待ち合わせするなんて考えられなかった。電波は幽霊のように自由自在に動く手紙のよう」

そう言いなが ら、極上の野宿場所を見つけておいてくれた父が案内をしてくれた。テントを張り終わるとバイクに積まれた冷たいビールを取り出してシエラカップに注ぎ、乾 杯! お互いの旅の出来事や、家では話さないような人生の深い話をして盛り上がる。手話と笑顔が炸裂した旅の夜であったのだ。