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コラム

Faces in the Crowd

By Rob Volansky

The Great Ballini

2007
Issue 18

プライベートとクリエイティブな仕事を曲芸師のように操るうちに、故郷のハンガリーから、カナダ、アメリカと渡り歩き、北海道の小さな町へと定住したステファン・ベル。刺激に満ちた生活を送る彼に話を聞いた。

ステファンは14歳のとき、右手を使うことを覚えた。
「左利きだったからだよ」と、何のことはないように言う。
「ただ、やってみようと思っただけさ」
時間を早送りすると、ステファンは現在59サイダが、年齢の半分しかない若者のように若々しく見える。毎日2〜3時間、ジャグリングの仕事をしつつ、レパートリーのトリックを完璧にしながら、新しいレパートリーを加えていく。

数年に一度、ショーの内容を変えて新しさを保っている。彼は、「ジャグリングは、体の左右均等にトレーニングしてくれるし、左脳と右脳の両方を刺激してくれる」と説明する。

「たいした運動じゃないけど、力と集中力が必要とされるんだ」

なるほど、14歳にして両方の手を使えるようにしたいと思ったわけがわかった。彼はジャグリングを自分の可能性を試すだけでなく、障害を持った人にジャグリングを教えて楽しまさせたり、障害を乗り越える訓練に役立ててもらっている。人前でパフォーマンスをすることも、ステファンは大好きだ。道内の町の小さな祭りから、企業主催のパーティーにも出演する。昔はノーミスだったが、今は40分のショーで2〜3回ミスしてしまうという。
   

「ミスをカバーするようになって、ひとつ上手になったことがある。ユーモアのセンスだよ」

なんでも屋・ステファン

ステファンは今日まで、いつも何かしらのパフォーマンスを行ってきた。以前は、絵が上手だったことから壁画家をしていた。今でもバンクーバーには、彼の描いた絵がビルの壁に残っている。しかし、壁画の仕事はうまくいかず、ニューメキシコのタオスに住むことになる。そこでは、現地の建物の自然美に魅かれ、アドビーハウス(日干し煉瓦を積み上げたり、木の柱を組み、その周囲に泥を塗ってつくられるサンタフェ地域で多く見られる家屋)のつくり方を学ぶことになった。彼はアドビーハウスづくりに、のめり込んでいった。

「僕が手がけている家を見た人の話が噂となって、それがどんどん広がっていって仕事になっていったんだ」仕事が追いかけてくる人なんて、何人もいない。すごいことだ。ジャグリングと同様、動機には理由がある。藁の断熱材や泥壁を使った建築方は簡単に習得できた。それに、環境的に優しく、素晴らしい体験であると思ったのだという。大変な仕事だが、彼にとってはとても楽しい思い出だ。
若い頃の体操。飛び込み、太極拳……。中年になってからの体験。サイクリング、ジャグリング、建築などなど。美術の教師にもなったが、人前でのパフォーマンスが次のステップ。絵画とピアノの趣味は続けている。興味の対象は多岐にわたる。才能豊かな人物だ。

故郷と外国での生活

「ぼくは自分のことを”なんでも屋”と言っている」
奥さんのケイトは陶芸家。北海道の三河で、3つのビジネスと彼女と行っている。仕事場の一角には、ケイトさんの陶芸と販売用のインドネシアやモロッコの輸入雑貨がおかれている。
店の前のデッキには、オーガニックのホームメイド・デザートが味わえるコーヒーショップ。輸入雑貨コーナーを泥壁でリフォームしたが、店内は完成することがなく、いつも何か手が加えられている。
ステファンは将来について、はっきりとした計画は立てていないという。ステファンとケイトは冬の3ヶ月間を、家を建てているニューメキシコで過ごす。輸入ビジネスで行くバリも大好きで、そこで冬を越すのも悪くないと考えている。しかし、三河でのビジネスはとてもうまくいっているので、日本を一生離れることはないだろうと思っているという。ステファンは、北海道での生活を大いに楽しんでいるのだ。
「温泉は最高だね……。あと、車のキーロックをしなくていいなんて考えられないよ」

ステージネームはどこから

普段は、ジャグリングの仕事で大変忙しいステファン。インタビューが終わる頃、彼のステージネーム「バリーニ」について話が弾んだ。17世紀のイタリアの道化師の名前から、といった話をするのだろうと想像していたのだが、ステファンははにかむ。
「バルは、ジャグリングで使うボール。で、イタリアっぽくしたかったから,
バリーニ。それだけだよ。それで“ザ・グレート・バリーニ”になったんだ」
よく考えた名前とはいえないけど、簡単なほうがストレートでいいのだろう。ジャグラーたちは仮面となるパルソナに凝る人が多い。だが、ステファンは、そういったことに興味がない。禿げた頭、7つのイアリングがされた耳だけでも目立つ。そのうえ表現豊かで、優しそうな笑顔。それらが観客をひきつける。
そろそろ帰えろうとしていたとき、剣玉をやってみた。見本をみせてくれる。敏捷な動きと、教え方のうまさはさすがだ。