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コラム

Spirit of Silence

By Troll

野良猫との晩餐会

2009
Issue 30

 見知らぬ町を愛車用の自転車「ビーバー号」で旅しているとき、ウチは想いをめぐらす。「海鳥には空中の流れが見えるのかな」とか、「あの森の奥ではサルやシカがエサを探し求めているのかな」といった感じで目に見える風景や物事に対して刺激を受けたりして、毎度新鮮な感覚を味わう。


そんな時、単独行だったら、皆はどうしているのだろう。誰かに想いを伝えたいとか、その土地にしかないようなものを誰かに尋ねたいことが出てきた時にはどうだろう? 

坂を下り、集落や港町に出くわすと、その地で生活を営みながら、作業をしている人たちを目にする。そんな日常の狭間を通過する側であるウチは旅人であり、ろう者である。

 「この干している魚は何?」なんていうような気軽な立ち話をしたくても、両手は自転車のハンドルを握っているから笑顔でおじきするしか出来ない。じっくりと腰を落ち着かせて筆談でもしないと意思疎通は思い通りにいかないのだ。

しかし、それはろう者の日常でもある。同じ国内を旅しているのに、まるで言葉の通じない異国に来ているような外人の気分。旅に出ると見知らぬ人と話す機会が増えるから、自由翻弄だけど、孤独を感じることになる。

ウチの場合、そんな時に日記を書いても、誰かにメールを打っても、思考が行き場を失い、空回りしてしまう時があるんだ。そういう時に突然、どこからか野良猫がやってくる。すると、今日あった出来事を、猫に向けて勝手にテレパシーを送るようになった。たいていのネコはウチの手足をスリスリと体をこすって反応してくれる。

公園の芝生で、壊れた廃屋の下で、建物裏の自転車置き場で、こっそり野宿をしていると、よく野良猫が現れた。悩殺ポーズを仕掛けて、ご飯のおねだりをしているのに、あげるご飯がなくてカロリーメイトで我慢してもらうことが多かった。今は、ネコ缶をサイドバックに忍ばせて、日本のあちこちで野良猫の栄養補給をこっそりしてしまうのだ。特に日本は野良猫が多いので各地の野良猫との出会いも国内での旅の楽しみのひとつだった。