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コラム

Japan Angler

By Abdel Ibrahim

ゴーイング・スロー・イン・湘南

2010
33 号

友達のゲリーから夜遅くに、朝一番に行けば釣れそうな動きがあると電話があった。夜明け前に合流すると一応返事をしておいたが、僕がマゴチごときのために早起きをするはずがないのはゲリーもよく知っている。事実、完璧に目が覚めたのは朝8時。なんとか車までたどり着き、茅ヶ崎港まで20分ほど車を走らせた
晴れた平日の朝で、「今日は火曜日。だから皆は仕事にいっているはず」と僕は一人でつぶやいていた。何かがおかしいと思ったけど、それが何かはすぐに分からなかった。人のいない海岸に目をやると、地球上でもっとも混んで、テンポの速い場所ががらんとして寂しげなのに気がついた。 
周囲を見渡してもゲリー以外には誰もいない。日曜日はまるでコパ・カパーナビーチと思わせるほどに込み合うのだが、48時間たった今、人っ子一人いない。そこへ僕が到着したわけだ。

戸惑いはさておき、沖にはそよ風が吹き、穏やかな波が砂浜を打ち寄せ、まさに絶好の釣り日和だった。ゲリーはすでに時々リップレス・ミノーに食いつく、ちいさなマゴチを数匹釣り上げていた。
食いつきが終わってみて、合ったルアーを持ってきていないことに気づく。でもそんなこと今日の僕は気にしない。しなければいけない事のない一日を、海辺で時々釣り糸をたれているだけでとても満足だ。
ライターだが、釣りと禅を比べるような、月並みなことはした事はないと誓う。でも経験を重ねたアングラーは、一回一回のキャストだけに精神を集中させることができると思う。泳ぐルアーの振動は糸をとおして、アングラーが握るロッドにまで伝わるのだ。

45分たったが、魚は様子見するばかりで食いついてはくれない。ゲリーは5回目を投げる。彼にとってはいいペースで、そこそこの収穫を得ているのだが、今日の僕にはそこまでやる根気がない。
スローゲームだと二人ともわかっているが、地元のゲリーはこの地域の水で長い時間をすごしているから、魚をどうタックルすればいいかよく知っている。
どうやら午前中は収穫ゼロになりそうだ。しかし自分がもっとも好きな釣りができる事に感謝したい。今日のところマゴチはサラシに残して、次の火曜日にでも早く起きることができたら戻ってきて、また挑戦することにしよう。