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コラム

Finding Flow

By Mitsuharu Kume

The Eight Winds

2008
Issue 23

「おっ、来るかー。でもなぁ〜」
天気予想図に台風を見つけた時の、嬉しくもあり、勘弁してくれ、といった感情だ。サーフィンが好きなので、 日本付近で発生する台風にはワクワクする。でも、海で魚を獲る仕事もしているので、喜んでばかりいられないのだ。

海から食べ物を獲 る。この仕事は、とても動物的で、自然界の一部のような気がして、楽しい。でも、自然の力の大きさには敵わないので、台風が来るとなれば、仕掛けてある大 型体育館ほどの箱型の網と、500mものカーテン状の網を引き上げなければならない。その作業は過酷で、その間、魚が獲れないというダブルパンチなのだ。

い いこともあれば、悪いこともある。台風が来ると、いつも風の強まりとともに身の回りが慌ただしくなり、波への期待感から気持ちが高ぶってくる。

「来 週、この島から出ようと思う」
近所の写真館の店主が、突然そんなことを口にした。彼は離島の小さなこの町に、初めて写真館をつくった父を持つ二代 目。商店街に向かう道の脇にある、昔からの小さな写真館は、5〜6年前の大型台風で店の看板が壊れてしまった。それからというもの、この店が写真館だと知 らない人も多い。それくらい門構えには無頓着なのだけれど、写真のプリント技術と撮影知識には精通しているから、馴染みの客も多い。独学で写真を覚えてき た僕にとっては、頼れる写真の先生なのだ。しかし、デジタル化という写真界の大型台風の波に乗れず、というか乗るつもりもなく、フィルム職人は仕事を失っ ていく……。


その話しを聞いて、何か風にまつわるいい言葉がないか? 時折紐解く『禅の言葉』という本を取り出してみた。
「八 風吹不動(はっぷうふけどもどうぜず)」
「八風」とは、人の心を惑わし、あおりたてる八つのものをいい、意にかなうこと、意に反すること、陰でそ しること、陰でほめること、目の前でほめること、目の前でそしること、心身を悩ますこと、心身を喜ばすこと。風向きが変わるたびにグラグラ揺れ動かないよ うに、確固たる信念、不動の心を持とう、という意味だそうな。


物事がいい方向に向かうときに使う昔の言葉。
「上げ潮じゃ、 上げ潮じゃ」
自然界にも、人生にも、たまに台風はやってくる。それを経験するのはきっと「上げ潮」なこと。写真館を閉めようが、それは次の新しい 人生への転機。僕にとっても、写真の先生が身近にいなくなれば、“自立しなさい”と言われている気がしてくる。

 

さて、網上げ作業も 終わったし、台風の波にパドルアウトしよう。八つの風に吹かれても動じない心を持つために。(久米満晴)