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コラム

By Troll

Prickly Encounters Under a Pale Moon

2006
Issue 10

「それじゃ、いってくる」
野生動物のように鋭い目をした山元親分は暗闇の海へ潜りにいった。

今回、サイレンとなお話しは小休止。ここは沖縄県・西表島の人里離れた浜。うちらは、そこでうまい魚を食べながら酒を飲もう、とキャンプにやってきた。意気込んで釣りをしたもののエサがデカすぎたのか、むなしく釣れずに終わってしまった。

「ああ、今晩は、肴なしかなあ?」
ふと横を見ると、モリを手にし水中ゴーグルをかぶった親分は、海に向かっていった。うちらの空腹と心を満たすため、なんと夜中に魚突きに潜ったのだ。

新月なので海は暗黒の闇の中。潜水艦のように入ってしまう、そんな彼は島にある「南風見ぱぴよん」でシーカヤック・ガイドをしているが、ハブ捕りを生業にしている。ジャングルの生い茂る山奥のハブの生息するポイントに早く行くために、シーカヤックを移動の手段にして浜からアプローチする。西表島の山も海も縦横無尽に動きまわる彼は、まさに野生人そのもの。だから師匠としての尊敬を込めて「山元親分」と呼ばせてもらっている。

しばらくして黒い影が陸に上がるのが見えた。彼の手には獲物が。それは沖縄の方言で「アバサー(和名・ハリセンボン)」だった。アバサーとは「フグの仲間」だが無毒で腹側が白く背が灰色っぽく、皮膚には300~400本ぐのトゲが栗のイガのように、つきたてている。

アバサーはモリの剣先で突かれていたが生きていた。その頭部を刺すと、怒涛の如く体中のトゲが針のように立ち、デカい目玉がギロリとこちらをにらむ。そんな目を見るのは初めてで、緊張した空気が流れるのを感じた。貝でも噛み砕けるほどの頑丈な歯に石を噛ませ、危険な口の周りを切り裂くと中から大量の海水が流出する。次にナイフで皮をはぎとると、コートを脱いだような白い体が現れた。続けて、腹を裂いた親分の手から袋のようなものが。「それは卵だよ」もし獲らなければ、卵がいっぱい孵ったのかもしれない。

水をたっぷり入れた鍋に入れ、焚き火で煮込む。やがて沸騰し、炎と煙の中でアバサーはスープになった。親分を介して、うちらはアバサーに養ってもらったのだ。目の前の海面の下では生きもの達が、食うか食われるかという関係の中で連鎖しあっているのだろう。この夜の事は、ウチの頭か離れそうにない。