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コラム

High Tide

By Mitsuharu Kume

Tsukiji Market

2008
Issue 24

「築地市場」

僕は人口3万人あまりの南の島に住んでいる。そこでの暮らしが長いと、たまに東京を訪れたときの衝撃はなんと大きいことか。なにしろ、人の数が多いのである。その人の波に揉まれ、地下鉄のホームへの階段を降りて、思った。

「この人たちのなかに、人間という動物として生きていくための活動をしている人がどれだけいるのだろうか?」と。

みんなワイシャツにネクタイを締め、くたびれた顔をして、地下鉄に吸い込まれていく。太陽の光を避け、温度調節の効いた空間で働く。革の靴を履き、コンクリートをコツコツ歩き続ける。そのなかに、畑で野菜や穀物を生産したり、海から魚介類を獲ったり、肉となるものを育てたり、といった生命力のある人を見つけることは難しい。

とはいえ、そうした人たちがいるからこそ生産者は生きていける。それは、事実だろう。日本の台所、築地市場には日本各地から魚類が運び込まれてくる。観光で日本を訪れる外国人のガイドブックには、有名な「おすすめスポット」として掲載されているというから驚きである。最近の日本食ブームもあってか、外国人観光客の多さから、見学用エリアが設けられているという。

僕はある時期、築地市場でアルバイトをしていたことがある。生マグロの卸し問屋で、競り落としたマグロを運んでくることがおもな仕事だった。細い通路が碁盤の目のようになっていて、人で溢れ、日本というよりもアジアを感じるところである。確かに外国人受けするのも頷ける。

でも、実際に築地市場を見たことがある日本人はどれだけいるだろう? 僕は、もっと多くの日本人が見るべき世界だと思う。そこに集まる魚介類を獲るために、自然のなかで時には時化と闘い、原油高に悩まされ、汗水垂らして働いている人がいることを感じるべきだろう。品質、安定供給、安さばかりを追い続け、後ろにいる第一次産業従事者が重宝されない社会は、やがて崩壊する。

日本人も外国人も、早めに築地を訪れることをおすすめする。東京オリンピックを誘致したい東京都は、立地の良さと、施設の老朽化から、築地市場を台場に移し、選手村や体育館建設の計画を進めているといわれているからだ。新鮮な食材でお腹を満たしながら、第一次産業の大切さについて考える機会となれば、きっと日本は上げ潮になる。