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コラム

High Tide

By Mitsuharu Kume

「黒潮」

2010
36 号

幅がおよそ100kmの道。

そんな道があるのを知っているだろうか? もちろん陸上ではありえない。そう、海での話である。

この道は黒潮と呼ばれ、日本の南海上、東シナ海よりトカラ列島をまたいで太平洋に抜け、日本列島に沿って北東に流れ、房総半島の沖あたりで東に流れて行く。この流れは、世界的にみても最大規模の海流であるという。

この幅100kmの道は、いろいろなものを運んでくる道である。

ヤシの実など、明らかに南からだろうというものが流れ着いているし、ゴミだってそう。もっと大きなものを言えば、船だって黒潮に乗って流れてくる。船が流れてくるということは、人間も流れてくる。それは、文化も流れてくるということだ。

日本の太平洋側には、エスカレーターや動く歩道のように、海水が常に流れている、と考えたらわかりやすい。

さて、その速さはと言うと、最大流速は4ノット(約7.4km/h)だという。それはどれくらいなのかというと、人間だと早歩きから小走りくらい。

では、実際それがどんなものか? それを今まさに、実感している最中です。

ヨットにて、鹿児島から奄美大島までの島々を巡る、ウミガメ調査撮影の旅に出ていて、黒潮の上を走りまわっているからです。

潮の流れというのは、島と島の間では、複雑に向きを変え、速さを変え、常に流れています。黒潮の流れと、潮の満ち引きも作用して、3時間も4時間も同じ場所をキープするのがやっと、のような時もありました。どうやら、風を知るのと同じくらい、足元の海水の流れを知ることが大切なようです。

「上げ潮じゃ、上げ潮じゃ」日本の昔の言葉で、物事がいい方向に向かう時のこと。

僕にとっては、今が上げ潮。ウミガメ撮影調査の旅に1カ月も出ているんだから。

「上げ潮じゃ」は古来から、島国日本は、潮の満ち干きと、常に生活を共にしてきたからこそ生まれてきた言葉でしょう。月の引力、海底の地形、地球の自転などなど、いろんなものが作用して起こる潮の満ち干き。黒潮の流れを作りだすのも、やはり同じ。自然と言うのは、すごくいろんなものが作用しあって、いいバランスが出来上がっている。

黒潮に揺られていると、海というのは液体なのだなあと、当たり前だけれど実感する。そして、お母さんのお腹の中にいた頃は、こんな風に羊水に包まれていたのだろうか? とも思う。

だからなのか、ヨットで眠ると、とても良く眠れる。

明日、寝坊しないように注意だ。