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コラム

By Troll

Natural Mystic or The Naked Truth

2007
Issue 17

真っ黒の手が差し出した、ベコベコにくたびれたコッヘル。中には小さな青い実がいっぱい入っていた。見上げると、その全身ハダカの男はシワだらけの顔を思いきりすぼめこみ、思いっきり“すっぱい”表情をした。その実は「シークァサー」。南の島のレモンのようなものだった。シークァサーを頬張った彼は、すぐに「6時になると虫がいっぱい来るからテントに入った方がいいよ」と言い、自分の棲家へと消えていった。

ここは、アマゾンの山奥でも紀元前の石器時代でも、もちろんない。彼は今も日本という国で、全身ハダカで暮らしている。 

ウチは、相棒のミホとシーカヤックで沖縄の離れ小島に上陸していた。そこへ先ほどのハダカ男がやってきた。町なら、あっというまに逮捕されてしまうだろう。しかし、あまりにも自然に溶け込み、“恥じらい”を感じる方がかえって変じゃないかと思えた。 

浜から森の茂みに少し入ると、4人用テント3つぶんほどの大きさの彼の棲家「森の御殿」があった。そこには雨水を貯めるところ、食料を保管するところ、台所、寝室。それは生活するための最低限必要な空間だったが、快適な感じがした。  

浜からここまでの道だけが足跡によって踏み固められている。彼が歩くことによって、道が出来たことがよくわかる。彼は、ウチらが今晩泊まるための最適な場所を選んでくれ、そこにテントを張った。 

水平線上にある空と海だけの景色。夕焼け色が微妙に変化していくのを眺めながら、ミホとビールを飲んでいるところに、彼がシークァサーをもってきてくれたのだった。

彼とのコミュニケーションは、筆談でも、手話でもなかった。身振りが主だったが、何か動物的なテレパシーを感じた。きっとスピチュアルな何かを持ちえて、生き物や海や空など自然と会話しているんじゃないかと思うんだ。

約束の6時。どこからか黒帯のようなものがやってきた。よく見ると親指大のカナブンのような虫が大量に海の彼方から飛んできた。思わず伏せてしまうぐらいの大群。何ごとが始まったのか理解さえできなかった。しばらくすると、嘘のように、その虫は消えていなくなった。

「????。。。」

彼は時計も持っていないのに、約束の時間をピタリと予告した。そのスゴさに、ミホと興奮して語らう。 

ぬるくなったビールをあけながら、月が海面を鏡のように照らし出すのを見つめる。そうか、今日は大潮、満月だったのだ。潮はどんどん満ちてきて、気がつくと、テントのすぐそばまで押し寄せてきた。慌てて、あたりの荷物をテントのなかに放り込む。ギリギリのところで潮は引き始めた。もしハダカのおっちゃんが選んだ場所でなかったら、今頃、浸水していただろう。 

次の日。シーカヤックで帰るウチらを、おじさんは、相変わらず全身全裸で見送ってくれた。気がつくとリーフで座礁してしまい、カヤックの底に穴をあけてしまった。携帯電話で潮汐時間を確認したのに。。。デジタルに頼らず、彼のような完璧なセンサーが欲しいな、と思うのだった。