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コラム

Spirit of Silence

By Troll

Lightning Strikes

2008
Issue 24

ウチはろう者なので、めいいっぱい目で見える部分だけがすべてだ。遠くで何が起きているのか大抵は目視で把握する。密林のなか、木の向こう側にうごめく物 体があり、それがなんだか確認できないと気になってしょうがない。頭上や背後から黒い陰影のようなものに圧迫される感覚があって神経をリラックスさせるこ とができないのだ。

キャンプの極上物件は目前に海が見え、歩いていける銭湯があり、冷えたビールが手に入るちょっとした売店があること。 それに、「視界が開けているか」ということがもっとも重要だ。そのために、なるべく陽が射しこみやすいように、木がまばらに生えている場所を見つける。開 放されているというのは大切な事なのだ。

けれども、そうした場所でも色々な失敗をする。野良犬がやってきてテントにオシッコをかけられた り、風やカラスに食べ物を持っていかれたり。アリやヤドカリに、いつのまにかコッヘルの中を占領されていたこともあった。

広島県宮島の キャンプ場ではシカの群れが森に潜んでいた。真夜中にシカの侵入があるかもしれないと思い、木台の上にテントを張ったら、やっぱり寝ている間にやってき た。シカの足音は床板に響き、その振動が背中に伝わった。もしシカのツノでテントを突き破られたら大変だ。こっちは寝ていて、無防備なのだから。瞬時に相 棒のミホがゲンコツで床板を叩く。シカは驚いて、一目散に逃げていった。

ある日は広い芝生の上で気持ちよく寝ていた夜、記者会見のような フラッシュを突然浴びせられた。それは約5秒おきに続き、止まる気配がない。音がないのでフラッシュの正体がわからない。
眠い目をこすりながら ジッパーを開けて見る。すると、それはカメラマンの大群ではなく“稲光”だった。空一面に放つ閃光は一瞬にテントを溶かしてしまうような光景だ。シュラフ を頭上まで覆い隠して目を閉じても、強烈な光線を感じる。あまりの怖さにテントを支えるポールから離れてテントの中央にうずくまる。悪夢のような光のイタ ズラが収まった時にはすでに朝になっていた。抜けるような平穏な青空がとてもありがたかった。

うちらは手話で話すが、時々言葉にならない 笑い声がテントの外にもれる。だから、中の灯りがついて、ゆれているのに話し声のないテントは、不気味がられることもある。もし、あなたが旅先でこのよう なテントを見かけたら、どうか怖がらずに。筆談ノートを片手に呑み語りましょう。