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コラム

Japan Angler

By Abdel Ibrahim

Better Off in the Bay

2012
Issue 42 (Winter 2012)

Better Off in the Bay
By Abdel Ibrahim

品川駅近くのパブでビールのジョッキをちびりちびりと飲んでいると、若干酔っぱらったひとりの紳士がこちらへ近づいてきた。彼は、僕がバーカウンターに立てかけていた細長い布製のケースを指さすと、明らかにニューカッスルの方言で「そこに何が入っているんだい?
と聞いてきた。

「釣竿です」と答えると、その紳士は驚いたようにケースを見直して、一瞬言葉につまった。

「釣竿? それをいま買って来たのか?」

「そう。すぐそこにあるプロショップで」

困惑したようなその様子を見て、僕には彼の次の質問が予想できていた。彼は案の定周囲をキョロキョロと見回している。だから次の質問の前に、お台場や羽田の方角を指で示してあげた。

まさか、ここから近い場所で魚が釣れるっていうのかい?」

もちろん。それもかなりたくさん、いろいろね」

再び彼は沈黙したが、それから数秒の後、半信半疑だったその表情は、子供みたいに興味津々といった顔つきに変わっていった。

僕はこれと同じ一連のシナリオに過去何度も遭遇している。そしてその相手はたいてい、現在は地元を離れているものの、国へ帰れば僕同様に自分もフィッシング・バムのひとりという人物であり、今回のように僕の話を聞いているうちに、明らかになった意外な新事実に驚くという筋書きになるのだ。

この関東地方を訪れる人、もしくは新たに住人となる人たちは、まさかここで魚をキャッチできるなどとは考えもしない。仕事に出かける時だって、海や川が目に入っても気にならなくなっている。コンクリートだらけの街並みに慣れてしまっていて、東京や横浜が海に面した土地だってことを忘れてしまいがちなのだ。

釣り糸を水に浸すことに興味を示す人に出会ったら、僕の場合は、いつもまずシーバスから始めることを薦めている。広い東京に住んでいる人にとっても一番アクセスが良く、コストもほどほどで、すぐに覚えられるからだ。基本的には、ルアーを使えばより多くの魚をキャッチできる。そして河口や平地に加え、シーバスはフィッシュバースの近くにも群れで集まっていることが多いし、昼夜を問わず、いい漁場を作っているプラットフォームがいくつも存在する。

アメリカの大学に通っている時にフィッシング・バグに取りつかれてしまった僕のバディ、アキ・モリは、勇敢にも(そして賢くも)サラリーマンとしての生活を捨てて、シーバス・ガイドになる道を選んだ。
彼は恐らく、現在東京湾で活動しているスキッパーの中で英語を話す唯一のスキッパーのはずだ。そしてそれ以上に、彼ほどこの海域を熟知している人物はいない。自分のクライアントたちを必ずといっていいほど魚を釣れる場所まで案内してくれる。

彼は、僕がこれまでに一緒に釣りに出かけたどんなスキッパーよりも自然な振る舞いでいながら、とても謙虚な人物だ。その若さのせいもあるのかもしれないが、とにかくこの彼は、クライアントに対して決して“押しつけがましい”方法論などを語ったりはしない。彼の堅苦しくない謙虚なガイド振りは当然のように人気が高く、チャーターの予約はかなり先まで埋まっているという。

これまでに僕は、嫌になるほどの時間と費用をかけて、北海道から琉球諸島までのあらゆる漁場を体験してきた。そしてその多くで、心身ともに疲れ果て、もう釣りをやめて将棋でもやろうかと匙を投げたくなる場面にも遭遇してきた。でも、再び東京へ戻ってきて一度でも東京湾(僕が日本で最初に釣りを始めた場所だ)に出かけさえすれば、またすぐにそんな気分を忘れて立ち直れるのだ。もしかしたら最初からずっとここで釣りをしていれば良かったのかもしれない… 。

アキ・モリと一緒に出かける釣りに興味のある人は、彼のウェブサイトへ:www.fishtokyo.com