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コラム

Japan Angler

By Abdel Ibrahim

The last fish I ever have to catch

2011
Issue 41 (Autumn 2011)

JAPAN ANGLER

The last fish I ever have to catch

まるで夢から覚めたような感じだった。

海面で横倒しになっているシルバージャイアントをレール越しに目撃した瞬間、これまでの30年にわたるフィッシング人生が走馬灯のごとく浮かんできた。2時間半ほど格闘したものの、結局いいショットを撮るタイミングをつかめないまま甲板員がリーダーを切ってしまい、僕のトロフィーになるはずだったその魚は手をすり抜けるように、ふたたび青い海へと戻っていったのだった。

でも不思議なのは、特別悔しいと感じなかったことだ。むしろ僕の中にあった“矢も盾もたまらず釣りをしたくなる気持ち(fishing jones)”はスッキリと消え去り、平穏な気分だけが残っていた。「これでもう思い残すことはないな」と、ひとり悦に入ってしまったほどだった。

実は最近、Tシャツに使えそうなちょっとしたデザインを思いついていた。釣り好きのレベルを、ジョークを交えつつ段階別にイラスト化したもので、悩める海水の釣り師が、釣りやすい沿岸の種からより難しい青物へと進歩していく様子を描いた図柄である。

一歩一歩その階段を上っていく間に、もっと遠くの大海原で、もっと大きな獲物を捕まえたいという釣り師の欲求はどんどん強くなっていく。一般的に、ある程度のスキルがあって、継続的に釣りを続けられる人というのは、毎日あくせく働かなくても十分に暮らせる資産を持った人か、もしくは後先を考えずにただ釣りに出かけるという人か、そのどちらかだ。

すべての釣り師にとって、ステップの頂点に君臨するターゲットは必ず存在する。そしてスポーツフィッシュにおいては、釣り師に聖杯をもたらすものはただひとつ、あの本マグロ(黒マグロ)である。

つい最近まで、僕が一生のうちに一度はやりたいと思っていることのナンバーワンは、スタンドアップ・タックルで400キロ以上の巨大ブルーフィンを陸揚げすることだった。でもその話を湾奥の釣り仲間に話したところ、そんなバカげた考えは聞いたこともないと笑われてしまった。どうやら、スポーツフィッシュ界で最強の戦いはそれしかないと信じていたのは僕だけだったようだった。

ルアーを使う釣り師として、僕がブルーフィンをターゲットにしたトップウォーターでのスピニング・タックルを初めて体験した時、70キロを超えるマグロと格闘するにはこれが一番適していると上級釣り師に教わったことがあった。マグロを陸揚げするなら、このタックルがもっともエキサイティングな方法だろう、と。ただし、相当な体力がないと到底メイクするのは無理だとも言っていた。ダイ・ハード・タイプの釣り師の中には、マグロのシーズンに備えたウェイト・トレーニングをする人すらいるのだという。そう、ボートに引き上げるだけで丸1日かかるような100キロプラスの獲物を釣り上げた時のために、だ。

数シーズンの間、その100キロの巨大な生き物のことを想いながら、僕はただ懸命にプラグを投げ入れ続けた。とはいえ、僕がやっている程度の軽いタックルで実際に陸揚げできるものといったら、せいぜいグッピーが関の山で、次第にその現実がわかってきて気分も沈みがちになっていった。

僕自身も含め、トップウォーター釣り師の多くにとって、スタンドアップ・タックルで仕留めた最初の巨大マグロ次第で、その後の状況は変わっていく。スタンドアップ・フィッシングで使われるフールグラースロードと80#トローリング・リールはスピニング・タックルよりも大きくて重いが、トルクの大きい荷にも耐え得ることができる。釣り師が身に付けているハーネスは、プレッシャーを均一にするために特別な作りになっていて、格闘している間の動きはしゃがみ込むか戻すかのどちらかに限られてしまう。

言うまでもなく日本ではマグロ漁がとても盛んだが、なかでも日本有数の魚所となると、どこもみな漁業組合に所属する漁師のみがアクセスを許可される場所がほとんどだ。実際に資源を管理しているのは水産庁ではなく地元の生協という場合が多いが、管理は必ずしも完璧におこなわれているわけではない。事実、延縄や巻網の使用を禁止する規則が、手っ取り早く金を手に入れようと考える危険な漁師たちによって無視されることのある現実を問題視する声がある。

そんな中、娯楽としてフィッシングをおこなう釣り師でも楽しめる場所のひとつは、北九州にある玄界灘だ。ここではベイト・パターンに応じたベスト・ポイントを熟知するスキッパーの巧みなガイドが期待でき、経験ある釣り師なら、ゆうに100キロ以上のマグロを陸揚げすることも可能だ。

