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コラム

Spirit of Silence

By Troll

The Midnight Express

2009
Issue 28

ウチにとって「本」の存在は聴者と同じように楽しめるもので、いつも本のなかの世界に没頭してしまう。

日常の狭間で、主人公になった気分でトリップできる本のなかに『深夜特急』(著/沢木耕太郎)」がある。バスや列車のなかで交わる旅人との会話、食堂や道端で出逢う現地の人とのやりとりが多く出てくる。主人公は人との出会いに影響され、自分の行くルートを変更したり、旅する意味、異国における自身の立場までも考えさせられたりする。旅人同志が出逢い、時間を共有した後に「グッドラック!」と言い合い別れていく様子などは、旅する流儀のようなものが伝わってワクワクする。

ウチにとっては、異国で見かける聴者の旅人がどんな会話をしているのか興味があったので、この部分の描写が新鮮で面白い。深夜特急のような旅をやってみたくなったウチは、シンガポールからラオスを陸路で北上する一人旅に出た。マレー鉄道で隣席になった爺さんは文字が読めず筆談できなかった。だが、弁当を分け与えてくれ、持ってきたシーツを毛布代わりにしてウチの肩まで掛けてくれた。ラオスでは泥色のメコン川のほとりでのんびりとしていたら、同じように見入っていたベルギー人ヒッピーと出逢った。アジアの田舎を転々しながら絵を描いているといい、一緒に川岸の屋台でビールを飲み、お互いの旅や暮らしのことを身ぶりや筆談で話した。河原で寝転がり星空を眺めていたら、いっぱい蚊に刺されて大笑いした。そして、アドレスを交換し「グッドラック」と言って別れた。深夜特急の主人公みたいにね。

旅するキッカケとなった深夜特急は第3便の刊行から16年を経て、昨年「最終便」が発刊された。その中に「あっ」と息を飲んで読んだ一節がある。

「バスの窓だけではない。私たちは、旅の途中でさまざまな窓からさまざまな風景を眼にする。それは飛行機の窓からであったり、汽車の窓からであったり、ホテルの窓からであったりするが、間違いなくその向こうにはひとつの風景が広がっている。しかし旅を続けていると、ぼんやり眼をやった風景の中に、不意に私たちの内部の風景が見えてくることがある。そのとき、それが自身を眺める窓、自身を眺める『旅の窓』になっているのだ。ひとり旅では、常にその『旅の窓』と向かい合うことになる」(深夜特急 最終便より)