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コラム

By Ryo Sumikawa

Tokyo Onsen

2006
Issue 6

その試みを、友人Yとぼくは「東京バックパッキング」と名付けた。海外でよくやるバックパックの旅を東京でやってみたらどうなるんだろう、と思ったのだ。 ビーサン、カメラ、ゴアテックス上着、ロンリープラネット、パスポートをリュックにつめこんで家を出た土曜の朝、ぼくらは25歳だった。台風が接近していて、早朝の高田馬場は水びたしだった。池袋の温泉スタンドで服を着たまま熱いシャワーを浴び、巣鴨のトイレで拾った『SMスナイパー』を山手線内で堂々と読みふけり、アメ横で昼間から日本酒を飲み、歩きに歩いて、東京駅のガード下で麻雀をやってる不思議な4人組に「台湾から来ました」と嘘をついた。

そんなわけで夕方に『東京温泉』に着いたとき、ボロゾーキンのようにぼくらはくたびれはてていたのである。巨大なサウナ室の大画面テレビでは、丹沢の玄倉川でキャンプをしていた家族が流されたというニュース。しかし、5分が限界だった。

よろめきつつ、サウナ室を出て水風呂に入る。そのとき、ふと思ったのだ。サウナに入ってるとき、自分はギリギリまでがまんしている。それなら水風呂でもギリギリまでがまんすべきじゃないか? と。 

これが衝撃的な体験だったのである。冷水に下半身がしびれはじめたころ、肺にためこんだ息を「ふーん」と鼻から吹き出してみると、鼻孔を伝って「ひんやり感」が脳にしみこむのだ。キモチイイ。これはすごいぞと思い、息を止め、肺で空気を冷やしてみた。鼻から空気を吐くと、頭頂部がツーンとして、いよいよ気持ちいい。

そんなことをくりかえしていたら、突然、浴槽に湯を注ぐ音が急にフルボリュームで聞こえてきたのである。 ゴオオオ!

滝のような轟音が頭にしみこんできた。頭が異様にシャッキリしていた。その後、ぼくらは異様なテンションでブルーノート東京を襲撃し、マルコス・スザーノのライブを立ち見し、朝まで狂ったように飲み歩き、踊りまくったのだった。あの異様なまでのハイな感じはいったい何だったのだろう。

「日本初のサウナ『東京温泉』倒産」。

そんな見出しが2004年10月28日の朝刊に載った。バブル期の過剰投資が原因だそうだ。ただし倒産後も営業はつづいていて「日本初のサウナ(倒産中)が東京駅の地下に!」ということになり、怪しげな魅力をいっそう増したスポットとなっている。

ときどき頭の中がボロゾーキンになると、ここに行く。脳みそを冷やして地上に上がると、世界は一変しており、世の中にはきれいな女の人がたくさんいるなあぁ、などと思う。住川亮