一方、ニュージーランドにはライブ・アボードのチャーターがあり、ホキの商業巻網船を探しながら沖合まで数百マイルの距離を移動してくれる。この辺りは300キロ以上という巨大マグロが大きな群れで現れるエリアで、網目から入り込んだホキを狙ったマグロがネットの中に入ってくる。彼らはかなりの速度で深くまで泳ぐため、ニュージーランドでのスタンドアップ・ファイトには数時間かかるのが普通だ。だからボートに引き上げたのがたった一匹であっても、釣り師は最終的に十分な達成感を感じることになる。

だからといって、そんなことで満足していたらダメなんだ。

インターナショナル・ゲーム・フィッシュ・アソシエーション(IGFA)に認定されているブルーフィンの記録は、1,496ポンド(678キロ)。1979年にカナダのプリンス・エドワード島(PEI)沖で捕獲されたものだ。このPEIは世界でも有数のブルーフィン生息地で、ここでは “小型”のマグロでも300キロを軽く超える。驚くべきはサイズに加えてその数であり、たいした苦労もなく一匹を釣り上げることができるのだ。

この魚所は深さが30から40メートルほどで、岸からもわずか2マイルほどの場所にあり、ブルーフィンがボートのすぐ横でエサを狙っていることすらある。非常に豊富な資源に恵まれ、シーズンオフのロブスター漁師がツーリストを連れてマグロ見学ツアーを行うこともあるほどだ。まだ乱獲が始まっていない60年ほど前、当時の世界のマグロ漁師たちが目にしていたのはきっとこんな光景だったのだろうと思いを馳せてしまう。

PEI沖で生息する巨大ブルーフィンは、西大西洋の群れのブリーダーともいえる存在で、サイズが大きく数も多い。カナダと米国による厳しい規制によって、完全に保護されているからだ。この規制はリサーチをベースとした観察結果に基づいて毎年見直されており、その方法は他国の水産団体からもロールモデルとして高く評価されている。

こうして大西洋の東側や太平洋の西側でマグロが危機的な状況にあることを考えると、果たしてブルーフィンをスポーツフィッシングの対象とするのが許されるのか、という疑問も湧いてくるだろう。だが待って欲しい。シー・シェパードを差し向ける前に知っておいて欲しいのは、実はマグロの生息数が危機的水準に陥っていることにいち早く気付いたのは、まさにそのスポーツ・フィッシャーマンたちであり、バイオマスとしてのマグロの生物量を守るためにあらゆる手段を講じるべきだと強く主張したのも、彼らだったということだ。

極端に聞こえるかもしれないが、いま僕たちが最良のシナリオだと考えるのは、商業的な取引の禁止だ。僕はサシミのトロは好きだが、それ以上に、世界の商業目的の漁があまりにも目先のことだけを考えた私欲にまみれたものであることを憂慮しているのも事実だ。それにも関わらず、多くの国々は現状を根本から変えるフレームワークスにすら、なかなか手を付けようとしない。

近い将来に全面的な禁止が実現する可能性は極めて低い。となれば、まずは消費者がマグロを守るための活動を始めるのもひとつの手段だ。たとえば自然の連鎖から外れた形で乱獲されるマグロの不買を行うこともできる。その意味では、日本の消費者の力は大きい。何といっても80%に及ぶマグロを消費するのは日本なのだから。

話を戻そう。

僕が捕まえそこなった魚は、どう考えても400キロの重さはなかった。でも、巨大ブルーフィンをキャッチ・アンド・リリースするのは、正直釣りの最大の醍醐味であると感じている。もちろん残念な気持ちもあるが、実際のところ僕にとっては十分に満足できる貴重な経験になった。いま願うことは、将来僕の娘が同じように格闘する時が来ても、その時に十分な数のブルーフィンが生き残っていることだけだ。


Getting on the Fish

★日本の沖合で上質なスポーツフィッシングを楽しむなら、ぜひハッタ船長へコンタクト。九州のマグロやその他の海水種を紹介してくれる。http://www15.ocn.ne.jp/~hachi0/

★カナダでのトレックはPEIのベストスキッパーであるトニー・マクドナルド船長へ。www.tonystunafishing.com

★モギ・ヨウイチ氏はおそらく日本ならず世界でももっともエネルギッシュなオフショア・フィッシャーマンのひとりだろう。世界のあらゆる場所へのツアーを敢行している。彼のアクティビティーに興味のある釣り師はこちらまで。www.uminchu-mogi.com